バッド選択・迷走 ~手遅~
一話に纏めたので少し長いです
二人の事を探し回り、やっと見つけた雪永先輩。
縦山先輩と一緒のようで、何かを話し合っているような雰囲気だったので黙って待つ事に。
しかしそう決めた時、話題は雪永先輩のスマホへと移った。
先輩はすでにスマホに変えていた。俺と変えるはずだったのに、俺が選んであげるつもりだったのに。
雪永先輩が、嬉しそうにスマホを手で抱え込んでいる姿を見て、俺は動けなくなってしまった。
「もしかしてそのカバー、プレゼントだったり?」
「そ、そうね」
顔を赤くする先輩の表情は、初めて見るものだった。それは縦山先輩も同じだったのか、僅かに驚いているように見えた。
雪永先輩が、そのプレゼントを喜んでいるのは間違いなさそうだった。
俺だってプレゼントを考えていた。少し違ったなら、あの笑顔は俺に向けられていたはずなのに。
「ははは。会長のそんな顔は、初めて見ましたね」
「からかわないで頂戴……」
「もしかして、お気に入りの彼からですか?」
「え、えぇ。まぁ、そうね」
俺はそんなものプレゼントしていない。
返答が面倒になり、適当な嘘を吐いたのだろうか? でも先輩は嘘が嫌いと言っていたが。
「でも最近は来てませんよね、彼」
そうなのだ。色々あって、生徒会の手伝いはご無沙汰だ。
「来てるわよ?」
「え?」
え? いや、俺は行ってないぞ。
雪永先輩、嘘が嫌いとか言っておいて結構嘘を吐くじゃないか。
「最近、手伝いに来てました? しばらく見た記憶が……」
「しばらくって、この前も来たけど……ああ、あなた達には紹介してないものね」
紹介していない? 確かに生徒会の人達の前で、ちゃんとした紹介はされていないけど。
少なくとも縦山先輩には紹介された記憶があるんだが。忘れているだけだろうか?
「……会長? 会長のお気に入りって、天道君ですよね?」
ドキッと胸が高鳴った。縦山先輩から間接的に聞かされていたとはいえ、雪永先輩の口から聞くのは初めてだ。
俺は固唾を飲んで雪永先輩の言葉を待った。やはり本人の口から聞くのと誰かに聞かされるのじゃ訳が違う。
そして雪永先輩は、その言葉を口にした。
「――――え? 違うけど」
(はぁぁぁぁ!?!?)
雪永先輩はハッキリ、俺ではないとそう言った。
迷っている素振りも、動揺している様子もなく、淡々と雪永先輩は言葉を続ける。
ショックを受けた俺は、ただ黙って聞く事しか出来なかった。
「正確には、今は違う……かしら?」
「……彼と何かあったのですか?」
「そうじゃないわ。他にお気に入りが出来たの」
「はぁ……彼には聞かせられないですね」
俺が聞いているなんて思ってもいないのだろう。
縦山先輩は少し呆れたような表情をしているが、先輩はいにも介してない様子だ。
他のお気に入りって……誰だ? アイツか……? いいやそんな訳が、考えたくもない。
「……まぁ、お気に入りとは少し違うのだけどね」
「何か言いましたか?」
「別に何にも」
「そうですか。ところで会長のお気に入りって、もしかして――――」
縦山先輩がそれを口にしたと同時に、聞きたくなかった俺は慌てて会議室から離れた。
気になるのに聞きたくない。分かっているのに認めたくない。
また再び、雪永先輩のお気に入りになる事を夢見ながら、現実から目を背けた。
――――
――
―
あれから俺は、何も考えずに歩き続け、気が付けば下駄箱まで来ていた。
先程の雪永先輩の一件がよほど堪えたのか、俺の心が無意識に帰りたがったのかもしれない。
なんて意味の分からない事を考えていた時だった。
「ほんとムカつく! なんなのよあの態度!」
「ま、まぁまぁ。きっと忙しかったんだよ」
玲香と華絵の声が下駄箱から聞こえてきた。
二人の姿は見えないが、下駄箱にいるという事は帰るのだろう。
時雨の事を探したい気持ちもあるが、もう諦めて二人と一緒に帰るのも有りかもしれない。
時雨を探してマネージャーの事を説得するか、二人に謝り一緒に帰るか。
――――時雨を探す――――
やはり、時雨を探そう。
二人には申し訳ないが、時雨の事をこのまま放って置く訳にはいかない。
