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第2話【女王陛下への謁見へ】

「じゃあ、今日はちょっと大切な人とお食事会なのでぇ」



 同居人である女性陣、ネアとスノウリリィに向けてユーシアは言う。



「テーブルにご飯が用意してあるので食べてね。それと、今日はおそらく夜遅くなるから先に寝ててね。多分帰って来れないから」

「死ぬおつもりではありませんよね?」



 銀髪のポンコツメイドことスノウリリィが、ジト目でユーシアを睨みつける。


 以前にもこういうことが起きた時、彼女は非常に敏感だった。女の勘とは侮れない。

 だけど、こちらも死ぬつもりは毛頭ないのだ。むしろ相手を殺して世界の果てまで逃げるつもりでいる所存だ。


 なので、ユーシアは「あはは」とスノウリリィの言葉を笑い飛ばし、



「リリィちゃんは俺たちが簡単に死ぬと思ってるの?」

「いいえ、全く」



 首を横に振るスノウリリィは、



「でも、相手は危険な方なんでしょう?」

「そうだけどね。でもサックリ殺してから帰ってくるからさ、旅行の準備でもしててよ」



 この一連の殺人事件に終止符が打てれば、しばらく自由の身になれる。その時はどこか遠くに旅行へ行こうと計画していたのだ。


 ネアもスノウリリィも旅行に関しては了承済みで、ある程度は荷物を纏めている状態だ。今度は本物の旅行である。決して逃避行ではない。

 旅行が楽しみな様子のネアは「りょこー、りょこー♪」と明るく歌っている。小躍りしちゃっている。可愛い。



「シア先輩、そろそろ出ますよ」



 車の準備をしていたリヴが部屋に戻ってきて、ユーシアを呼びかける。


 ユーシアは仕事道具である純白の対物狙撃銃を収めたライフルケースを背負うと、小躍りするネアと心配そうな眼差しを投げかけてくるスノウリリィに手を振った。

 悪党だって挨拶は欠かさないのだ。それぐらいの常識はある。



「じゃあ、行ってくるね」

「いってらっしゃい、おにーちゃん!!」

「気をつけて」



 ネアとスノウリリィに送り出されたユーシアは、しっかり扉に鍵をかける。


 もしFTファミリーが攻めてきたら嫌なので、彼女たちの護衛はユーリに任せてある。もしものことがあった時の為に合鍵も渡しておいた、これで問題はないだろう。

 彼もグリムヒルド・アップルリーズを殺害する話を聞いた時、予想していたとばかりに「やっぱりな」と肩を竦めたものだ。彼って意外と便利な存在だと思う。


 部屋を出た先の廊下で待っていたリヴは、



「これで最後ですね」

「おっと、ゲームルバーク二大悪党の解散危機かな?」

「まさか。僕がシア先輩を離す時なんてありませんよ」



 真っ黒な雨合羽レインコートに身を包む青年は、目深に被ったフードの下で笑う。



「僕はもう、シア先輩なしでは生きられないので」

「それは生活的な意味で?」

「ですね。美味しいご飯が出てくるのは嬉しい限りです」



 バレないように階段を使って一階に降りながら、ユーシアとリヴは女王陛下の謁見場所に向かう為の馬車に乗り込む。


 車に乗り込んでから、ユーシアは砂色の外套から小瓶を取り出した。リヴも同様に、雨合羽の袖から小瓶を滑り落とす。

 二人の持つ小瓶には、紫色の液体が揺れていた。毒々しい色合いの液体はどう見たって毒のような印象があり、飲み物として口の中に入れるには多少の勇気が必要だ。


 女王陛下の謁見の前に二人で仲良く自死を選ぶのかと思いきや、そうではない。自分の犯した罪の大きさに悩んで死ぬ暇があるなら、適当に歩いている一般人を殺すのが彼らだ。



「心中みたいでドキドキしますね」

「不謹慎なことを言わないでよ」

「でもそうじゃないですか?」

「確かに毒だけど、これは俺たちの最後の切り札になるんだからね」



 そう言って、ユーシアとリヴは揃って紫色の液体を嚥下えんかした。


 口いっぱいに甘い味が広がっていく。砂糖を煮詰めたようなせるほどの甘さがあって、ユーシアとリヴは思わず咳き込んだ。

 紫色だから味の保証はなかったが、まさかこれほど甘いとは誰が思うだろうか。これはない、ありえない。



「うえぇ、病院で処方されるシロップ系の薬みたいです」

「あれって甘いよね、変にね」

「胃の中がおかしくなりそう……」

