88 怪物少女とお悩み上級女神
部屋の中に入ると、ルームサービスに整えられている筈の俺のベッドが不自然に膨らんでいるのが見えた。布団の中に、いつものように発情したファフニルが潜んでいる事が考えられるが、とりあえず布団の事は放置して、ヌガー様をおもてなしすることにした。
「はい、とりあえずお茶でもどうぞ」
備え付けの冷蔵庫からお茶を差し出すと、顔面を涙や鼻水でべちょべちょにしたせいで水分不足なのか、一気に飲み干して、ふぅ……と一息つくヌガー様。
カミカミチューブとやらで人気を得た配信者なせいか、今日の恰好もやたらときわどい。レム姉さん達の話からすると、おそらくは偉い人の筈なんだけどなあ……?
「落ち着きましたか? 飲んだら、迷わずに帰ってくださいね」
「待って! 今日はミライくんに、大事な話があって来たの!」
容器を机の上に置いて、瞳を閉じ、大声を出す為なのか、すぅ……と息を吸ったヌガー様の目がカッ!と開き、軽くジャンプして俺の目前に五体投地し、そのまま顔を上げ、真剣な表情で叫び出した。
「この通りだから、助けてっ!! 私に、雇われてほしいの~っ! 戦士として、神王決定バトルに出場してほしいのよおおぉっ!!」
真剣な表情ではあるのだが、辛うじて乳頭や股間は隠していても、その他の部分は殆どが丸出しと言って良い恰好のヌガー様が、謎の激しい動きで土下座を始める。
「お金ならいっぱい溜まったのだけど、強い戦士はみんな先に予約されていたり、私の名前を出しただけでお断りされてしまうの! どうしてっ!? 私、何も悪い事してないのに~っ!!」
おそらく偉い人……上級女神の筈なんだけど、そんな指一本で簡単に脱がせそうな布きれしか身に付けずに激しく動いたら、ちくびとか隠すべきな部分が丸出しになってしまうのではないだろうか?
と、思ったのだが、思うまでも無く、あっという間に目の前の女性の両ちくびは完全に丸出しになっていた。
「私、頑張って無能ちゃんにも助けを求める手紙を出したの! でも、いまだに何の反応も無いのよおおっ!」
「そりゃ、レム姉さんがその手紙に気が付いたのは、ついさっきの話だし……」
ぶる~ん!! ぶるる~ん!! 乳首が描く軌跡。カミカミチューブとかいう神様用動画配信サービスって、こういうのはアカウント停止にならないのだろうか?
「あ、あの、ヌガー様!? 大切な両ちくびが丸出しだよ!? これ、今も生配信してるんじゃないの!?」
「いいのっ!! 両ちくびくらい、丸出しでもいいに決まってる!! ミライくんが私の為に出場してくれる可能性が増えるなら、私の身体くらい、どこだって喜んで丸出しで生放送するんだからあああっ!!」
土下座しながら両手を上下に上げ下げし、やけに大きな乳房をぶるんぶるんと揺らすヌガー様。空中に浮いた神カメラがその様を下から上へと舐めるように撮影している。
「あ”あ”あ”~~~っ♡♡♡ しゅ、しゅごいいい♡♡♡ 閲覧者数と寄付金がもの凄い数字にいいいっ♡♡♡ 見てる、見られてる、みんな、見てえっ♡♡♡ もっと私を見てえええ~っ♡♡♡ もっと、もっと~っ♡♡♡」
気が付けば股間を隠す布切れも自ら取っ払い、瞳にハートマークを浮かべて誘うような激しいポージングを開始していて、もはや完全に露出狂放送と化したヌガー様のチャンネルだが、このチャンネルを観てお金を投げているとかいう八百万の神様って大丈夫な連中なのだろうか?
よく見ると、床にはヌガー様の私物であろう神スマホが転がっていて、自分の配信を自分で眺めているらしい。しつこいようだが、この人は上級女神の筈なのになあ……。女神スマホには大量のストラップが付着していて、その全てが女児が好みそうなやたらとファンシーなものだった。
あっ、封筒や便箋に描かれていたキラッキラの動物少年少女が、おにぎりを掲げている人形が付いてる……。色々なグッズ展開をしている程度にはメジャーなキャラクターのようだが、どう見ても全裸生配信をしている人が持つべき品ではない。
うん、これは、関わってはいけない類の人なんじゃないかな……。
そう確信した俺はヌガー様にバレないよう、布団の中からこれまでの会話を覗き見て反応に困って唖然としていたファフニルを誘い、二人でそっと部屋を出て、とりあえず落ち着けそうな自販機コーナーに向かおうとした。
「待ってえええええ~~~んっ!!!!!」
ホテルの廊下で後から走って縋り付いてくる、顔面を紅潮させ全身からほかほかの湯気を放ち汗を浮かべている完全全裸の女。
「ひいいっ!? マ、マスター、全裸のやつ、追ってきやがったぞ!!」
「待って! 待ってぇ!! もう、ミライくんくらいしか、頼れる相手が居ないのよおっ!! 私、配信で人気者だから、嫉妬されちゃってるのか、友達とか少ないの!! お金ならあるのっ、お金ならあげるからあっ!!」
自称女神に続いて、自称配信で人気者か……。つくづく、俺の周りには色々とキツい自称が増えてきてしまった……。
「な、なあ……全裸様? あんたに友達が少ない理由って、配信のせいだとは思うけどよ、嫉妬じゃ無いと思うぜ……?」
ファフニルの言葉に、首をかしげるヌガー様。彼女の言葉をまったく理解していないようだ。
「ヌガー様、何を期待しているのか判らないけど、神王を決める大会に出るような力が俺にあるわけがないじゃないか。あと、お願いだから、何か着てくれないかな……?」
「お”っ? んほおおおおっ♡♡♡ 信じられない~っ♡♡♡ 過去最高の数字いいいっ♡♡♡ はーい、どんどん見てえっ♡♡♡ 見て見て見てえええ~っ♡♡♡ 宜しければ、チャンネル登録お願いしま~すっ♡♡♡」
脈絡もなく始まる視聴者向け大開脚生放送の撮影が目に入り、俺は関係者じゃない! 早くこの場から逃げなければ! という気持ちが強まる。
「お客様? このような時間に廊下で騒がれては困ります。他のお客様のご迷惑に……」
何処からともなく、手に灯りを持ったホテルのメイドさんが近づいてきた。当然の流れとして、身長の小さい子供の身体である俺とファフニルの頭越しに、アヘ顔で悦びながら何やら激しくうごめく汗水まみれの大人の全裸体が目に入ったらしい。
大声を上げるつもりなのだろうか? メイドさんから、すう……と息を吸い込む音が聞こえた。
「へっ……変態よおおおおおおおお~~~~~~~~~~~っ!!!!!」




