97 怪物少女の闘争:三回戦 祈りの上級女神プリエ vs 平凡の上級神テン その②
血溜まりに走り寄るバニーの仲間達。
「バッ……! バニイイイーッ!?」
「バウウッ!!バウウウーッ!!」
「あ、あ…… マ…… マス…… ター…… ポチ…… …」
続いて血を吹いた下半身が膝をついて倒れ、ダンシング・バニーの命の灯が消えていく。あまりにも酷い光景で、おそらくは復活させてもらえる筈だが……それにしても何故あの最強スキル『レッツ・ダンシング』が効かなかったのか?
これまで効かなかった相手は、旧神王だ。俺と契約する前のバニーさんのダンスでは効果が無かったのだ。だが、契約してパワーアップ、4人で揃ったダンスならば問題なく通用した。
今のバニーさんは以前に比べて相当にパワーアップしているのを感じるし、一人でも旧神王を踊らせることが出来るかもしれない。しかし、そんな彼女のダンスが、相手チームの4人には通用しなかった。
一つ考えられるのは、あの普通そうな上級神や戦士おじさん達が、旧神王を上回る超戦士軍団だということだが……? そんな規格外の連中が居るのだろうか?
「ほーん、なるほど、テンチームの連中、重ね掛け出来ない同系列の状態異常スキルをあらかじめ使っているわね。あれは『レッツ・スマイリング』……レッツ・ダンシングと違って笑顔が崩せなくなるだけのスキルだけど、単純な分強力な効果を発揮するわ」
レム姉さんが指を輪っかにして覗き込んでいる。女神アイで確認しているらしい。
「バニーのダンスを警戒しての行動なのか? それって、事前に相手の戦法が判ってしまっているって事じゃ……?」
「テンは平凡の上級神だけど、身体能力も含めて色々と非凡で有名なの。それでも生まれつき与えられた使命である平凡を装う為に何でもする、一種の変態よ。あの笑顔スキルは作戦でも何でも無く、単なるいつもの彼の変態的な平凡偽装だと思う」
『なっ、なんということだにゃ!? 我々が踊ってしまっている間に、うさ耳戦士が……ぎ、ぎにゃああああ~っ!!?』
誰もがダンシング・バニーの決定的な敗北を目にした次の瞬間、ぶしゃあああっ! と血が吹き出し、ボトリ、と戦士おじさんの首が落ちた。
「ふう、危ない所だったぴょ~ん!」
驚愕の表情で転がる戦士おじさんの顔の前には、バニーの血の池地獄が広がっているはずだったのだが……今はバニーのセーラー服が着せられた木の切り株だけが転がっている。
「『葉隠流暗殺術・変わり身の術』……レッツ・ダンシングと引き換えにキリコちゃんに教わったこの技、練習しておいて本当に良かったぴょ~ん!!」
「ふふ、まだ全然甘いです。上着を、失ってしまっているじゃないですか……!」
キリコが厳しい感想を述べる。しかし、その表情は明るく、とても嬉しそうだ。
「吾輩にも本当に死んだように見えたぞ。凄まじいな、そのスキルは……」
「ばうっ! ばうーっ!」
「さあっ、次はどのおじさんが相手になるぴょん!?」
バニースーツ一丁のダンシング・バニーが、足に付いている刃物の血を振り払いながら、テンチームに対して構えを取った。
「我らに力と知恵と勇気を授け、お導きを。願わくば、我々に勝利の祝福を……!」
バニー達の背後では、祈りの上級女神プリエ様が、これ以上無いくらいに女神らしい姿で美しく輝きながら祈りを捧げている。その全身から溢れ出る爽やかな光がバニー達を包み込んでいて、なるほど……もしやあれが神の支援とかいうやつなのか? と、思わせてくれる。
