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第2話【おかしなお菓子の虜】

 さて、巷で有名な製菓会社を爆発して社長一族郎党皆殺しにするとしても、まずは情報収集が先決である。


 あの吐くほど不味まずいお菓子を普通に購入する消費者は、全員して味覚に異常が出ているのだろうか。それとも単にユーシアとリヴの舌が馬鹿なのか、その辺りを検証する必要がある。

 もしかしたらそれ以外の選択肢もあるのだろうが、最も考えられる可能性は一般人の味覚異常か、ユーシアとリヴの味覚が元から異常なのかの二択だ。



「そんな訳で、その辺を歩いていたチンピラにご足労いただきました」

「わあ、さすがリヴ君。行動が早すぎるね。俺でなければ見逃しちゃうよ」



 早速とばかりに裏社会で燻っていた二名のチンピラをボコボコにした上で縄で縛り、路地裏に連行してきたリヴに雑な称賛を浴びせるユーシア。


 ご丁寧にも猿轡を噛まされているので、チンピラ二人は「フゴフゴ」「フゴーッ」という呻きしか出せない。何故だろう、豚の鳴き声に聞こえてきた。

 おそらく彼らは強がりでユーシアとリヴに罵詈雑言を浴びせているのだろうが、何一つ言葉になっていないので痛くも痒くもない。批判するなら好きなだけすればいい。


 滂沱ぼうだの涙を流しながら「フゴフゴ」と呻くチンピラを見下ろし、ユーシアは言う。



「リヴ君、さっきの飴玉って持ってる?」

「燃やせと言われたので全部燃やしました」

「そうだった。すっかり忘れてた」

「なので、代わりにチョコレートをご用意してみました。ご覧ください、今大人気で手に入りにくいとされるチョコレートです」



 黒い雨合羽レインコートの袖から取り出したのは、何の変哲もない一枚の板チョコだった。その表面にはしっかりデフォルメされた可愛らしい子豚の絵が描かれ、ハートマークを散らしながら「美味しいよ!!」と銘打たれている。

 いや、どれだけ子豚が「美味しいよ」と宣おうが、スリーピッグのお菓子は不味いのだ。これは絶対的な意見である。


 リヴから板チョコを受け取り、ピリピリと包装紙を破きながらユーシアは何気なく問いかけた。



「リヴ君」

「何ですか?」

「この板チョコ、手に入りにくいんだよね?」

「そうですね。近くのコンビニは売り切れでした」

「これって、どこから盗ってきたの?」

「奪いましたが何か?」



 当然の如く言い放つリヴ。

 ちなみに彼が「あれからです」と示した方向には、すでにコンクリートの壁に頭を打ち付けて死んでいる男性の死体が発見された。裏社会にどっぷりと浸かった邪悪なてるてる坊主に出会ったのが運の尽きである。


 包装紙を破いて中身を取り出すと、きちんとした茶色いチョコレートである。甘いチョコレートの香りが鼻孔を掠め、齧りたくなる衝動に駆られる。



「匂いは良さそうなんだよなぁ。ほら、リヴ君も嗅いでみて」



 チョコレートを相棒の鼻先に突き出せば、彼もまた「そうですね」と同意する。



「普通のチョコレートです」

「だよね」



 ユーシアはパキンとチョコレートを割ると、一口だけ齧ってみた。


 口の中で広がる泥水と雑草を足してコンクリートで包み込んだような、筆舌に尽くし難い不味さに思わず「うえッ」と呻く。

 このまま咀嚼など出来るはずもなく、口の中に含んだチョコレートを問答無用で吐き出す。唾液のせいで溶けかけたチョコレートが汚れた地面に叩きつけられ、ベチャッと音を立てた。


