表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜と白柱の国  作者: 風見真中
24/27

神竜アスティ


「ドゥルフ、ディルフ! 神竜を捕えろ!」

 ベヘモットの合図で、二人の巨人族が揃って前に出る。三メートルを超える巨体に、手にはラックの持つそれと同等の大きさの大剣。全身に纏った鎧は、剣竜の素材を惜しげもなく使用した最高級品。未だ金勘定のクセが抜けないラックは、一人頭何千万エルの装備なのかと場違いな考えを巡らせてしまう。

「それではラックさん、ワタクシはここでミーアさんの手当てをしてますね」

「ああ、任せた!」

 シェルフィの声に頷き、ラックはアスティよりも先に巨人族の元に特攻する。敵はベヘモットと二人の巨人族の他にも、兵隊が複数名。ボロボロのミーアを一人にしては再び捕らえられる危険があるが、シェルフィがついていてくれるのならラックたちは目の前の相手に集中できる。

「フンッ!」

「ハンッ!」

 同時に構え、巨人族の怪力で揃って振るわれる二本の大剣。その圧倒的な威圧感は、まともに受ければ怪我どころか体が粉々になりそうなほどの重圧を感じさせる。

「ッ!」

 大剣を頭上に構えたラックは、刀身で一方の剣を受け止め、手首を捻って籠められた力をいなし、もう一方の剣に衝突させる。

「な!?」

「どこにそんな力が!?」

 見事にいなされ、剣同士の衝突に手を痺れさせる二人。

 他種族に比べて圧倒的な怪力を持つ巨人族にとって、当たった剣がいなされるという経験は初めてのもの。相手が小さな少年ともなれば、その驚きは倍増する。驚愕に目を見開き、明確な隙を作ってしまったことに戦慄する。

「何をしている! そいつは小人族ではない、竜人族だぞ!」

 ベヘモットの言葉に気付けられ、二人の巨人族は認識を改めてラックの姿を捉えようとする。

 ラックは既に二人の間を通り抜け、背後を取れる位置まで移動していた。

 慌てて大剣を構え、一人は防御の姿勢を取り、もう一人はラックが攻撃を仕掛けるより前に迎え撃とうと大剣を上段に構える。

「っ!?」

 しかし、ラックは二人の間を通り抜けたまま、振り返ることなく一直線にベヘモットに向かっていく。

「ベヘモットォ!」

「こっの!」

 予想外の速攻にベヘモットは動揺したが、それでも振るわれた大剣を的確に細剣で受け流す。

「っドゥルフ、ディルフ!」

 背後からラックを攻撃しろ、言外にそう命じたベヘモットだったが、遅れて巨人族の元に到着したアスティによって、それは叶わなくなる。

「やぁ!」

 可愛らしい掛け声とは裏腹に、それは凶悪な威力を秘めていた。握られた拳による無造作な殴打。しかし無防備な背後から打たれたその一撃は、剣竜の鱗に覆われた背部の鎧を粉々に砕き、巨人族の一人を顔面から前のめりに屋上に叩きつける。

「ディルフ!?」

 転倒したかのように視界から消え失せた兄弟を案じるドゥルフ。その眼前に、青い瞳の中に明確な敵意を宿すアスティが迫る。

「クソォ!」

 横薙ぎに振るわれる大剣。アスティはそれを左腕で受け流し、鱗の上で火花を散らせながら大剣に籠めた膂力が霧散する。そして、握られた右拳のアッパーにより、頑強なはずの大剣はアッサリと叩き折られた。

「ひっ!?」

 武器を失い混乱するドゥルフ。しかし、直後にアスティの背後でのそりと起き上がったディルフの姿を見て、僅かばかりに安堵する。

 殴られて屋上の床に叩きつけられたディルフに、もはやアスティを無傷で捕えるほどの精神的な余裕はない。アスティの背後から上段に構えた大剣を振り下ろし、その瞬間、真横に吹っ飛んだ。

「な?」

 床を滑り、何度もバウンドしてようやく動きを止めたディルフは、しかしもう起き上がることは叶わない。

 背後を取り、確実に当たるタイミングで大剣を振り下ろしたにもかかわらず、ディルフは彼方へと吹き飛ばされた。何が起きたのかと混乱するドゥルフの視界に、アスティの背後で踊る鱗、尻尾が見えた。

「えい!」

 大きく振りかぶり、直線的な軌道で向かってくる拳。本来なら避けられない攻撃ではないが、既にドゥルフは戦意を失っていた。

 自分の兄弟はこの尻尾によって吹き飛ばされた、それを悟ったときに、ようやく理解した。

 この少女は、神竜なのだと。

 鎧を砕きながら体の内側まで沈み込む衝撃。ドゥルフは膝から崩れ落ち、倒れ込む寸前でアスティに腕を掴まれる。

「えーいっ!」

 掛け声とともに放り投げられ、気を失うディルフの上に落下する。

 巨人族は生まれながらにして強い。竜人族という例外を除けば全種族の中で最強であり、ドゥルフとディルフもそれを疑うことはなかった。身に纏っていた鎧の素材となった剣竜も二人で倒したもので、ベヘモットに出会うまでは敗北という言葉すら知らなかったと言ってもいい。

 しかし、それはあくまで人間という枠の中での話。

 見上げた竜素の膜に映る翼と、振り下ろされる強靭な尻尾によるとどめの一撃。

 世界は広かった。屋上に空けられた巨大な穴に落ちながら、薄れゆく意識の中でドゥルフは今更ながらにそれを思い知った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