バッド選択・迷走 ~雨天~
高校サッカーの知識はありません
深く考えるダメ
「それじゃあ今日のスタメンだが、昨日話した通り、2年と1年を使う」
日曜の練習試合の日。
サッカー部顧問の先生が、ミーティング中にそう言った。
通りで今日は3年生の姿が見えないと思ったら、今日の試合は1年と2年をメインに使うらしい。
ウチは強豪校ではないので、3年はほとんどが夏休み前に引退する。どちらかといえば進学校なので、受験の方に力を入れるのだろう。
今回のスターティングメンバーに俺は入っていない。選考から漏れた選手は、昨日部活に参加していない者達だった。
「控えの選手はマネージャーの補助を頼む! 昨日も随分と頑張ってくれたからな」
顧問が目を向けた先には、三人のマネージャーがいそいそと準備を行っていた。
備品が随分と新しくなっているが、あれら全てを昨日のうちに準備したのだろうか?
だとしたら凄い。あの後、恐らくだが1年の男手を見つけたのだろう。
「スターティングメンバーは集合しろ。他の者は先にアップ、もしくはマネージャーの手伝いだ」
ゾロゾロと動き出す選手達。控えの2年はほとんどがウォーミングアップの準備を行い始め、マネージャーに近寄る者はいなかった。
まぁ補助は1年がメインでするだろうけど、俺はどうしようか?
頑張ってくれ三人を、労いたいとは思うのだが。
――――お礼を言う――――
「三人とも、色々と準備ありがとな」
マネージャーに近づき、準備をしてくれた事に対するお礼を言った。
近くには1年もいるようだし、これだけ人がいるのならば人手は十分だろう。
「て、天道先輩! そうじゃなくてですね! 言いましたよね!?」
どこか慌てた様子で東森が俺を呼び止めた。
続けて西林が時雨に目を向けながら声を出す。
「そ、そうだ! 先輩、愛莉と一緒に氷水作ってきてくれません?」
「えぇ? まぁいいけど――――」
「――――おい進! ちゃんとアップしとけよ! お前の事も使うみたいだぞ!」
時雨に歩みより、二人のワザとらしい応援に乗ろうと思った俺だが、海の声を聞き足を止めてしまった。
すると、俺を待ってくれていたのか止まっていた時雨の足は再び動き出した。
「あ、あはは。私は大丈夫ですので、行って下さい」
「えっと……でも」
「あの、本当に大丈夫ですので」
時雨は苦笑いしながら、一人で水道の方に向かっていった。
手に持つボックスは大きく、あれに水が入ったらとてもじゃないが時雨が持つには厳しいだろう。
「も~先輩。そこは率先して手伝ってくれないと!」
「しかもさっきの顔はダメですよ! 仕方ねぇなぁみたいな顔したでしょ!?」
そんな顔をしていたとは。しかし言われてみれば、どこか上から目線的な態度になっていたかもしれない。
「ほら進! 時間限られてんだから、早く行こうぜ」
「あ、ああ……」
申し訳ない事をしたと思いつつ、海と一緒にグラウンドへ向かい始めた。
気になり後ろを振り向くと、数人の1年は東森達の手伝いをしていたが、時雨を手伝おうと追い掛ける奴は誰もいなかった。
「ちょっ!? 誰か愛莉の手伝いに行ってあげて!?」
「……いいよもう、ウチが行くから」
慌てた様子の東森に、イラつきを顔に出した西林。
その後なんとか準備は終えるも、試合前から疲労困憊といったマネージャー達に笑顔はなく、その雰囲気は部内に伝染していった。
二試合行われた練習試合は滞りなく進み、先程終了した。
俺は二試合目にフル出場した。結果は聞かないでくれると嬉しい。
終了後にミーティングを行い、今後の予定について聞かされた。3年生を含めた選手達で挑むインターハイは、すぐ間近に迫っているのだ。
去年は予選で早々に敗退した我がサッカー部。今年はいい所まで行けそう……なんて事はない。
正直な所、今年も予選を突破する事は難しいだろう。
