98 怪物少女の闘争:四回戦 混沌の上級神カカオ vs ド変態の上級神アオーン
「折角だから、丸出しおじさんやバニーさんを食事にでも誘おうかと思ったんだけどな」
どうやら、大会の開催中は他のチームメンバーと会ったりする事が出来ないらしいのだ。それどころか、開催中は基本的にはチームの小屋と闘技場の上にしか行けないらしい。
「不正対策……だね。仕方がない……よ。ほら、見て……ああいう、何するかわからないような連中もいるんだ……から」
アオリが指差した闘技場には、四回戦に参加するチームが上がってきていた。拡大映像で確認すると、まるで最終戦争後の荒れ果てた世紀末の大地で戦う野生の男たちのような格好だ。
「双方の戦士が、全身を皮革製ボディスーツで固めたモヒカン頭達か……確かにバイクで追いかけてきて、火炎放射器とかを向けてきそうではある」
「バイクって何だ……? んー、ありゃあ、ボトルマスターだな。乳首と股間を簡単に曝け出せるように、チャックが付いてるみたいだし」
「まだ音声中継が無いから、何を言ってるのか……でも、あの表情を見れば大体わかりまちゅ。互いに何か酷い事を叫びあってるっぽいでちね」
「えっ!? うわっ、誰かと思ったら、カカオとアオーンじゃないの!? やだっ、大丈夫なのかな、この対決……!?」
戦士たちは、釘バットをぶんぶん振り回したり、謎の液体を口に含んで吹き出して火をつけたり、やりたい放題だ。
『さあ、本日最後の四回戦は……私、こいつら大嫌いなんで適当に紹介を済ませますが、混沌の上級神カカオチームと、ああ、もう、見るのもおぞましい!ド変態の上級神アオーンチームの戦いにゃ。双方の見た目は神も戦士も全員が素行の悪い不良少年そのもので、やたらと高圧的! 今も互いに暴言を吐きあって、既に戦いは始まっていますにゃ~!』
流れに従って闘技場の上の音声が流れ始めるが、モヒカン同士がお互いを詰るための罵声は聞くに堪えないひどい内容だった。
「オラッ! オラッ! 縮こまったちんぽ、見せんかい、オラーッ!」
「おめーらこそ、ちんぽ見せんかーい! さっさと見せんかーい! オラーッ!」
「怖いんか? ちんぽっ!? 怖いんか!? ちんぽ見せんのが、怖いんか? オラーッ!」
「ハイ! ちんぽ♪ ハイ、ハイ! ちんぽ♪ ちんぽ♪ オラーッ!」
お互いに向けて股間を突き出しているのは何らかの威嚇行為なのだろうか……? 彼らの価値観を理解する必要は無いと思うのだが、一体何が彼らを突き動かしこのような行為をさせているのだ……?
『うーん、申し訳ないにゃ。彼らの発言内容があまりにも下品なので、スポンサーから物言いが付き、この試合、音声は状況を見つつ随時カットしてお届けします。また、残念ですが、映像の拡大表示は中断しますにゃ』
ありがたくないことにモヒカン達が乳首や股間をフルオープンにして互いに下劣な事を言い合っている姿が拡大表示されていたのだが、それらが全て無くなったので、その後は何が何だかさっぱり解らなかった。
「うん、終わった……な。さて、今日はどうするかな……」
今日の試合はこれで終わりらしいので、晩飯に何を作るかを考えていると、ファフニルが身を乗り出して目を細めて観察している。
「おっ? なんかあいつら、定規っぽい棒を取り出したぞ?」
このチーム小屋からだと随分遠くでの戦いなのに、良く見えるもんだなあ。
「すまん、俺には見えないな……装備の望遠視点を使ってみるか?」
「あれは小型の魔導カメラを飛ばして実現してますから、現状では使えませぇん!」
「マスターッ♡ 腋の下♡ 私、何百回もぉ…… イッ……♡ イ……ッ♡」
いつの間にか、フィレが俺の横に居た。フィレを脇の下に収納した6号も一緒であり、6号の状況は変わらないようだ。
「6号様の大変貴重な腋をじっくり味わいながら考えていたんですが……残念ながら、マスターに預けているベルトの性能では、メス爆弾の爆裂に耐えることが出来ませぇん」
