93 怪物少女と大神様祭
何しろ、神様達が開くお祭りだ。色とりどりの光彩が溢れ返り、地上では見たことのない、観ることも出来ないような、言葉で表現することが難しいほど途方もなく凄まじいお祭りになるのではないか? と思って、若干だが期待していた。
だが、実際に目の前に現れた大神様祭は、地上のお祭りと大差なかった。規模はとても大きいのだが、日本でも同じくらいの祭りはあったのではないだろうか?
しかし、何故だろう? 身体が子供のせいなのだろうか? その光景を目にしていると、妙に胸が熱くなる……。
「私は色々と挨拶回りしてこないと。ミライくんやレムちゃんの参加登録は済ませてあるし、アナウンスが流れると自動で会場まで召喚されるから、開会式まで自由にしていていいよ?」
ヌガー様の言葉で一旦解散、自由行動となった。
6号とフィレは無限の腋舐めで忙しいらしいので、バトル参加に不満たらたらのレム姉さんと一緒に休憩所に放置し、屋台が立ち並ぶ中を皆で散策する。
「おっ? 金魚すくいだぜ! 獲りたての踊り食いが美味いんだよなあ!」
「焼かないと寄生虫とか怖いでち! まぁ、金魚なら平気かな?」
「海には居ないから、味は知らない……おいしい? おいしい?」
「ぶひょおおお~ん! あのお魚さん達、食べてもいいんですか!?」
「里では食べてる子も居ましたが……いや、私も食べてたんですけど……」
「お前ら、金魚は愛でるもんじゃぞ? まぁ、食ったら美味いんじゃけど」
ああ、そういえば、こいつらってモンスターなんだよな……と思い出させてくれるキツめの会話が仲間たちから聞こえてきてしまった。お金を払って屋台の金魚をムシャムシャ食べ始めるのは勘弁してほしかったので、その先にあった、たこ焼きのような物を売っている屋台に皆を誘導する。
屋台に書かれている文字は神の言語なのか俺達には全く読めないのだが、売り物は何処からどう見てもたこ焼きだ。焼いている姿もどう見てもたこ焼きだし、たこ焼きに間違いない。
「これ、俺の故郷にもあったジャンクフードだけど、結構おいしいぞ。皆も食ってみるか?」
一皿購入して広げると、皆が一玉ずつ口に放り込み始めた。俺も口に放り込んだのだが、カリッと香ばしい表皮が破れ、細切れになったベーコンから染み出した油が包み込んだ、チーズとトマトと香辛料が混じり合った濃厚な味わいが口蓋内に広がり、それはとても美味であり、端的に申し上げるとたこ焼きではなかった。
「これは美味いな。美味いが、たこ焼きじゃなかった……」
「ん? マスターの故郷の料理とは違うのか……まぁ、これはこれで美味いぜ!」
「た……たこ焼き? ってのも、作れるものなら、作ってみたいでちね」
「……? タ……コ?」
そう言われてみれば、たこ焼きくらいなら自作できるのではないだろうか? 目の前で使われている丸いへこみが並んでいる鉄板、これを入手できれば、たこ焼きを作ることは可能だろう。
材料はミドルスコールにも意外なくらい揃ってる事は解っている。紅生姜ですら、似たようなものが存在していて驚いた事があるのだ。見たことがない食材はタコくらいかもしれない。
まぁ、海にイカ人間達が住んでいる世界だ。タコ人間しか居ないのかもしれないが……。
「まさか、まさか、マスターの故郷では、あのタコを、食う……の?」
アオリが、ウゲェッ……という顔をしている。
「こっちでは食わないのか? 案外、美味しいんだが……」
たこ焼きだけではなく、お寿司や唐揚げ、サラダや煮物などで大活躍だ。噛めば噛むほど味が染み出してきて、とてもおいしい。
「ううっ、やだっ! あれは強いし気持ち悪い……ぞわぞわ来る……よ!!」
話を聞くと、アオリ以外は全員がタコの存在を知らない事がわかり、アオリにタコの姿を描いてもらった。紙に描かれたこの世界のタコには長い足が何百本も生えており、その足の全面に付いた吸盤から毒針を発射しつつ襲いかかってくる凶悪な生物だった。
「深海にしか居な……い。私達は、こいつらが居たら、逃げてた……ね」
「うん、俺の知ってるタコとは大分違う生き物っぽいが……」
いつか、捕まえて食ってみよう。
「おっ、おっ、ぶおおおおおおおお~~~ん!!! 懐かしくて、うんまぁいでぇす!!!」
興奮を隠しきれない顔で綿あめを何十袋も買い込んで、一気に口に突っ込み始めた豚人間チャーミーの姿を見て、俺はいつものようにドン引きしていたのだが、屋台の店主やそこいらへんの人達は、何故か誰もチャーミーの行動を奇人変人扱いしていなかった。
「神界だから、チャーミーさん程度の食欲を持つ神様は、普通に居るのかもしれないですね?」
「遊んでるとうっかり忘れてしまいそうになるが、そういえばここって神界なんだよな」
「いや、神界だからとかじゃないよ。3日くらい前から似たようなのが居て、俺たち見慣れてるんだよ」
突然、綿あめ売りのおじさんが話しかけてきて驚いた。
「似たようなのって……」
「あ、ほら、丁度来たよ。いらっしゃい!」
そこに居たのは、既に何らかの食品の棒を口に数十本咥えこんで嬉しそうな笑みを浮かべている、太った豚おじさんだった。
「ぶおおおお~ん!? チャーミーの、ファーザあああん!!」
「おおんっ!? チャーミー! 我が、最愛最強のベイビー!!」
ぶわああ~っ!! ぼたぼたっ!! 二人の瞳から涙が溢れ出る。二人の全身のありとあらゆる所から様々な体液を流しながら、お互いの場所へ駆け寄ろうとしているのが目に入った。あっ、これはダメな展開だ!
「待ってくれ! さすがにこの場で戦いを始めるのは……あれ?」
前にこの二人が再開した直後、とんでもない威力の殴り合いになった事を思い出して、二人の間に入って戦闘開始を止めようとしたのだが、今日の二人は優しく抱擁しあっていた。
「う、う、ファーザァァン! 私、ファーザーの事を食べちゃったのに……五体満足で生きていたのでぇす!!」
「父の事を心配してくれていたのか。何があっても、女神の元に戻れば元通り。ボトルモンスターの特権だな」
そんな事を語り合いながら、互いの持つ大量の綿あめを口に入れ続けている……。




