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8月15日 夏休み、隣の席の女の子と花火を見ました。

今日は昨日言われた通り、和奏は朝から栞の家に行っている。

物静かな家に少し居心地の悪さを感じながらも俺は残っている夏休みの宿題に向かい花火大会までの時間を潰した。


お昼を少し過ぎた頃に栞から、


『18:00頃に私の家に集合!!

 格好はよく考えるように。』


というメッセージと地図が送られてきたので、俺はよく考え、その時間に合わせて身支度を済ませて家を出発する。


慣れない格好に少し違和感を覚えながらも、家を出ると浴衣姿の人たちが沢山いてそんな不安も吹き飛び俺は栞の家に歩いて行く。


予定より少し早く栞の家に到着をしてインターホンを鳴らす。

中から返事をする声と共に栞が玄関のドアを少し開けて顔を覗かせてくる。


「お~。正解正解。こっちも準備できてるよ。」


栞はそう言って玄関のドアをすべて開けると、俺はその奥のものに見とれてしまった。


申し訳なさそうに少し顔を赤くして俯いて立っている彼女、和奏は黒地に赤い濃淡の萩柄の浴衣に身を包んでいた。

赤い縞の単衣帯も良いアクセントとなり、より和奏の顔を際立たせていた。


「ど、どうかな?」

「か、可愛いと思う、よ。」


俺たちはたどたどしい会話をして、沈黙が生まれる。


「ほら、花火大会始まるよ!行った行った。」


沈黙を見かねた栞に俺たちは無理やり追い出され、花火会場まで向かった。

神社に続く道の前から屋台がチラホラ見え始めた。


「大地!あれ買いたい!」


和奏が指さしたのはお面だった。

彼女は走って行き、狐のお面を手に取ると、お店のおじちゃんに話しかける。


「おじちゃん、これ一つちょうだい!」

「ええぞ!嬢ちゃんベッピンさんやから無料にしたげるわ。お面も嬢ちゃんにつけて貰えて嬉しいやろうしな。」

「ありがと!!」


和奏は俺の方を見て、満面の笑みでピースをしてくる。

俺は今一つ現代の闇を見たのかもしれないと思いつつも、再び屋台の道を二人で歩き始めた。


二人で歩いている間も和奏の方を見ようとしたが、何度見ても彼女の浴衣姿は直視することが出来ずふと左をみると、りんご飴の屋台が出ていた。


甘いもの好きの彼女は喜んでくれるだろうか。

彼女の喜んだ顔が見たい、そう思い、行列に並んだ。


りんご飴を購入し終え、ふと隣を見ると和奏の姿が見当たらなかった。

まさか見失うとは思わなかった。

そもそも彼女は自分と二人きりなんて嫌だったのかもしれない。

彼女と2人きりなんて到底おこがましい話だ。

俺は夢を見すぎていたのだ。


でも。


万が一和奏がはぐれて1人哀しんでいたら......?


買ったりんご飴を握りしめて走り出す。


屋台の通りは一通り見た。......いなかった。


「もうすぐ花火が上がるな......」


一緒に見たかったな......なんて。

もう帰っちゃったのかな。


そんな時俺は閃いた。

人混みをかき分けながら俺はその場所へ走って行く。


階段を上った先。

暗がりの中でその姿が見えて、俺は思わず声を上げそうになった。

近寄っていく。

狐のお面を被った和奏は泣いていた。

泣かせてしまったことに酷く罪悪感を覚えた。

泣かせないと誓ったはずなのに。


手に持ったりんご飴を見つめたが、渡し方が分からない。


なにか気の利いた言葉のひとつでも思いつけばいいのに。

彼女を前にするといつもこうだ。


遠くに見える提灯。

微かに聞こえる人の声。

僅かに見える屋台。


今日だけは祭りの雰囲気に呑まれて仕舞おうか。


意を決して彼女のお面を押し上げる。


そっとキスをした。


「泣いてないでこれ食べろよ」


花火が上がった。


自分の顔は呆れるほど真っ赤だっただろう。







――――――――――――



残り16日。

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