第11話 雪永睦姫の告白
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【もう諦める】
時雨からのお悩み相談後、俺は家に帰らず再び校舎内に戻って来ていた。
誰かと約束していた訳でもないし、何か用事がある訳でもない。
もしいなければ帰ろうと、そんな事を思いながら俺は会議室のドアを開け放った。
「――――あら地道君。どうしたの? 忘れ物?」
夕日が差す会議室にいたのは雪永先輩。縦山先輩も他の生徒会の人もおらず、先輩は一人で書類整理をしていたようだった。
夕日に照らされる先輩の黒髪は、いつもより数段美しく見える。
「忘れ物といえば忘れ物ですね。先輩を手伝うのを忘れてました」
「……これ以上私を惚れさせてどうしようってのよ」
「なにか言いました?」
「別に。でも地道君、手伝ってくれるのは嬉しいのだけど、もうほとんど終わったのよ」
そう言って先輩から一枚の用紙を見せられた。
そこには体育倉庫で確認した備品の状態や購入リストが記載されており、もうほとんどの記入が済んでいた状態だった。
「先輩の字、綺麗ですね」
「書道を習ってるの」
なんかピッタリだと思った。先輩が選んだ道は書の道か。
綺麗に書かれているので凄く見やすい。見やすいのは見やすいのだが……。
「……でも、なんで手書きですか? パソコン、買い替えたでしょう?」
「あなたに頼もうと思って。初期設定」
「初期設定なら、誰でも出来ると思いますよ」
「……あなたに頼みたかったの! いいから、早く設定しなさい」
まだ誰も触っていないであろうパソコンを押し付けられた。
俺は先輩の隣に座り、パソコンの電源を入れる。
「ユーザー名か……kumadaisuki……っと」
「seitokai01! 私の私物じゃないのよ!?」
「パスワードは誕生日にしましょう」
「あら、それは誕生日は期待していいって事かしら?」
「パソコンの壁紙、クマ画像にしていいですか?」
「それはっ……してちょうだい」
時折冗談を織り交ぜつつ、和やかに作業を行っていった。
先輩が手書きでリストを作成し、それを俺がパソコンに入力する。
完全に二度手間な作業。先輩も俺もそれには気づいていたが、何も言わずに作業を続行した。
「そうだ。あなたの事、行人って呼んでいいかしら?」
「はぁ、別に構いませんけど」
雪永先輩は唐突にそんな事を言い出した。隣に目を向けてみると、先輩の目は用紙に向けられており俺を見てはいなかった。
手が震えて文字が上手く書けていないようだが、それは見なかった事にしよう。
「私の事も睦姫でいいわ」
「じゃあ睦姫。今度遊びに行こうぜ? 楽しませてやるよ」
「せ、先輩くらい付けなさいよ!? というかなんでイキナリそんな態度なの!? 遊びには行くけどっ!」
変わらずこちらを見ない先輩だったが、呼び捨てされた事に苛立ったのかついにこちらを見た。
その時の表情は、怒っているというより驚いている表情だった。俺様キャラは、存外先輩に有効なようである。
「冗談ですよ。睦姫先輩」
「……やっぱり付けなくていい」
「睦姫さん?」
「さんもいらない」
「いやでも、流石に先輩を呼び捨てには……」
「いいのっ! 付けなくていい!」
なんて先輩は言うが、流石にそれは出来ない。
年上を敬うというのは心得ているし、そもそも生徒会長なんて肩書の先輩を、後輩の俺が呼び捨てるなんて出来る訳がない。
それを先輩に伝えるも、先輩は不機嫌そうに口を歪ませた。
「……じゃあ二人でいる時は睦姫って呼んで」
「う~ん……それに慣れてしまうと、他の人の前でも言ってしまう恐れがあるので」
「そこは頑張りなさいよ! 頑張れ!」
「先輩って、そんなキャラでしたっけ?」
凛々しく美しい生徒会長が、ちょっと崩れて来たな。
そんな姿を見られるのは俺だけだというのであれば、優越感は凄まじいが……どこか、凛々しい先輩のままでいて欲しいとの思いもある。
ともあれ、やはり言い間違えによる周りの誤解なども懸念して、先輩と呼ぶ事にした。
「それより行人君。時間は大丈夫なの? そろそろ暗くなってくるわよ?」
「最後まで付き合いますよ。というか送ります、暗くなってくるなら尚更」
「だからこれ以上惚れさせてどうするつもりなの……」
「別にどうこうするつもりなんてないですよ?」
「なっ!? なんで今度は聞こえるのよ!?」
驚き声を上げた先輩の頬が、徐々に朱色に染まっていく。それはどう見ても夕日のせいではなかった。
さっきの先輩の発言も普通に聞こえていた。意識せずに出た声かもしれないと一度はスルーしたが、二度も口にするという事は隠す気はあまりないという事だろう。
隠したいのなら気づかない振りをするが、その気がないなら反応させてもらう。
「隣にいるんですから、聞こえますよ」
「……ばか。そういうのは聞こえない振りをするものよ」
「じゃあ忘れましょうか」
「いいわよもう。でも、この際だからハッキリと言わせてもらうわ」
幸永先輩は椅子に座ったまま体を俺の方に向け、しっかりと俺の目を見てきた。
流石に緊張するのか、先輩の体は僅かに震えている。それでも俺から目を離す事はなく、先輩はゆっくりと口を開いた。
「私は、あなたに好意を抱いているわ。初めての感情で自分でもよく分からないけど、結構大きいと思う」
「俺も先輩には好意を抱いていますよ」
「私のはあなたのような親愛や友愛じゃなくて、恋愛なのだけど?」
「……恋愛ですか」
先輩に好意は抱いている。俺だって恋愛だと思っている。
でも時雨の時と同じように、俺は自ら進んで答えを出そうと思わない。それがおかしいとも思わなかった。
俺は出来上がった道を行く。でもその道を作るのは、俺じゃない。
そう思ったのが顔に出たのだろうか? そういう態度や表情をしてしまったのだろうか?
俺の様子を確認するような仕草をする先輩の顔が、一瞬だけ悲しい物へと変わった。
「でも、その反応を見て確信したわ。あなたの中に、まだ私はいないのね」
「そんな事は……」
「いいわ。ならこれから私は、あなたを全力で私に惚れさせます。いつか、私の物にしてやる」
そう不敵に笑う先輩は美しく、とても凛々しく見えた。
とても、機械音痴だったりクマにキラキラと目を輝かせている人と同じとは思えない。
この様々な一面こそが、雪永睦姫の魅力なのだろうな。
「具体的にはどうするんですか?」
「そういうの普通聞く? まぁそうね……とりあえず、生徒会に入りなさい」
「嫌です」
「な、なんでよ!? 今なら会長補佐の席を用意するわ!」
もうすでに会長補佐みたいな感じになっていると思うが。
生徒会って忙しそうだし、ちょっとそれは本気で嫌かもしれない。
その後ものらりくらりと、先輩からの勧誘をやり過ごした。
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