95 怪物少女の闘争:二回戦 複製の上級女神ヌガー vs 繁栄の上級女神ピカルディ
『はぁ~い、二回戦は、カミカミチューブの放送でマニアックな神様達にお馴染み! 複製の上級女神ヌガーちゃんチームと、無限にありそうな財力で神界に大豪邸を作り上げて、羨ましいやら妬ましいやら! 繁栄の上級女神、ピカルディちゃんチームの対決で~す!』
ウサちゃんの声が響き渡ると同時に、空間に穴が空いたのを感じる。闘技場に上がってこいという事なのだろう。
「神界で間違いなく1番のお金持ちよ! 一体どんなセレブな手段で攻めてくるやら」
「出来る範疇でだが、何とかするよ。とりあえず変身しておくか……大・発・現~っ!!」
そんな俺だが、内心は恐怖のあまり竦み上がっていた。先程のメス爆弾とかいう核兵器っぽい爆発に、今、俺の身を包み込んでいる装備が耐えきれるとは、とてもじゃないけど思えなかったからだ。
死んでも蘇ることが出来るらしいのだが、この世界が俺に投与された違法薬物による幻覚であり、死んだり蘇ったりするのも全て幻だからなのだとしても、なるべくなら死にたくはない。
『おおっと……? ピカルディちゃんチームは、ピカピカ光るお高そうな謎の巨大な円盤状の乗り物に乗って登場ですね~? 一体、何を考えているのでしょう? お金持ちの考えることはよくわかりませんね!』
確かに何を考えているのかはさっぱりわからない乗り物だ。円盤のような、洗面器のような……今、あれに乗っていると何か良い事でもあるのだろうか?
『ヌガーちゃんチームの戦士は2名ですが、片方はなんと、あの割と有名な転生の女神である無能センパイでぇ~す!! 無☆能~~~~っ!!!!』
わああああーっ!! 観客席が湧き上がるが、俺の横にいるレム姉さんの顔は怒りで真っ赤に染まり、ウサちゃんの居る方向をキッ!と睨みつけ、女神ビームを放つポーズを取りはじめている。
「レム姉さん、気持ちは解らなくもない、いや……ごめん、全く解らないんだが、その怒りを女神ビームに乗せてぶつけるべき相手は、今は目の前の……あの、なんか良くわからないゴージャスすぎる金色の乗り物に乗ってるらしい連中だ!」
「……この試合が終わったら、必ず、絶対に! 最短最速で、あのクソウサギをシメ消しますからね!!」
自分に指を指し、ブチギレているレム姉さんの鬼のような形相を見たのだろうか、真っ青な顔になってぴょんぴょん舞台裏に逃げていくウサちゃんに変わって、猫耳のついたニャンコちゃんが出てきた。
『は~い? 何だかわからないけどアナウンサー交代にゃあ! さて、二回戦はもう始まっているにゃ! ファイッ!!!』
事前に打ち合わせていた通り、俺とファフニルとチャーミーが前に出た。
この戦いではボトルモンスターはボトルマスターと一心同体という扱いであり、全員が前に出ても良いのだが、大人数では動きにくいだろうし、6号とフィレは腋舐めをやめないし、少し離れた場所で防御しつつ支援攻撃などを放ってもらったほうが良いという判断だ。
まぁ、どんな作戦を組んでも、あの恐るべき破壊力のメス爆弾を放たれたら無意味なのだが……。
念の為、昨晩のうちにフィレに頼んで全員の腕に個別に動作するシールドを取り付けてもらっていたが、あの爆弾の威力にどれだけ耐えられるのか……?
