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竜と白柱の国  作者: 風見真中
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夢への投資


「お待たせ、ミーア…………」

「あ、ラック! どうだった? あの竜輝石、いくらになった?」

 買い取り場を後にしたラックは、施設内の食品を扱っている店で買い物を済ませたミーアと合流する。ミーアは買い物袋を胸の前に抱え、ハツラツとした笑顔でラックを待ち構えていた。

 対照的に、ラックの顔はどんよりと曇っている。

「いや、あのさ…………」

 ラックがポケットから出した例の抜け殻を見て、ミーアは怪訝そうに眉を顰める。

「え、なんで持ってるの?」

「これ竜の卵、抜け殻ってやつだった。買い取りは割安の千エルだから、炉に入れた方がマシだって言われて…………」

 ラックの口から出た言葉に、ミーアは最初ポカンと口を開け、次いで抱えている買い物袋に目を落とし、最後にがっくりと肩を落として溜め息を吐いた。

「…………良いお金になると思って、良いお肉買っちゃったよ」

「ごめん…………」

 自分がきちんと確かめていれば、こんなぬか喜びをすることもなかった。そう思ったラックは謝罪の言葉を口にしたが、ミーアはふるふると首を振る。

「いいよ。それでも今日は結構稼げたんでしょ? 残念会じゃないけど、せっかく奮発したんだし、夕飯は豪勢にやろう」

 乾いた笑顔を浮かべてそう励ますミーアだったが、ラックにはまだ一つ懸念があった。

「いや、まだアレを何とかしなきゃでさ…………」

「え? あー、それもあったね…………」

 次いで浮かない顔の二人が訪れたのは、買い取り場と同じフロアのすぐ近くにある店。石拾いのための装備品を扱っている店舗である。

「うーん、三万エルってとこだな」

「さ、三万エル…………」

 買い取り場のドミニクと同じ土鬼族の男性店主、ブレダの出した見積もりに、ラックとミーアは揃って肩を落とした。

「もうちょっと何とかならないのかよ、ブレダさん?」

「無理だな。針だけなら一万もしねえが、深度と竜素どっちもイカれちまってる。こりゃ内部機構の問題だ」

 二人が持ちかけたのは、今日の仕事で壊れた深度計の修理だった。深度計は現在ラックたちがいる居住区をゼロとして、現在どこまで降下しているかを示す機械であり、周囲の竜素濃度を測定する機能もある。深度と竜素濃度は石拾いにとって生死を分ける情報で、これが壊れたままでは仕事に行くことはできない。

「だから言っただろ、深度計の中古品はやめとけって」

「だって新品は高いじゃんかよ…………」

 深度計にはそれぞれ計れる限界があり、機能によって値段が大きく違う。ラックが使っている深度計の限界深度は三十で、値段は新品で十万エルが相場だ。

「だがこれで修理は三度目だろ? 今までにかかった修理費を全部合わせたら、新品の一つくらい買えたんじゃないか?」

「それは、その…………」

 ブレダの言う通り、中古の深度計の値段と三度の修理費を合わせれば、十分新品の深度計が買えてしまう。ラックは初期投資を拒んだために、結果として損をしたのだ。

「はあ、もういいよラック。今日はそれなりに稼げたんだし、いっそのこと新品買っちゃおうよ」

「いいのかよ、ミーア?」

「いいよ。それに、もしまた今日みたいなことがあって、ラックにもしものことがあったら、シャヴァンヌ様に合わせる顔がないもの」

 ミーアはラックの相棒であるが、それ以上に一緒に暮らす家族であり、姉のような存在。歳上のミーアはラックの保護者にその身の周りのことも任されている。つまるところ、ラックの財布はミーアが握っているのである。

「それじゃあブレダさん、新品の深度計と、あとマスクもをくれ。小人族用の、限界深度三十のやつ」

「あいよ」

 購入した新品の深度計と新しいマスクを抱え、ラックとミーアは複雑な面持ちで帰路につく。

 新品の装備品はもちろん嬉しい。明日の仕事は安心してこなせるし、そうでなくともラックは内心ではずっと中古ではない装備を欲しがっていた。しかし、それを手放しで喜べないほどに手痛い出費になってしまった。

「目標金額、ちょっと遠のいちゃったね」

「平気さ。今日は三十まで行けたんだし、明日も……」

 いつもより深くまで降りられる、そう言おうとしたラックに、ミーアはキッと目を吊り上げた。

「何言ってるの! 今日無事だったのはたまたま運が良かっただけでしょ! 明日はいつも通り、二十より下には降りさせないからね!」

 ミーアの宣告にラックは目を見開き食って掛かる。

「に、二十はねえだろ? 三十は無理だとしても、二十五くらいなら平気だよ」

「ダメったらダメ! 私はシャヴァンヌ様にラックのことを……!」

「おーい、ラック、ミーア!」

 ミーアの言葉を遮り、ブレダが店から顔を出して二人を呼び止めた。

「な、なんだよブレダさん?」

「言い忘れてたんだがな、仕入れ先の商人が言うには、近々シャヴァンヌ様がお戻りになるらしいぞ」

 ブレダの口から告げられた言葉に、二人は今までしていた口論も忘れ、揃って目を見開いた。

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