全裸生放送の上級女神ヌガー様ではとても考えられない神聖な光景だ。
「な、なによぅ!? かわいこぶっちゃって! 私だって、本気を出せばあれくらい出来るんだから~! 見て! 見てぇ~っ!」
いやあ無理だろう……? と思いながらヌガー様の姿を確認すると、つい先程の全裸放送で汗まみれになり、つやつやにテカっている体で、祈っているというより念動力を使ってお茶の間を騒がそうとしている感じの必死な表情を浮かべていて、何というか……。
「レム姉さん。俺達は、もしかしてハズレを引いてしまったのではないだろうか?」
「何を言ってるんですか!? ヌガー様はスゴいんですよ!? そりゃ、ちょっと変わっている方ですが、その秘めたスゴい実力は…… えっと、スゴい実力……?」
突然、観客席にどよめきが走る。テンが残り二人の戦士の手を取って何やら念じた次の瞬間、二人の身体が二本の巨大な剣に変化したのだ。
「えええっ!? テッ…テン様!?」
「何をなさっているのです!?」
剣の表面に残っている戦士の顔が、笑顔を失い戸惑いの声を上げる。
「今の一撃を見て、平凡を装う余裕は捨て、自ら全力で挑まねば勝てぬ相手だと判断した」
ウワアアアアアーッ!!! と沸き立つ観客席。
『おおっと、ここでテンくんチーム、ルールを破って上級神リーダーのテンくん御自ら乱入だにゃあ~~~っ! この場合でも3人の戦士が倒れれば敗北! つまり、あの剣二本が破損したら、敗北にゃっ!!』
「ルール破りは日常茶飯事の大会よ。ただ、情けない方法で最後まで勝ち残れるほど甘くないし、そんなやつを神王だと皆が認めるわけがないから、やるなら覚悟をキメないと駄目なの」
平凡の上級神な筈だが、笑顔を捨て、明らかに平凡ではない筋肉の鎧で身を包んだ彼の持つ二本の刃が目にも留まらぬ速度で空間を切り裂き始める。
「はあああーっ! 平凡神二刀流奥義、おじさん流星剣を受けてみるが良い!!」
なんともはやなネーミングセンスだが、彼は上級神であり、おそらくはレム姉さんよりも強い神なのだ。
だがバニーは、それでも腰についた怪しげな器具で音楽を流し始める。首、胸、おしりの順番に体をふりふりし、今までよりも圧倒的に高速なリズムを取った後、これ迄にない軽妙なダンスを踊りはじめた。
「いっしょに最後まで踊り狂おっ! スペシャル・レッツ・ダンシングだぴょ~ん!!!!」
ズン! ズ! ズン! ズンドコ!! ズン! ズ! ズン! ズンドコ!!
踊るっ!! 踊るっ!! ぴょ~んぴょぴょぴょ~ん!!
「ハハッ、お前のそのスキルは、平凡な俺にだったら効いただろう。効かずとも、効いたように見せかけたに違いない。だが、今の俺は平凡さを完全に捨てている。上級神の力を全開にした俺に、そんな宴会芸スキルが効くわけがない!!!」
そう言いながら、剣を手放して軽妙なダンスを踊ってしまっているテン。自らの状況に気がついて目を見開き、呪縛から脱しようとしているが、完全にかかってしまったレッツ・ダンシングから逃れる術など存在しないのだ。
ズズズン! ズズズン! ズ! ズ! ズンドコどっこい!!
踊れっ!! 踊れっ!! ぴょんぴょんダ~ンス!!
「嘘だっ!? なんだこのスキルは……僕は、上級神だぞ!? 何で踊りを止められないのだ~~~っ!?」
その直後、ふぐりのおじさんとチベタンマスティフが地べたに転がり完全に無力なおじさん剣二本を破壊し、ニャンコちゃんがプリエチームの勝利を宣告する。祈りの上級女神プリエ様の感謝の声と共に大きく会場が湧き上がり、大盛況のまま試合は終了した。




