表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
氷上のシヴァ  作者: 天上杏
Bonus Track 第六章 Butterfly 霧崎汐音
158/184

第25話 アニマの依代

 思わず後ろを振り返った。

 不安な眼の色のまま、可憐はちらりとわたしを見た。


「どうしたの」

「……見えてないの? 可憐」

「……何が?」


 そう言って、怪訝そうに目を動かす。

 可憐の瞳が何も捉えていないのは明らかだった。

 わたしは死にかけの魚のように口をぱくぱくしていた。


「汐音ちゃん。あなただって、無関係じゃないのよ」

 毅然と先生が言った。


 その声に呼応するかのように、シオリの目に光が宿った。

 開いた瞳孔は、真っ直ぐわたしを捉えている。

 縋るような瞳だった。


 わたしは気付いた。

 目の前にいるのは、シオリであって、シオリじゃない。

 ——《《彼女》》は、今この瞬間も、氷の上に行こうとしている。


 ぶかぶかのレオタードを、骨と皮だけの身体になっても脱ぐことができない。

 白いスケート靴は傷でボロボロだった。幾重にも重なった染みは、血。そして吐瀉物。

 震える足はもう真っ直ぐ立つことすら叶わない。

 それでも、もう一度飛びたくて。


 ……先生。

 《《彼女》》は全然、成仏なんかしてないよ。

 納得なんかしていない。

 なのに、あなたは一体何を言っているの?


『逃れられない』

『コントロールする』

『付き合っていく』

『仕組みを呪わずに』


 その言葉の本当の意味を、あなたは分かっているの?


 鉛を飲み込んだように臓腑が重い。

 熱で溶けた金属が、肉体を内側から鋳っていく。

 嫌いだ。

 重いのも、熱いのも。

 全部嘘だと思う。

 だって、こんなのはわたしじゃない。


 わたしの中で起きていること。

 まだ起きてないけどこれから起きること。

 全てを見透かすように、先生はわたしを見ていた。

 対岸から見下ろす女の目。

 少女の忘却者。


 いいよ、とわたしは背後の《《彼女》》にうなずいた。

 ――わたしは絶対見捨てない。

 煙のように、シオリが消える。


「そんなの身体に入れるくらいなら、スケートなんて、わたしはやめます」


 きゅ、と蛇口をひねるような音がした。

 体内を循環していた流れが止まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