「運転変わる?」

「いえ、平気です。――本当にこれって効果があるんですかね」

「ユーリさんの調薬だからお墨付きだよ。今回はお師匠様にも直接レシピを聞いたって言ってたし」

「ということは、これって【DOF】開発者のお墨付きってことですか?」

「そうなるね」

「凄いものを飲みましたね」

「そうだね」



 小瓶を窓の外に投げ捨てたユーシアとリヴは、さっそく車を発進させる。


 滑るように夜の闇を突き進んでいく車は、着実に女王陛下の元へ向かっていた。

 その首を確かに落とし、この世から退場させる為に。



 ☆



「そういえば、手土産は持ってきたっけ?」

「後部座席に乗ってますよ、我が物顔で」



 華麗なハンドル捌きを見せながら、リヴはバックミラーで後部座席を見やる。


 そこには巨大なクーラーボックスが置いてあり、ご丁寧なことにラッピングまで施されていた。女王陛下に対するお土産は万全である。

 中身には先日殺したばかりの警察署長、ツバキ・ミョウレンジの生首が入っているはすだ。これを貰った女王陛下は、きっと盛大に驚いてくれるに違いない。


 まあ、あの女のことだからそれほど驚かないと思うのだが。



「喜んでくれるかな」

「泣いて喜びますよ、きっと」

「そうかな」

「そうですよ。女性はサプライズが好きって言ってましたから」

「どこ情報?」

「僕の観ているアニメですね」

「そっかぁ」



 ユーシアは適当に相槌を打つと、持ってきていた招待券を確認する。


 店の名前は『スノウホワイト』――何とビックリ死んだ息子と同じ名前である。「お前らが殺したんだぞ」と暗に告げているのだろうか。

 ワインが美味しい店らしく、招待券の裏にもワインの銘柄がたくさん並んでいる。酒は好きだが、敵陣のど真ん中で飲めるほど神経は図太くない。


 ずらりと並ぶワインの銘柄を品定めするように視線を走らせるユーシアは、



「うーん、どれが美味しいかな」

「ワインはお飲みになるんです?」

「どっちかと言えばビールだね」

「ああ、生まれは独国ドイツですもんね。ビールの国ですよね、あそこ」

「そうそう。それから伊国イタリアに移ったけど、親父もやっぱりビールだったなぁ。ワインも飲んでたっけ? まあ覚えてないや」



 ワインはあまり飲んだことがないので、出来れば別の機会で美味しいものを飲みたかった。どうしてこんな機会でなければ飲めないんだろう。


 そんなことを言っていると、目の前に巨大な壁が迫ってきた。

 いつのまにか『中央区画セントラル』のゲート前に辿り着いたようだ。見上げるほど背の高いゲートはユーシアとリヴが何度も破壊しているので、あちこちが補修作業の状態となっている。


 リヴはゆっくりと車の速度を落としながら、



「今日はゲートを壊しません」

「お、珍しいね」

「ええ。車も少ないので」



 確かに夜だからか車通りも少なく、走りやすいぐらいだ。

 リヴも珍しく穏やかに運転している。彼の場合、スイッチが入った時の雑な運転と普段の運転で差が激しい。無免許のくせに。


『中央区画』へ続く車の列に並んでいると、すぐに順番が回ってきた。



「身分証と」



 ズガン、と銃声。


 リヴが雨合羽の袖から滑り落とした自動拳銃が火を噴き、窓から顔を覗かせた係員の眉間を撃ち抜いたのだ。

 言ったそばからこれである。もう慣れた。



「わはははは、最後にド派手に壊してやりますよ!!」

「やっぱりぃ」



 ユーシアは車の上部に取り付けられた取手にしがみついて振り回されないように気をつけると同時に、リヴがアクセル全開でゲートを突破する。


 無残に破壊されるバー、飛び出してくる係員。

 全てを置き去りにして、ユーシアとリヴを乗せた車は『中央区画』を突き進んでいく。


 さながらジェットコースターに乗ったような速度で振り回されるユーシアは、



「ちょ、リヴ君もう少し……おえッ」

「ついに車酔いですか、シア先輩!!」

「大人しく運転してって言ったのにぃ……」



 キャッキャとはしゃぎながらハンドルを切るリヴの隣で、ユーシアは吐き気に耐えながら車の取手にしがみついていた。

 悲しきかな、相棒なのでこんなことは分かっていたのである。

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