このまま何もしなければ、間違いなく時雨は辞めてしまうだろう。
それを考え直すように説得出来るのは俺だけだと、時雨を探すために下駄箱を後にした。
下駄箱で、時雨の靴がまだある事を確認した俺は、時雨の教室に足を運んだ。
黙って下駄箱で待ち伏せれば良かったのだと気づいた時は、もう時雨の教室の目の前まで来ていた。
またすれ違ったらどうしようと、そんな事を考えながら教室の扉を開ける。
するとそこには、椅子に座って何かを書いている様子の時雨の姿があった。
「し、時雨。ちょっといいか?」
「えっ天道先輩……? ど、どうしたんですか?」
驚いた様子を見せた時雨は、書くのを中断し俺に向き直ってくれた。
その表情は強張っているようにも見えたため、あまり近づかずに時雨に話し掛ける。
「なぁ時雨。マネージャーの事なんだけど……」
「…………」
目をキョロキョロさせ居心地が悪そうな時雨。
そういう反応をするという事は、やはり辞める方向で考えているのだろう。
「辞めないで……ほしい」
「えっと……」
「時雨に辞められると困るんだ。サッカー部の皆も、そう思ってる」
「…………」
「色々と悪かった。これからは心を入れ換えて、行動で示すつもりだ。だから……」
「……今更……な事……」
小さく呟かれた声は聞き取れなかった。
時雨は顔を歪めて、苦しそうな、泣いてしまいそうな表情だったが、何か覚悟を決めたような表情になると、ついに声を出した。
「……ごめんなさい先輩。私、もう決めたんです」
「…………」
「悩みました。でも決めました。私は、サッカー部を辞めます」
「っ」
時雨にしては珍しい、ハッキリとした口調。
それは意思の強さを物語っており、ちょっとやそっとの事で考えを改めるとは思えなかった。
「悩んでいた理由も、サッカー部のためとかじゃなくて、罪悪感から逃げたかっただけの最低な理由なので」
「罪悪感……?」
「無責任すぎるのかなぁ~って。でも、そんなのないって言われたら、本当にもう何にもなくなっちゃいました、続ける理由」
「言われたって、誰に……」
俺の問いには答えず、時雨は机に置いてあった用紙を取ると、そのまま立ち上がった。
チラッと見えたそれは、退部届けだった。
「これからこれを提出してきます。だからすみません――――もう知らねー、です」
最後にニコッと笑った時雨は可愛らしく、晴々とした表情をしていた。
そんな時雨を手放したくない俺は、自分でも最低で、カッコ悪い事を口にしてしまう。
「お、俺が頼んでもダメなのか!? 時雨がマネージャーになった理由は、俺なんだろ!?」
いきなり大きな声を出した俺に驚いたのか、足を止めた時雨はビクビクしながら俺の目を見てきた。
「あ、あの……なんの事ですか……?」
「な、なんの事って……東森達から聞いたんだよ。時雨がマネージャーになった理由、俺が気になったからだって」
言ってしまった。こんなにダサい事はない。それを分かっていても言わずにはいられなかった。
しかし次の瞬間、俺はもっとダサい状況になる。
「あの……天道先輩じゃないですよ? 私が気になっていた先輩って……」
「…………は?」
「その……外川先輩です。外川海先輩」
「海……?」
頭の中に、イケメンでサッカー部のエースである友人の顔が浮かんだ。
アイツは確かにモテる。時雨が気になってしまうのも無理はない……って、そうじゃない!
なんだよそれ? 滑稽すぎるじゃないか。俺ってただの……馬鹿じゃないか。
言われた事をただ鵜呑みにして、ただいい気になって。
「まぁその……すぐに幻滅しちゃったんですけどね」
「…………」
「それに今は、他に気になる先輩が出来て……だってサッカー部の先輩達と全然違うんですもん」
「…………」
「実はその人にマネージャーの事も相談に乗ってもらったんです」
「そいつが……」
「あ、内緒にしてくださいね!? すみません先輩、それじゃあ失礼しますっ」
あんなに元気な子だったのかと思う暇もなく、時雨は教室を飛び出していった。
俺はしばらく動けず、教室の壁にもたれ掛かる。
道化も道化。俺は何をしているのだろう?