 やはり不味い、非常に不味い。

 口の中に残る不味さに顔を顰めるユーシアに、リヴの「馬鹿ですか」という辛辣な一言と共にミネラルウォーターのペットボトルが差し出された。



「不味いことは初めから分かっていたことでしょう。体験しませんでした?」

「他のお菓子なら大丈夫かと思って」

「大丈夫な訳なくないですか?」

「リヴ君は思わなかったの?」

「思いましたよ」



 即答だった。

 しっかりと真剣な表情で、リヴは頷いた。



「なので、チョコレートを強奪した男から同じく強奪したグミを食べてみたんです」

「感想は?」

「激マズですね。リリィの料理の方がマシに思えてくるレベルで」



 そもそもあれは立派な生物兵器なので、口に入れた瞬間に意識がぶっ飛ぶのでそれはそれで嫌だ。


 ユーシアは捕まえたチンピラたちの猿轡を外してやると、目線を合わせる為にしゃがみ込んだ。

 彼らの口元にチョコレートを差し出しながら、いつもの曖昧な笑みを浮かべる。



「はい、これどうぞ」

「不味いって言った菓子を差し出してくるとか、一体どんな神経してんだよ!! 頭おかしいんじゃねえのか!?」

「死ね、死んじまえ!! サツに見つかって撃たれて死ね!!」

「わあ、うるさいなぁ。さっきとは大違いだよ」



 ユーシアは戯けた調子で言うと、



「いいから食べて。ほら」

「ごふッ!?」



 まずはチンピラの一人にチョコレートを突っ込む。


 勢いよく突っ込んだせいか、チンピラは「げほ、おえッ」と嗚咽を漏らしていた。

 口いっぱいにチョコレートを突っ込まれているので苦しそうだが、相手が窒息死しようがお構いなしにチョコレートをグイグイと口の中に押し込んでいく。


 カリ、と一口だけ齧った感触が手に伝わってきた。



「あが……」



 その瞬間、チンピラが動かなくなった。


 窒息死した訳ではない。

 口にチョコレートを突っ込んだまま、ユーシアの顔を見つめた状態で放心しているのだ。彼は何を見たのだろうか。


 ピクリとも動かなくなってしまったチンピラの視界に手を翳しながら、ユーシアは「おーい」と呼びかけてみる。



「無反応だね」

「死にました?」

「息はしてるよ」

「そうみたいですね」



 呼吸はしているので死んではいないはずなのだが、何故動かなくなってしまったのだろうか。


 すると、口にチョコレートを突っ込まれた状態のチンピラが覚醒する。

 クワッ!! と目を見開くと、物凄い勢いでチョコレートを消費し始めたのだ。口の中に突っ込まれた板チョコをあっという間に食べ終わり、ガチガチと歯を鳴らして甘い匂いを口から漂わせながら、チンピラはジタバタと暴れました。



「おあああ、あああッ、ああああああうああああああ!!」

「うわ、何。どうしたの、これ」

「禁断症状ですかね」



 暴れるチンピラから離れるユーシアは、獣のように狂った様子のチンピラへライフルケースから取り出した純白の対物狙撃銃を構える。


 しかし、チンピラが怖がった様子は見えない。

 唾を飛ばしながら、縄を引き千切らん勢いで暴れるチンピラは「おおおああああああああ!!」と雄叫びを上げる。



「もっと、もっとよごぜええええッ、もっどもっどもっどだああもっどああああ足りない足りない足りない食べたい食べたい食べたい食べて食べて食べて食べ足りないいいいあああああああああ」



 その言葉に、ユーシアとリヴは合点がいった。


 このチンピラは、あのスリーピッグ社が作ったお菓子を食べたせいでおかしくなってしまったのだ。

 もしかしてこのお菓子、麻薬でも練り込んであるのだろうか。それなら『中央区画セントラル』の警察どもが黙っていなさそうだが、今のところ話は聞いていない。


 互いの顔を見合わせたユーシアとリヴは、



「さて、もう一人にも」

「そうですね」

「グミってまだ残ってる?」

「バッチリです」



 黒い雨合羽レインコートの袖から、すでに開封済みのグミの袋を取り出すリヴ。


 雄叫びを上げる仲間にドン引きした様子の視線をやるもう一人のチンピラだが、自分にもおかしなお菓子の魔の手が迫っている事実に気付いて「や、やめろ!!」とささやかな抵抗をしてみせる。

 彼からすれば全力の抵抗だが、残念ながらそんな訴えなど誰も聞かないのだ。


「はい、召し上がれ」

「ぐががががががッ」

「よく噛んでくださいねー、はい吐き出さない吐き出さない」



 頭と顎を押さえつけて、無理やり咀嚼させる。


 強制的にグミを噛ませられて嚥下し、もう一人の無事なチンピラもまた血走った目をクワッと見開いて暴れ始める。

 あまりのお菓子の美味しさに、頭の螺子が数個ほど弾け飛んでしまったようだ。縄を引き千切らない勢いでジタバタとのたうち回りながら唾を飛ばして叫ぶ。



「おごおおおおおお、食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたいいいいいいいいいい!!!!」

「こっちも壊れたね」

「そうですね」



 二人揃って狂った絶叫を轟かせるチンピラを可哀想な目で見下ろすユーシアとリヴは、静かに次の行動を開始する。


 純白の対物狙撃銃を暴れ狂うチンピラの一人に向け、ユーシアは迷わず引き金を引く。

 射出された弾丸は的確にチンピラの眉間へ吸い込まれ、ゴガッという痛々しい音を立てる。対物狙撃銃の弾丸を受けたチンピラは途端に大人しくなり、盛大ないびきを掻きながら寝始めた。


 もう一人のチンピラには、リヴのナイフが襲いかかる。

 彼の喉元を白刃が無慈悲に引き裂き、ぶしゃりと真っ赤な液体が滴り落ちる。糸が切れた人形のようにチンピラはあっという間に死に絶え、路地裏は静かになった。


 汚い地面に転がる残ったグミを踏みつけ、リヴは「どうしますか?」とユーシアへ振り返る。



「現地調査に行こうか? 夕飯の買い出しもしなきゃいけないし」

「了解です。スーパーでいいですか?」



 お菓子に狂った末に悪党の手によって殺されたチンピラを放置して、ユーシアとリヴはさっさと路地裏から立ち去った。


 会話自体は呑気なものだが、その背後に広がる光景はどう見てもやべえ臭いしかない。

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