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氷上のシヴァ  作者: 天上杏
第三章 Ruiner 朝霞美優
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第22話 過去との邂逅

 あれから十二年も経つというのに、どうして身体は筋肉の動かし方を覚えているのだろう。

 トレースを描くためのエッジへの力の掛け方。

 体幹から四肢、末端に至るまでの神経の配分。

 フリーレッグを上げたまま片足ディープエッジで曲がる時の、身体を通る一本の線のイメージ。


 最早私は私を動かしていない。

 私の中のかつての私が、身体をコントロールしている。

 忘れかけていた感覚が、フリーズドライのように蘇る。

 私の奥で眠りについていたスケートが、覚醒する。


 ターンを回り、ポジションチェンジで手を組み替えた時の、自然と出した手の高さに、自分で驚いた。

 ……あの人の手は、もっと低い位置にあった。

 ずっと、あの位置を身体が覚えていると思っていたのに。


 手だけじゃない。

 フリーレッグの高さも、倒すエッジの角度も、ホールドの深さも。

 私の感覚は、刀麻君の手をとった瞬間、チューンアップが完了していた。


 リードされていて、全身がベストバランスで受け止められているのが分かる。

 信じられるのではない。分かってしまうのだ。

 だから、こんなにも委ねていけるし、攻めていける。


 この呼吸のしやすさは、あの頃には無かった。

 ずっと、私は息苦しかった。

 でも、それは仕方の無いことだと思っていた。

 背の高い私が、あの人とトレースを、流れを、時間を共有する対価として、苦しさを担うのは当然だと思っていた。

 そこに美徳を感じる時さえあった。

 けど今はもう、それはただの錯覚だったと分かる。


 ずっと、身体のせいで心が我慢してると思っていた。

 逆だ。

 私の身体を抑圧していたのは、私の心。


 もう誤魔化さない。

 私の本当の位置は、ここ。

 本当のスケールは、こう。

 身体を解き放てるということは、何という喜びに満ちているんだろう。


 私は、ルッツとフリップを失う前の自分と邂逅していた。

 手足を惜しみなく広げて踊ることに、まだ何の躊躇いも持っていなかった自分。

 思い通りに行かない身体でも、私は私なんだと当たり前のように手を取り合っていた自分。

 ワガママでいられた、かつての自分。

 気付けば、一筋の涙が私の頬を伝っていた。

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