雪永先輩のお気に入りの座からは転がり落ち、時雨が気になっているのは自分だと勘違いをし。
どこで何を間違ったのか……思い当たる節は、ないわけではなかった。
――――もう諦める――――
やってらんねぇ。
先輩に謝るとか、時雨を説得するとか、どうでもよくなった。
――――
――
―
1年生の教室にずっといる訳にもいかず、俺は重くなった足を引きずり下駄箱に向かっていた。
これからどうするかといった考えなど纏まらず、半ば放心状態で下駄箱に向かう途中だった。
薄暗くなった廊下の向こう側から、楽しそうな声を弾ませながら誰かが近づいてくる。
今しがた聞いたばかりの声、誰が近づいて来るのかはすぐに分かった。
「地道、お前かよ……」
視覚的にハッキリと分からせられた。先輩のお気に入りが誰で、時雨の気になる人は誰なのかと。
そこにいたのは地道行人に腕を絡ませ、そのまま地道にしなだれ掛かる雪永睦姫と時雨愛莉だった。
地道行人が、先輩のお気に入りの人で、時雨の気になる人。
全く予想していなかったといえば嘘になる。以前見かけた三人のやり取り、あれがどうしても頭から離れなかった。
――――なんでこんな事に。
ついに突き付けられた現実。頭のどこかで予想していたが、逃げるように答えを出すのを放棄していた。
しかし、もう否定できない。
なんて光景だよ。なんでよりにもよって、その二人なんだよ?
二人は俺の特別だった。下手に二人を意識してしまっていたせいで、下手に二人に近かったせいで。
なんで隣にいるのが、そんな表情を向けられているのが俺じゃないんだ。
そんな事を思っても、もう手遅れか。俺が二人に手を伸ばした所で、もう届かないのだろう。
気に入っている、気になっているなんていうレベルじゃないじゃないか。
見た事もない表情、態度、仕草、雰囲気。なにより二人の目が恋する乙女だ。
俺が入り込める余地なんて、ない。
――――だけど、気に食わねぇ。
俺が次に思ったのはそれだった。俺は二人を失い、地道はその逆。
その時、少し前の地道との会話を思い出した。
失う。地道は確かそう言っていた。
失うとは、この二人の事だったのか? なんでそんな事が地道に分かる?
そんなの決まってる、こいつが何かしたからだ。
こいつのせいで、俺は先輩のお気に入りでいられなくなり、時雨はマネージャーを辞める事になった。
そうだよ、全部――――
「――――お前のせいかよ!?」
俺が失ったのは、全部こいつのせいだ。こいつが、俺から二人を盗ったんだ。
悪いのは全部こいつだ。こいつがいなければ、違った結果になっていたに違いない。
そう思うと、随分と楽になった。間違いも、勘違いも、惨めさも、滑稽な自分も。
――――俺のせいじゃない。
「この道はもう続かない。他の道を進め」
そんな地道は無表情で、また訳の分からない事を言い出した。
いよいよ腹が立つ。やっぱり関わるべきじゃなかったんだ。
地道行人は敵だ。
こいつの言う事なんて、聞いてたまるか。
お読み頂き、ありがとうございます
次回
→【ルート消滅】
※マネージャー(東森と西林)が、時雨愛莉の気になる先輩を勘違いした理由
東森達は最初から、時雨がマネージャーになった理由を知っていました
気になる先輩が誰なのか、それは聞いていません
時雨の視線から、東森達は時雨の気になる先輩が天道か外川のどちらかだと思います
天道と外川は中学時代からの友人で、部活内では基本近くにいました
東森達は時雨に、買い出しに気になる先輩を誘えと連絡を任せます
時雨は最初、外川を誘いますが上手くいかず
結果天道と買い出しに行く事になります
それを後から聞いた東森達は、時雨の気になる先輩は天道なのだと勘違いをします
時雨の、いい思い出が出来たという発言で、いよいよ天道なのだと確信します
小悪魔マネージャー二人のせいで、天道君は恥をかいてしまうのでした。めでたしめでたし
以上、後付け設定でした