女神二人の女神バリアは通用しそうなので、レム姉さんと常に行動を共にすれば良いのだろうが、この大会の戦闘方式ではそうもいかない。
「考えても始まらないな。相手の素性も良くわからないが、とにかく先制攻撃し、凶悪な爆弾攻撃などをされる前に速攻で倒す事を目指そう」
「ガハハ! 単純で良いじゃねえか、俺はそういう力押しが大好きだぜ!」
「ぶおおお~ん! とにかく相手を倒せば、どんなものでも食べられる願いが叶うんでぇす!」
ピカルディチームの謎めいた金色の乗り物がパカッと開き、花火やらスモークやらで派手目な出現演出と共に、遠目に見ても光沢に満ち溢れる美しい衣に身を包まれた女性が颯爽と現れた。
背後には、ボトルマスターだと思われるほぼ全裸のおじさんと、やけに豪華で金ぴかな鎧に身を包んだボトルモンスターだと思われる者たちがゾロゾロと並び始めている。
『ピカルディチームが姿を見せましたにゃ! あ、あれれ……? 人数が、やけに多いような気がしますが……? 会場入りしてるってことは参加OKにゃんですよね? う~ん、いいのかにゃ?』
「オーッホッホッホ!! パーフェクトに全てを持ち、エクセレントにセレブリティなわたくしが、遂に降臨ですわ~!!」
中央に立ったピカルディだと思われる女性が、甲高い声を上げる。
「おいおい、聞いたか? 今、あの女……オーッホッホッホって言ったぞ?」
「ぶおおん……あの笑い声を本当に口に出す人がいるだなんて、びっくりしまぁす……!」
高飛車な笑い声にも驚かされたが、あの人数もすごい。人型モンスターは最大十人までと聞いてはいたが、ボトルマスターだと思われるほぼ裸のおじさん達の周囲には、数百名を超える人型モンスターが居た。
「なあレム姉さん、あっちのチーム、人数制限を超えてないか? 年収の10割を超えてしまったら、賃金を支払う手段が無いのでは……?」
「ほぼありえないのですが、ボトルマスターの年収が0円だとするならば有り得ます。そんなマスターに付いていくモンスターなんて居なさそうですが、超大金持ちで有名なピカルディが連中の生活費を全部出しているのかもしれません。そうでもなければ目の前の光景は成し得ませんが、何にしても妙な話ですね」
レム姉さんも目の前の光景に驚き、呆れ返っている。
「もっと簡単に、大会開催委員会に賄賂を掴ませて、ボトルモンスターのふりをした普通のモンスターを沢山入れちゃった、とかかも?」
「賄賂っ……? きったねー女神だなぁ……?」
「ぶおおお~ん……? ルールですとか、ぐだぐだでぇす!!」
ピカルディが再び笑い声を立てる。
「オーッホッホッホ!! わたくしの戦士はたった一人のボトルマスターですが、総勢500名強のボトルモンスターが完全装備で控えているのです! さあ、かかってらっしゃい!」
数の力に任せた一方的な蹂躙を行う気満々だった金ピカな人型モンスター達は、直後に着弾したファフニルのブレス攻撃であっという間に全員が丸焼きにされ、チャーミーの異常食欲によって次々と物理的に姿を消していく。
俺が手出しする必要も、後衛に支援を頼む必要も無かったのだ……。
「ぶおおおおおおおおおお~~~んっ♡♡♡ 金箔付きで、豪華でぇ~~す♡♡♡」
「うわああっ!こんな勢いでモンスターが負けたら、俺あああああ~ん!!!」
おそらくは変態ボトルマスターなのだが、全裸で陰部が丸見えだという、今となっては特徴と呼ぶ程の事でもない、ボトルマスターにはよくある特徴しか無い為に、特にここまで容姿を語られることが無かったピカルディチームのボトルマスターのモンスターボトルが敗戦によって砕け散り、キラキラの光が虹のような筋を生み出して彼をぐるぐると包み込み、その姿をとびっきりの女子中学生に変化させた。
「あれっ? ここ……何処? 私、誰なのぉ?」
キョロキョロと周囲を見渡すとびっきりの女子中学生。おかっぱ頭の清純そうな女子中学生で、とてもではないが少し前まで年収0円の全裸おじさんだったとは思えない。
『す、すごいにゃ! ヌガーちゃんチームのボトルモンスターが、たった一人で! 信じられない程のものすごい火力で、ピカルディちゃんチームの全ての選手を殲滅しましたにゃあ!!』
「フフッ、あっさり負けてしまいましたわね。ですが、次こそは必ず勝利してみせますわ~!」
オーッホッホッホと笑いながら、女子中学生を連れて去っていこうとするピカルディ。別に悔しそうでも無く、おそらく金持ちが余興で参加しただけなのだろう……と思ったのだが。
去り際に、こちらを一度振り返った彼女の顔は、真っ赤に染まった泣き顔だった……。
「悔しくないわけがないわよ。神王になる事はみんなの夢だからね。そろそろ一回戦の敗者も復活所で蘇って、悔し涙を流してる頃なんじゃないかなあ……?」
気がつけば、レム姉さんの姿が見当たらない。
その時、舞台裏の方で何かが物凄い勢いで輝いて、轟音と共に消えた後、ご機嫌の笑顔を浮かべながら、えへへっ~! お花を摘みに行ってきちゃいましたぁ~! と言いながら帰ってきたレム姉さんに、物凄い恐怖を感じてうっかり失禁してしまいそうになったが、いつもどおり恐怖耐性スキルが大活躍してくれた為に難を逃れた。
本当に素晴らしいスキルだ。これが無かったら、俺の股間はこれまでの生活でどうなっていただろうか。もう、毎日のようにビッショビショのぐっちょぐちょだったのではないだろうか?
全く知らない人だが、先程まで何度か見かけたウサちゃんの顔を思い浮かべる。参加選手じゃないけど、ウサちゃんも復活してもらえるのかな……?