「やっぱり駄目か。強化出来ると良いのだが……」
「えっ? え~~っ? ぐえええええ~~~~~っ!?」
突然の大声に驚いて会話を中断する。声の主は……ファフニルだった。
「どうした」
「どうしたんでぇす?」
「あ、あいつら、急に尻を出して、お互いに向け始めたと思ったらよ……」
それきり黙ってしまうファフニル。闘技場を見てみるが、俺の目では下半身が裸になっているっぽいモヒカン達の姿が何とか確認できるくらいで、それ以上は解らなかった。
「確かに……下半身を露出しているっぽいな。こんな事を言うのも何だけど、そんなの、これまで出会ってきたボトルマスター達なら、日常茶飯事だったじゃないか?」
「いつもみたいに、回転やバウンドさせたりはしていないんでち?」
「そうじゃねえんだよ! 彼奴等、定規で…… 測っ……!」
変態ボトルマスターが定規で測る物って何だ? と思ったのだが、まぁ、あれで間違いあるまい。
「なるほど、ここからじゃ見えないけど、陰茎や陰嚢の大きさを定規で比べ合いっこしているのか。そりゃ引くなあ……」
「あたちにも見えないでちゅけど、救いようがない変態でちね……」
「違うんだ、違うんだよ……ああっ、俺じゃ説明できねえ! とにかくありゃあダメな奴だ!」
ファフニルが両手をクロスさせバッテンマークを作り、首を横に振りながら否定する。
「じゃあ、私が女神アイで見てあげるね。んんん~っ!! 【女神アイ】~ッ!!」
「ちょっ、おい待て、気が早いんだよ!」
瞳を閉じ額に指を当て、くるくるとこねくり回してキッ!と目を開けるレム姉さん。人差し指と親指で作った輪っかを通してモヒカン達を見て、ピタリと動きが止まった次の瞬間。
「いやだっ!! 全員、うんこしてるんですけど~~~っ!!??」
顔色を真っ青にして全身を震わせたレム姉さんの絶叫が響き渡った。
「……定規で長さを測って、競い合ってるんだ、彼奴等」
ファフニルが言いにくそうな顔で詳しい状況を説明する。説明を聞いてもわけがわからないのだが、とにかく全員でうんこをして、その長さを定規で測っているらしい。
「もぐもぐ、ぶおお~ん? うんこでぇす? どうして、なんで、うんこの長さを? もぐもぐっ!」
そういえばこの中で一番視力が良いはずのチャーミィは、闘技場を見ようともせずに幸せそうな顔で今も備え付けの何かをパクついている。うんこの話をしながら平然と物が食える女、チャーミー。
「ルールでは戦いの内容までは定められて……ない。彼らは、うんこの長さで戦う事になったの……かな?」
「排泄物の長さで戦うだなんて、ウサギの獣人では勝ち目が無いじゃないですか。どちらかのチームは次にダンシング・バニーさん達と戦う筈ですよ?」
アオリとキリコが分析しているが、ウサギの獣人のうんこがウサギのようにコロコロしているとは限らないし、別にうんこの長さで戦わなくてもいいだろうし、全ては一言で済ませることが出来る。
「とにかく解った。わけのわからない変態だという事が……!」
「変態どころの話じゃないですよ! どう見ても、完全に発狂しています! あいつら、昔から頭おかしいんですよ!!」
『ええっと、闘技場の上では、揃ってうん……いや、信じられない闘い? が、繰り広げられていますにゃ! ええと……この闘いは、果たしてどういうケツ……いや、結末を迎えるのか……!? おええ……っ!!』
どうやら大変に臭そうな発狂バトルが繰り広げられているらしいのだが、俺のそれほど良くない視力では遠くで小さな人たちが何かしてる程度にしか観察できない。
「お、おい……なんかお互いの上級神の腹を出して張り付けにして……何だ、何する気だ!?」
「うう? 嫌だけど、唇を読むわね。ええと…… タガイ……ニ…… ハラパン…… ウンコ……モラシ……タラ、マケ……ダ…… オラァッ!! ……ですって」
互いに腹パン。うんこ漏らしたら負けだオラァッ!!
