96 怪物少女の闘争:三回戦 祈りの上級女神プリエ vs 平凡の上級神テン その①
それにしても嘘のようにあっさり勝ってしまった。仲間の強さが半端ない事は解っていたが、あんな人数にあっさり勝利するとか、嘘みたいだ。
討ち取った証だろうか? よく見ると鞄にうさ耳を詰め込んでいるらしく、それがはみ出している事に気がついていないレム姉さんに、俺も気が付いていないよう慎重に振る舞いながら、現状について聞いてみた。
「ミライくんたちは、前の神王を倒していますからね。異常化していたとはいえ神王です。あの段階ですら、相当に強いと言えるでしょう」
鞄からはみ出たうさ耳に気がついたのか、鞄を後ろ手に持ち替えて背後で詰め込み直そうとしているレム姉さんの不審さに全く気が付かない振りをしていると、続きの言葉が飛んできた。
「ただ、この戦いは一体どんな猛者が戦士として入り込んでいるのか想像も付きません。油断は出来ませんよ」
「そもそも、どのくらいの試合数があるんだ? トーナメント表があると嬉しいんだけど」
さすがにあるだろう?と思って探してみると、今日も目の前で激しく殆ど裸で生放送しているヌガー様の荷物に丸めて突っ込まれていた。16チームがトーナメントを行い、最後に残った1チームが優勝である。
参加者の名前などは伏せられていて、どういう仕組みなのかはわからないのだが、既に出場したチームの名前は自動で記入されるらしい。ヌガー様やメスの名前が記入されていた。
これを見る限り、あと3回勝てば良いわけだが……。予想してはいたが、次の対戦相手はやっぱりメス爆弾のチームなのか……。
あんな兵器に、一体どうやって勝てばいいんだ……?
『それでは、3回戦を始めますにゃ! まずは、そのやたらと神聖で清らかなお祈りのポーズで、逆に全ての神達を惑わし続ける、祈りの上級女神プリエちゃんのチーム! 対するは、どこからどう見ても神様には見えない平凡な笑顔のおじさんなのに、その正体とは? 平凡の上級神テンくんのチームにゃあ!』
プリエチームの上級女神プリエ様は沢山の美しい布を使った何かで包まれているのだが、その隙間からチラリチラリと見え隠れするそれほど豊潤でもない身体の一部に、何故なのかちょっとびっくりするくらいに罪の意識を感じてしまい、ヌガー様の全裸解放生放送にすっかり慣れた俺でもドキドキしてしまう。
「今度の戦士はどんな奴なんだ? ……あれ? プリエチームの奴らに、ダンシング・バニーが居るぞ?」
零れ落ちそうな満面の笑顔でこちらに向かってダンシング・バニーが手を振っていた。陰嚢おじさんの姿が見当たらないが、あの見た目がヤバいおじさんは姿を変えられるので、残り二人のうちの一人なのかもしれない。
「久しぶりだが、相変わらず元気そうだな。相手チームの戦士は……なんか、普通に戦士だね?」
普通の鎧に身を包み、普通の剣を持ち、普通の盾を装備している、ありとあらゆる場面で普通そうな笑顔のおじさん戦士が3名。普通に強そうだけど、普通だ。
『さあ、さあ、試合はもう始まっているにゃ! ファイッ!!!』
ニャンコちゃんの掛け声を聞いて、疑問に思ってヌガー様に声をかける。
「1回戦から思ってたんだが、アナウンサーが『試合はもう始まっている』って必ず言ってるけど、具体的にはどのタイミングで試合が始まってるんだ?」
「さあ……? 闘技場に上がれるようになった瞬間に、なんかヤバい毒ガスを相手チームの小屋に向かって放って全滅させたチームがお咎めなしだったのを見たことがあるけど……?」
それを聞いたファフニルが、信じられねえ!という顔で怒り出す。
「はぁ!? なんだそれ? そんなの、ルール無用の殺し合いじゃねえのか?」
「推奨マニュアルでは順番に戦う事になってるけど、これって結局は死亡無効恨みっこ無しのお祭りだからね~。観客が面白ければ何をしてもいいのがルールだよ。戦士3人で攻めてもいいし、実は代表の上級神が突撃してもいいの。すごい爆弾で相手全滅もオッケーだったでしょ?」
「ぶおおお~ん……? な、な、何をしてもいいんですかぁ……? えへ、えへへ……!!」
チャーミーの顔が何かを妄想し悦楽にだらしなく歪み、全身のありとあらゆる穴から水分を垂れ流し、容赦なく床材を抉っていく。今日の彼女は一体何を夢見ているのだろう……?
闘技場上の音声が流れるようになったらしく、ダンシング・バニーの声が聞こえてきた。バニーガール衣装に身を包み、ふかふかのマフラーを巻いた、上半身は相変わらずセーラー服の女が、可愛らしいアイドル声で叫び出す。
「ふふふっ、先手必勝の最強スキルを持った私が、呼ばれて、飛び出て、ぴょぴょぴょぴょ~んだぴょ~ん!!!」
背後に立った二人の戦士の姿が変化し始める。まぁ、予想通りではあったのだが……後ろから見ると素っ裸で陰部むき出しなおじさんと、なんと富裕層御用達犬チベタンマスティフだった。
「戦士が犬かよ。でも、犬って案外手ごわいんだよな……」
「ふああっ!? あの犬まで姿を変化させるんでちね!?」
「あの犬を飼えれば……機関車に姿を変えてもらう事……で?」
「我も同じことを考えておった。変化技は吸血鬼にも伝統芸があるのだが」
バニーさんは腰についた器具で音楽を流し始め、首、胸、おしりの順番に体をふりふりして、何やら独特のリズムを取った後、その場でリズミカルでちょっと変なダンスを踊りだした。
「みんなーっ! いっしょに限界まで踊ろ~っ! レッツ・ダンシングだぴょ~ん!」
ズン! ズン! ズンドコ!! ズン! ズン! ズンドコ!!
踊れっ!! 踊れっ!! ぴょんぴょんぴょ~ん!!
「すごいですね……。舞踏による支配技術に、より一層磨きがかかっている事がわかります……ですが」
キリコが大真面目な顔で観察している。相手を誰でも望み放題に踊らせるというふざけたスキルだが、その支配能力のヤバさは旧神王撃退時の性能で折り紙付きだ。恐ろしいことに、技が届かない筈の闘技場の外の観客たちも踊り始めている。だが……?
ズン! ズン! ズンドコ!! ズン! ズン! ズンドコ!!
じゃんぷっ!! じゃんぷっ!! ぴょんぴょんぴょ~ん!!
『おおっと、プリエちゃんチームのうさ耳戦士が、大戦時代の超迷惑スキル「レッツ・ダンシング」を放ちましたにゃあ! あ、あれ? お、お、踊ってしまうにゃああ~っ!? 私、アナウンサーなのに~~っ!!』
「見事である!! ダンシング・バニーのスキル『レッツ・ダンシング』は、効果範囲であればどんな強敵でも強制的に踊ら、せ……?」
そう、旧神王ですら最終的には躍らせてしまったスキルの筈だ。しかし、テン側の戦士や上級神テンは、踊らずに変わらぬ笑顔でバニーの姿を眺めていた。
「もう死んでいるのに、随分と元気だな?」
「えっ? どういう事だぴょん……!?」
何時の間にか、バニーの横で剣を振り下ろしていたテン側のおじさん戦士も変わらぬ笑顔だ。
ずるり。
ダンシング・バニーの上半身が下半身と分離し、大量の血や臓物を吹き出しながら、地面に崩れ落ちるのが見えた。




