第5.0話 クーデレの破壊力
→【お礼を言う】
【行動で示す】
日曜日の朝、俺は婆ちゃんの機種変更に付き合うための準備を行っていた。
準備と言っても特別な事はない。いつも通りに身支度を整え、時間が来るまでノンビリと時間を潰していた。
さてそろそろ時間だと、家を出ようとした時にスマホの着信音が鳴り響いた。
「もしもし?」
『地道君? 雪永だけど、今少しいい?』
「ええ」
電話は雪永先輩からだった。こんな時間からどうしたのだろう、生徒会の仕事の手伝いだろうか?
今日は予定があるから断るしかないのだが、先輩の用事は手伝いではなかった。
『スマホの選定なのだけど、色々あったけどやっぱり地道君にお願い出来ないかしら?』
「……構いませんよ」
やっぱりという事は他に候補がいたようだ。
まぁ、なんとなくだが予想はつく。
『急なのだけど今日って暇かしら? もし暇なら付き合ってほしいわ』
「あ~すみません、今日は……ああいや、丁度いいか」
『丁度いい? どういう事かしら?』
婆ちゃんに機種変の付き添いを頼まれていて、今日一緒に行く事になっていると先輩に伝えた。
同じような用件だし、先輩が嫌でなければ一緒にどうかと誘ってみると。
『迷惑じゃない?』
「大丈夫ですよ。先輩がよければですけど」
『そう……なら、一緒させてもらってもいいかしら?』
「いいですよ。今から出れますか? 場所は――――」
先輩に集合場所を伝え、俺も家を出る。
途中、婆ちゃんに連絡して事情を話した所、快く受け入れてもらえた。
――――
――
―
婆ちゃんと合流する前に先輩と合流するつもりだった俺は、待ち合わせ場所に集合時間より早く着いていた。
先輩からの電話の時、俺の準備はすでに整っていたが先輩は違うだろう。
もう少し時間が掛かるだろうと予想していたのだが、その予想は外れる事となった。
「はぁ、はぁ……地道君……ごめんなさい……お、遅くなったわ……」
スマホを弄って時間でも潰そうとした時、急に先輩の声が聞こえたので驚いた。
随分と走って来てくれた様子で、先輩は肩で息をしていた。両手を膝について、まるでマラソン選手が走り終えた後のような光景だった。
「せ、先輩? 大丈夫ですか? そんなに急がなくても……」
「だって……はぁはぁ……待ち合わせの時間……わざと遅く……してくれたんでしょ?」
どうやら先輩は、自分のせいで俺達の事を待たせてしまうと思ったらしい。そんな事を思わせてしまったとは、もう少し考えるべきだった。
少し落ち着いたのか、先輩は顔を上げて俺と目を合わせた。頬は赤く、額には僅かだが汗が滲んでいる様だった。
俺は先輩に持って来ていた水を渡し、落ち着くのを待った。
「もう大丈夫……ありがとう。行きましょ?」
「先輩、まだ大丈夫ですから。きっとまだ婆ちゃんも来てないでしょうし」
「そ、そうなの? じゃあちょっと……座るわ」
先輩は俺から水を受け取り、近くに設置してあったベンチに腰を下ろした。
水を飲み汗をハンカチで拭い取る先輩を、俺はボーッと眺める。
長い黒髪はいつもと違い、ハーフアップにされていた。可愛らしいシュシュで髪を結っている先輩の姿はとても新鮮だ。
俺のラフな格好に比べて、先輩の私服は随分と気合が入っているように見える。いつもより化粧はしっかりしている様にも見えるし、耳にはイヤリングもあった。
「な、なにかしら? もしかして……変?」
「いえ、凄くお綺麗ですよ」
「そ、そういう事じゃなくて……」
ジロジロと見すぎたせいか、どことなく不安そうに先輩が聞いてくるものだからそう答えた。
すると先輩は珍しく恥ずかしそうに、視線を逸らして見せた。未だに頬も赤めな先輩は、いつもの凛々しい先輩ではない。
「服とか、化粧とかよ」
「変ではないですよ? さっきも言いましたけど凄く綺麗です……ただ」
「た、ただ……?」
「俺の恰好見て下さいよ? 先輩の隣に立つには相応しくないでしょ?」
何もしなくても誰もが振り返るであろう美人が、ガッツリ気合を入れてきたせいでオーラが半端ない。
さっきからチラチラと先輩の事を盗み見る輩が多い事多い事。
俺もそれなりに気を使った格好ではあるが、所詮は気を使ったというレベルなので、気合を入れた先輩の格好とは比べ物にならない。
「そ、そんな事ないわ! あなたはその……十分に……カッコいいわよ」
「ほんとですか? 先輩に言われると自信が付きますね」
「……少しは恥ずかしがりなさいよ? 不公平だわ」
ジト目でそういう先輩に苦笑いをしつつ、なぜか面白かったので互いに互いの事を褒めまくった。
どうやら先輩の気合いの入れようは、俺の身内に会うのだから失礼のないようにと考えたそうだ。
「そのロングスカートも、先輩によく似合ってますよ。よくそれで走れましたね」
初めは服装から、次いで小物や髪を褒め合い、いよいよ目が綺麗だ鼻が美しいなどと言ったあたりで先輩からギブがでた。
徐々に赤くなっていく先輩が面白く、つい言いまくってしまった。
もちろん嘘ではなく本心ではだが、遊びとはいえここまで女性の事を褒めたのは初めてだ。
「き、今日は暑いわね……」
「そうですか? 今日は日差しも強くないし涼しい方――――」
「――――暑いったら暑いのっ! いいからもう行くわよ!」
顔を赤くした先輩は、ベンチから立ち上がると手で顔を仰ぎながら歩き出した。
急いで先輩の隣に並び、先輩の顔を覗き込むと逸らされる。それを何度か繰り返し、数分歩いた辺りで俺はいよいよ声を掛けた。
「あの、先輩」
「い、いいから! 前を見て歩きなさい!」
「そうじゃなくてですね」
「なによ? まだ私を困らせるつもり?」
「そうではなくて、こっちじゃないんですよ」
「……? なにがよ?」
「待ち合わせ場所、こっちじゃないんですよ」
「は、早く言いなさいよ!? なんで黙っていたの!?」
「いや、可愛くて」
「~~~っ! またあなたはそういうっ!」
再び顔を真っ赤にした先輩は回れ右をして、俺の事を置いて一人で先に行ってしまった。
普段クールな人が恥ずかしがる姿は、なぜかこうグッとくるな。
もしかして俺はSなのだろうかと、そんなどうでもいい事を思いながら先輩の事を追いかけた。
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