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もんもんモンスター  作者: 猪八豚
大怪物屋敷
87/150

87 怪物少女とお悩み女神

 部屋を出て二人でホテルのカフェに移動すると、目の前に座った少女は大きなため息をついて、両耳の裏をぽりぽりとかき始めた。これは、彼女がイライラしているときに行う癖である。


「何か、嫌なことでもあったの?」

「色々あります。まず最初に、姫ちゃん……どうやらカルミラっていう名前なのは判ったのですが、あの子の能力は謎すぎて、私の力では正確に観測出来ないのです」


 閉店間際の夜サービスなのだろうか? 昼間に比べ若干露出度の高いメイドさんに運ばれてきたフルーツジュースをゴクゴク飲み、一息ついてからポツリと漏らす。


「私は女神レム・ノートです。これでも、けっこう力のある、女神界隈で期待のホープなのに……」


 レム姉さんは自称女神なので時々こういった謎の中二病っぽい発言をし始めるのだが、まぁ謎の新興宗教団体に従って俺に幻覚を見せ続けているくらいの中二病なので、ある程度は諦めが肝心だ。仕方がない事なのだ。


「姫は鉄道好き女児で良いじゃないか。アオリと鉄仲間としてしゅぽしゅぽ上手くやっていくんじゃないの?」


 最近はこういった場合の対応にも慣れてきた俺は、適当な事を言って露出度の高いメイドさんから受け取ったお茶を啜った。この店の出すお茶は、玄米茶とほうじ茶の中間点くらいのさっぱり系の味で、割とおいしい。


「えぇ……? ミライくんがそれで良いならいいんですけど、なんでだか、妙に嫌な予感が……」

「姫の件はひとまず置いておこう。他にもあるんだろう?」


 考えるのが面倒なことは、兎に角ひとまず置いておけばよいのだ。何の根拠もありはしないが、俺の自信満々スキルが説得力を増強してくれる。


「……それが、ヌガー様から手紙が届いてたのです」

「ヌガー様って、偉い人なんだっけ? 何故なのかキツい思い出しか出てこないな……?」


 レム姉さんの手によってテーブルに無造作にポンと置かれた、やけにファンシーな封筒。表面は目がキラキラと輝いている二頭身の動物達が仲良く運動会をしている絵で彩られており、ラメラメのシールやキラキラのビーズで囲われた『むのうちゃんへ、ぬがーより』と書かれた妙に味のある文字が、幼児性をMAXにまで高めている。


「あのさ、あの人……ヌガー様って、大人だったよね? なにこれ……何なの?」

「そこも怖いし、むのうちゃん扱いで普通に届く神界郵政も怖いんです! 違うのっ!!! わ、わ、私は無能なんかじゃないのにいいっ……!!!」


 身体をブルブル震わせて瞳の中で怒りの炎を燃やし、無意識になのか、流れるようにスッと女神ビームを放つポーズを取り始めたレム姉さんを必死に宥め、大惨事を免れた。


 ぐすんぐすんと泣き続けるレム姉さんを放置して、中身に目を通してみる。


-----


 むのうちゃん へ


   たのしんでいますか? つぎの かみ王 を きめる

   すごい たいかい を ひらく ことに なったの

   けいさんだかい わたしは 金 の ちからで かつ!

   てん に かみ王けっていバトル を みに きて!


 ぬがー より


-----


 女児の夢と希望が詰まっていそうなファンシーさの便箋……封筒に描かれていたキラッキラの動物少年少女達が、キラッキラのお日様の下でキラッキラのお弁当を食べている絵が描かれている。


 ヌガー様という存在に過去一体何が起きてこのような物を使うようになったのだろうか……?


 神王決定バトルとやらの細かいルールや開催日時などが書かれたチラシが同梱されており、どうやら来週に開催されるらしい事が分かった。


 何気に1文字目を縦に読むと『たすけて』と読めるのだが、あのナチュラルボーンギャンブラーなヌガー様にたった4文字とは言えど縦読みを仕込むなどという芸当が出来るものなのだろうか?と考えると、偶然と考えた方が良さそうなので、当然のようにスルーした。


 そもそも、レム姉さんは縦読みに気が付いていないっぽいし。


「これは、観に行った方が良いやつなの?」

「上級女神に『来てね』って言われてるのだから行きますけど、ヌガー様を見た瞬間に、私の怒りが他の神々の目前で大爆発して、エネルギーが尽きるまで女神ビームを乱射し全てを破壊してしまうんじゃないかと心配で……」

「大丈夫、自分を真に信じていれば、大抵の事は何とかなるものだ。俺の経験がそう言っている!」


 勿論、俺にはそういう経験は無いが、自信満々スキルの力で全て自信満々に語る事でものすごく説得力のある言葉と化している。レム姉さんはすっかり納得したようだ。


「いっその事、レム姉さんが出場したらいいんじゃ? 相手目掛けて女神ビームを打ちまくってるだけで、割と簡単に神王になれちゃうんじゃないの?」

「ルールをちゃんと読んでください! 出場する神が信頼し雇った3人の戦士が戦うんです! ヌガー様はさぞかしお金をかけて、ものすごい戦士を連れてくる筈ですが……そういえば、ヌガー様にそんな伝手があるんでしょうかね?」


 その他の悩み事みたいなものも一応聞いたが、全て自信を持つことで解決できる筈だ! という助言を与える事で解決できるような話だった。


 カフェが閉店するというので、どことなく満足げな顔つきになったレム姉さんを女子部屋に送り、自室に戻ろうとした……のだが。


 自室のドアの前には、殆ど裸のような恰好の女性が嗚咽しながら、ドアにしがみ付きつつしゃがみ込んでおり、お尻丸出しの恥ずかしい後ろ姿を曝していた。


 その姿は、宙を飛ぶ謎のカメラによって撮影されている。まさか、こんな姿も配信しているのか……?


「いじわるしないで、開けてえ~っ!! たしゅけて、たしゅけてなのおお~~~!!」


 ヒンヒン泣くヌガー様が、後ろに立つ俺に気が付いて、パァッ! と明るい顔になる。一方、俺は薄っすら思っていた事を確信に変え始めていた。この上級女神は、ヤバい奴だという事だ……。

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