今年はせっかくマネージャーになってくれた子達がいるのだから、頑張りたい気持ちはあるのだが、現実は厳しい。
マネージャーといえば、試合後にタオルやら飲み物やらを笑顔で持ってきてくれるものだと思っていたのだが、そんな事はなかったな。
やはりあの時の事が原因だろうか。今日はずっとマネージャー達の機嫌が良くなかったので、それのせいかもしれない。
「よ~し。じゃあお前達、気を付けて帰れよ?」
今日の試合会場はウチの学園に隣接しているグラウンドで行われた。
ホームグラウンドのため撤収作業にも時間が掛かり、いい時間となっている。
中々に疲れたが、明日は月曜日。試合結果の事もあり、俺はあまりいい気分じゃない状態で撤収作業を行っていた。
「よいしょ……すみませ~ん。手の空いている方は手伝いの方お願いしま~す」
マネージャーの東森が部員達に大きな声でそう言うと、撤収作業中のみんなの視線が集まった。
みんな自分の作業で手一杯なのか、率先して動く奴は見受けられない。
そんな時、隣で撤収作業をしていた海が話し掛けてきた。
「なぁ、マネージャーの補助ってさ、後輩がやるもんだよな?」
「決まってはないだろうけど……そう、だと思うけどな」
「だよな? 去年いたマネージャーの手伝いは俺達がしてたもんな?」
ルールとして定まってはいないだろうが、暗黙の了解的なのはあるのだろう。
1年が率先して雑用などを行うのは当たり前で、現に俺達が1年の時はそうしていた。
「あのっ! どなたか、お願いしますっ」
ついには時雨まで声を出し始めた。
2年のほとんどは無関心に見えるが、1年はどこか挙動不審だった。
「今年の1年ってさ、動かな過ぎじゃね?」
「まぁ確かに……あぁでもなぁ」
俺もそう思っていたが、よくよく考えたら俺達が悪いんじゃないだろうか?
海はそう言うが、1年に何かを教えた記憶もないし、入学して2ヶ月程度の1年生には酷かもしれない。
「俺達って、最初から動けてたか……?」
「動いてただろ? あぁでも、先輩にめっちゃ怒鳴られた記憶があるな」
そうだ。俺達も動けなかったんだ。
顧問にマネージャーを手伝えと言われても、誰かがやるだろうと動かなかった記憶がある。
それを見た先輩に怒鳴られて、全員で嫌々と、愚痴を溢しながら雑用をこなした記憶があった。
「海、俺達が教えなきゃならないんだよ」
「あ~そういう事か……ん? 怒鳴れって事か?」
「ど、怒鳴る必要は……手本を見せるとか? みんなで手伝って見せるとか?」
「先輩が動けば後輩も動くって? 俺達の時とは違うけど、それでいいのか?」
――――1年に任せる――――
「……やっぱ1年に任せるか。俺達もそうだったし」
「だな。じゃ俺、1年に言ってくるわ!」
怒鳴ったりしないだろうなと思ったが、それは杞憂に終った。
海は1年の中に入って行くと、何かを説明しているような仕草を見せた。
海が引き上げると、1年はほぼ全員がマネージャーの手伝いに向かい始める。
上手くいったようだと思っていると、満面の笑みを浮かべながら海が戻ってきた。
「上手くいったぜ! 俺は優しい先輩だな!」
「はいはい、分かったから早く片付けろよ」
「なぁ進。時間も出来たし片付ける前にPK勝負してかね?」
「まぁいいけど。負けたらジュース奢りな」
俺達はサッカーゴールを片付けようとしていた1年に声を掛け、片付けるのを待ってもらいPK対決を行った。
PK対決後、サッカーゴールを片付けた俺達が校舎付近に戻って来ると、どこか困った様子の顧問がいた。
気になった俺達は声を掛ける。すると顧問の先生は、想像もしていなかった事を口にした。
「マネージャーの三人な、辞めたいって言ってきた」
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次回
→【ルート消滅】
土日は恐らくお休みです
息抜きに書いた短編物でも読んでくれると嬉しいです




