第3.0話 その着せ替え人形は綺麗になりたい
【髪型】
【化粧】
→【小物】
食事が終わり、飲み物を追加注文して安曇を待っていると、バイトが終わった安曇が私服姿に着替えて席にやってきた。
比較的ラフな格好ではあるがメガネはしておらず、髪型もサイドテールのままだった。
そんな安曇に紅月さんを、紅月さんに安曇を紹介する。
「初めまして。紅月朱音と申します」
「安曇玲香と言います。よろしくお願いします」
簡単ではあるが自己紹介を済まし、俺は安曇の美容に関する事を紅月さんに説明し始めた。
間違った事を言っていないか確認するため、何度か安曇の方を見たのだが、隣に座った安曇は聞いているのかいないのか、ジーっと紅月さんを眺めるだけだった。
「――――まぁそんな感じで……いいよな? 安曇」
「…………」
「……安曇? 聞いてんのか?」
「……きれ~」
ぼけーっと紅月さんを眺めていると思ったら、紅月さんの美貌に目が眩んでいたようだ。
確かに紅月さんは美人だが、女性すらも虜にするとは。
「ありがとうございます。あなたもお綺麗ですよ」
「あっ……す、すみませんジロジロと! その、あまりにもお綺麗で……」
「若くて可愛いあなたにそう言って頂けると、自信がつきますね」
「そんな! 朱音さんだって若いじゃないですか!」
全然俺の話など聞いちゃいないようだ。俺には目もくれず、まるで俺なんていないような感じで朱音さんと話していく。
引っ切り無しに質問し、回答に目を輝かせる安曇は年相応の女の子といった感じ。
俺はアイスコーヒーをチビチビ飲みながら二人の会話を聞く事しか出来なかった。
「あたし、どうしても綺麗になりたくて」
「十分お綺麗だと思いますよ」
「ありがとうございます。でも、もっと……もっと見せたいんです」
「見せたい……ですか」
「はい。だからお化粧とか美容とか、もっと勉強して、もっともっと知りたくて。そのためにバイトもしてます」
随分な熱の入れようだと思った。そりゃ女性なら綺麗になりたいとは思うだろうし、そのために努力している子も大勢いる事だろう。
だが高校生と言えば、そればかりにかまけてはいられないはず。学業や友人関係、将来の事。
周りに合わせるため、本意ではない流行に乗るためにお金を使う必要も出てくるだろう。
安曇は見せたいからと言った。それはつまり自分のためではなく、他人のために頑張ろうとしているという事だ。
「私で宜しければ、ご相談に乗らせてもらいますよ」
「本当ですか!? ぜひ、お願いしますっ」
化粧品や耳についているピアスだって安くないだろう。バイトで得たお金も、美容関係に随分と投資しているようだし。
恋する乙女という事だろうか? 誰かのために綺麗な自分を見せたい、他の物を蔑ろにしてでも美を追求すると。
まぁ、俺も似たようなもんか。俺のは安曇のとは違って、夢物語ではあるが。
「あの……今日、この後とかって」
「安曇さんが宜しければ構いませんよ? 行人さんもそのつもりで声を掛けたようですので」
「え? あなたも来るの?」
久しぶりにこっちを見たと思ったら、安曇は中々に嫌そうな顔をしていた。
まったく、そもそも誰のお陰だと思っているんですかね、この子は。
「もちろん行きますぅ! というか、俺が行かなきゃ紅月さんは仕事をサボる事になるし」
「な、なによそれ? あなた達ってどういう関係なのよ……」
こうして三人で安曇の化粧品などを選びに出かける事になった。
なんだかんだ嬉しそうにする安曇を見て、声を掛けてよかったと思うし、少しでも力になれればと思う。
でもなんでだろうな? 安曇はどこか、焦っているようにも感じられた。
――――
――
―
なんでこうなったのだろう?
「じゃあ……これは?」
「凄く可愛い」
化粧品や美容品を見に来たのではないのか?
「これは……?」
「とても可愛い」
紅月さんは隣で微笑んでるだけだし。
「どうかな……」
「めっちゃ可愛い」
まぁ、俺は目の保養になるしいいんだけど。
「……どう」
「どうしようもないほど可愛い」
でもさぁ、真っ赤になって俯いて、もう爆発しそうなんだよね。
あぁほら、パンクしちゃった。
「もうっ! 可愛いばっかりじゃないっ!」
「そんなこと言われても、可愛いんだから仕方ない」
現在、安曇のファッションショー中。
紅月さんが選んだ服を、次から次へと着替えては俺に見せてくれる安曇。
初めは澄ました顔をしていたが、回数を重ねる毎に少しづつ顔が赤くなっていき、ついに爆発。
その様子が可愛いと思って、可愛いと言っていた。
「他にないの!? 色とかデザインとか組み合わせとか!」
「俺は服じゃなくて、それを着ている安曇が可愛いって言ったんだ」
「それはっ……あ、ありがと」
「デレた」
「デレてないっ!」
そんなやり取りを挟みつつ、ファッションショーは続く。
どうやら安曇の可愛らしさにハマってしまった紅月さんが、気合いを入れてしまったそうだ。
「これとこれなら、どちらがいいと思います?」
「絶対こっちですよ。安曇にはこっちの方が似合います」
「…………」
「スタイルも良いですからね、こういう服も着こなせるでしょう」
「おぉ! 可愛い! じゃあこれにキャップ被せて……可愛すぎワロタ」
「~~~っ」
俺もハマってしまった。
しかし全然喋らなくなったと思ったら、もう面白いくらいに真っ赤になり挙動不審になっている安曇がいた。
その後、よく似合っていたと思われる洋服を紅月さんが安曇にプレゼントしていた。
安曇は断っていたが、着せ替え人形にしてしまったお礼だと、紅月さんが珍しく強引に受け取らせていた。
「では次は、化粧品を見に行きましょうか」
「よ、よろしくお願いします……」
なんか安曇は少しげっそりしていたので、気になった俺は声を掛けた。
「どうした? 腹でも痛いのか?」
「アンタが可愛い可愛いうるさいからでしょ……」
「可愛いんだから仕方ないだろ」
「……アンタとパパくらいよ、そんなに言ってくるの」
そんな訳ないだろ……と言おうと思ったのだが、どこか沈んだ表情をする安曇を見て言葉が引っ込んだ。
もしかすると、面と向かって言われる事は案外少ないのかもしれない。
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