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もんもんモンスター  作者: 猪八豚
大怪物屋敷
99/150

99 怪物少女の闘争:夜のフォンデュ

 闘技場の周囲に建てられ、出場する全チームに一軒ずつ提供された小屋は、小屋と言っても二階建てで、やけに大きい。


 個室はビジネスホテルかシェアハウス並みに小さいのだが、全ての部屋に窓が備わっているだけでなく、部屋数も二十部屋程用意されていた。


 闘技場を一望できる観客席の付いたベランダにはソファ等も完備され、一通りの生活は十分できるように設備が整えられている。


 大きなリビングやキッチンも完備だ。どうやら調理などは自分でしなくてはならないらしいのだが、食材などは食糧庫に思っていた以上にうず高く積まれて準備されていた。


 無いものが全く無い感じ。おそらく、神の力とか呼ばれているが、実態は熱狂的信者達の献身的な努力に支えられて集められたものなのだろう。


 なんという恐ろしい力だ。こんな連中を野放しにしていたら、世界が危ういのでは……?


「ぶおおお~~~~ん♡♡ これ全~部、食べてもいいんですかぁっ!?」


 食料庫にチャーミーの心からの歓声が響き渡る。


「いくら食べても良いらしいが、流石にこの量は食べ切れないだろう? 好きなものだけ食べるというのも身体に悪そうだし、折角だから俺や皆で調理したものを食べてほしいんだが、聞いているのかいチャーミー」

「ぶおっ、おっ、ほおっ! おいひっ! おいひいれふっ! ほおおっ! ほおおおお~~~ん♡♡♡」


 がつがつ! むしゃむしゃ! ぼりぼりっ…… うず高く積まれていた生の食材達が次々とチャーミーの胃袋に消えていく様を、俺は恐怖耐性をフル活用しつつ見守るしか無かった。


 適当に食材をピックアップしてキッチンに戻ると、リビングでメス爆弾対策を練っていた筈の皆が、テーブルに向かってやる気が無さそうな態度でだらけていた。


「流石に、カッコ悪いよなあ……」


 いくら考えても、爆発する前に奇襲して爆破スイッチを押させない……という戦法くらいしか思いつかないらしい。


「破壊の上級女神メスは、上級昇格前は戦闘防衛の神でした。彼女の女神バリアは現在の神界でも一人で展開するバリアとしてはトップクラスの防御力を持っている筈なのに、自分の爆弾の威力を完全に防ぎきれていなかったんです」

「髪の毛や装備を焦がしてまちたしね……」

「それを考慮すると、私程度のなんちゃって女神バリアや、ヌガー様の今まで使ったことがないバリアに期待は出来ません……」

「うふふ、自慢じゃないけど、バリアの貼り方とか覚えてないのよね~」

「フィレの作ったシールドも、あの爆発には耐えられねえらしいしなあ……」


 悩む皆を眺めながら、とりあえず無計画に野菜の皮をむく。野菜を切っているうちに作るものが頭に浮かんでくる事は良くあるのだ。


 あ、そうだ。アレなんかどうだろう?


 確か、家でピザを作る時用の細かいチーズを大量に用意して、全体に片栗粉をまぶすだけ……


「鍋に、にんにくをこすりつける……だったっけ? 長いことやってないから正確には覚えてないな……」


 その鍋で白ワインを沸騰させ、アルコールを飛ばしつつ、チーズを少量ずつ入れて焦がさぬよう溶かしていく間に、具材の準備を進める。と、言っても野菜を切ったり茹でたり、パンを切って焼いたり、簡単に小さなステーキを焼くだけだ。


 アスパラにベーコンを巻いたものを作るのが割と面倒だが、俺の好物なので我慢して巻いていると、ルアが寄ってきて手元を覗き込んでくる。


「なんか、めちゃくちゃいい匂いがしまちゅけど……マスター、これ……何作ってるんでち?」

「夕飯にどうかなって。今、テーブルのコンロに鍋を移動するから、少しずつチーズを投入して溶かしてくれ。最後に塩胡椒で味を調えるから……」


 どす~ん! どす~ん! 体型を丸く変えてニッコリ笑顔で戻ってきたチャーミーに、引き返して適当にソーセージ等を持ってきてもらうように頼んだ。


 テーブルに並んだ料理は、俺製ホカホカの出来たて適当チーズフォンデュだ。


「具材は適当に作ったけど、何なら自分で食料庫から持ってきてもいいよ。このチーズフォンデュは、フォークで具材を刺して、鍋の中のチーズに潜らせて、食べる。という料理だ」

「マスターよぉ……いくら俺達がモンスターだからって、随分適当なチーズ鍋……お、お、おいしい!!? なんだこりゃ!? うんめええ~~!??」


 適当に焼いたフランスパンにチーズをつけて口に放り込んだファフニルの態度急変を見て、全員が手を伸ばし喉に食材を滑らせ、全員がカッと目を見開いてその味に驚愕している。


「な、なんでちかこれ……これ、マスターの故郷の食事なんでち? これは、やばい……」

「俺の故郷っていうか別の国の料理なんだけど、美味いから割とメジャーだな……俺の作り方は適当だから、本物はもっと美味しい筈だよ。本物を食ったこと無いけど……」


 そう言いながら俺もトマトにチーズを絡めて食べてみた。うん、とても良く出来ている。


「こりゃまた美味……だ。こんなものを食べたら、豚の頭がおかしくなってしま……う」

「ぶひょおおおおおおおおおお~~~~~~ん♡♡♡ ぶあっ♡ ぶああ~~っ♡♡♡」

「メス爆弾と戦うのは明後日です。今日のところは美味しいものを食べて、ゆっくり休んで明日考えましょう……!」

「あ、あの、マスター……私、この料理を食べて美味しさのあまり正気に戻ったんですけど、私、ずっと腋の下を舐められて……?」

「すごいの~、人間ってこういうのを作り出す天才じゃと思うもん……」


 ふとヌガー様を見ると、チーズにくるまったソーセージを瞳に近づけて、ボーッとした顔で見つめていた。


「ヌガー様? もしかして、口に合わなかったかな……?」


 うへっ? という顔で見つめ返される。


「違うの! チーズフォンデュはびっくりするくらい美味しいよ! でも、そうじゃなくて……これってやっぱ、アレかなあ……って。むむむ……」


 服も脱がずに、じっくり何かを考え込んでいるヌガー様。珍しい光景にしか見えないので、それ以上の突っ込みはやめておいた。彼女も一応偉い神様なのだから、何か俺たちには考えつかないような知恵を働かせてくれているのかもしれない。服も脱いでないし。


 まさかその後、彼女が風呂場を占領し、自分の裸体を浴槽に張ったトロトロの黄色い謎液体に漬けて「ヌガーフォンデュ~!」と叫びながら全裸生放送を始めるだなんて思わなかった俺達は、考え込むヌガー様を温かい目で見守っていたのだ。

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