「は…………?」
レム姉さんの言葉に、ファフニルの動きは固まり、彼女にしては珍しく絶句していた。
「な、なあ……ちょっと待てよ……? そりゃ、俺だって神ビッチとか冗談半分に言ってるけどよ……上級神ってのは、神の中でも特別偉い奴なんだろ? そんな奴らが腹パンって……漏らしたら負けって……?」
「こんな事を言いたくないけど、ヌガー様を見ていればわかるでしょう?」
後ろを振り返るレム姉さん。そこには、今日何度目になるのかわからない生放送を始めたばかりのヌガー様が、嬉しそうに頬を赤く染めながら声を発し、徐々に裸体になっていく姿があった。
「八百万の神々ってのは、神聖な方もいれば謎な方もいる……とにかく色々な方が居るの。ほらよく見て、いま二人にササッと注入されたやつ……あれって強力な浣腸だからね?」
状況を理解したくないが、とにかく闘技場の上は益々地獄レベルが上がっているらしい。
『音声のみ、回復しま~す!』
強力な浣腸を注入済みだと気がついていないらしいニャンコちゃんのアナウンスと共に、闘技場上の音が流れ始めてしまった。
ドス~ンッ!! ボス~ンッ!!
「「「出るのかっ? 出すのかっ? オラーッ!!」」」
これは、恐らくは腹パンの音と、排泄を促す戦士たちの掛け声だ……。
「うぐっ! クハハッ!! ほ、ほれ、もう、出したっていいんだぞぉ?」
「おおんっ! お前こそ、が、我慢するな。もう、出そうなんじゃないのぉ?」
混沌の上級神カカオと変態の上級神アオーンの煽り合いらしい会話が聞こえてきた。その後も連続して続く腹パンらしき音。
ドスンッ!! ボスンッ!!
「「「出るのかっ? 出すのかっ? オラーッ!!」」」
「ぐえっ! ぐっ! うぐぉ……! ぉ、ぉ……!!出っ、出っ~!!」
「おおんっ!! おん、おん、おんおん、お! おんおんお~ん!!」
ドスッ!! ボスッ!! ドスッ!! ボスッ!!
「「「出るのかっ? 出すのかっ? オラーッ!!」」」
「イ!! イギッ♡ まだっ、まだ俺はっ……!! イ♡♡ ま、まだっ!」
「おんっ! おんっ! おんっ♡ おんっ♡♡ おっ、お、おおお~っ♡♡♡」
そういえば上級神は直接バトルに参加できないとかいう説明が最初にあったはずだが、誰もツッコミを入れ始めない所を見ると、恐らくこれが普通なのだろう。関わり合いを持たずに早く帰る準備をしなくてはならない気がしてきた。
「ぶおおお~ん……? 闘技場の上で、一体何が起きているんでぇす!? もぐもぐっ!!」
「カカオとアオーンは神界の異常変態仲間で有名だったわ。私がああいう連中の趣味を少し知ってるのも、近所で変態騒ぎを起こしまくってたあの二人のせいだもの」
「連中の趣味って、具体的にはどういうの?」
「男の乳首……そんなの言えるわけがないでしょう! でも、まさかこの大会でこんな事をし始めるだなんて……!」
男の乳首とだけ口にしたレム姉さんが慌てて言うのをやめた。
「ひいっ、マスター、ごめんなさい! わ、わ、私、今この場に居たくありません!」
「ああ、大丈夫だ。それが正常だから、キリコは小屋の中で耳栓を使って……」
その時。大音量で、何か聞いてはいけないような効果音が鳴り響いた気がしたのだが、俺達の記憶はここまでで一旦途切れている。大会運営を執り行う時間の上級女神の手によって、闘技場上以外の時間が緊急停止させられたらしい。
気がつけば、闘技場の上では全裸のアオーンと全裸の戦士1人だけが立っており、その他の者たちは全裸で倒れ、ピクリとも動かなくなっていた。
一体何が起きたのか、知りたいような知りたくないような。
『え~、ご観覧の皆様、出場者の皆様、お見苦しい物をお見せしてしまい、誠に申し訳ありませんにゃ。勝者はアオーンチームですが、私、二度とこいつらの姿を見たくありませんにゃ……』
「……………………すごいな。バニーさん達、次はあれと戦うのか……」




