77 怪物少女としゅぽしゅぽおじさん
謎の技術、空間拡張の影響で、屋敷内の広さは感覚では正常に測ることが出来ない。
今、皆で進んでいる廊下などは、もうかれこれ30分くらい歩いているのだが、まだまだ先に続いているように見えて、終わりが見えてこない。
そして、その廊下には見慣れたものが敷かれていた。
「これって、線路だよなぁ……?」
「見りゃわかるだろ?間違いなく線路だぜ!」
誰がどう見ても線路である。
思っていたよりも重症の鉄イカだったアオリが正気だったならば、体をこすりつけてさぞかし喜んだだろうが、いまだに夢の世界の機関車を眺める仕事が終わらないのだろうか、毛布に包まれチャーミーに抱っこされて、幸せそうに鉄道模型をしゃぶっている状態だ。完全にバブバブ状態である。
「この線路、やっぱり何かが走ってるんでちゅかね?」
「さっきの変態おじさんの、機関車コスプレな格好ぅ……あの恰好で走るんじゃないでしょうか?」
「耳を澄ますと、何かが走ってくる音は聞こえますが……」
暫くすると、はるか前方から、かすかに音が聞こえてきた。よく見ると、小さな光を放っている。
「ぷあああーん♡♡♡」
「しゅぽ~っ♡ しゅぽ~っ♡ しゅぽ~っ♡♡♡」
「しゅぽ♡ぽ♡ぽぽぉぉ~~~っ♡♡♡」
良くは聞こえないが、おそらく機関車のような声がする。機関車のような声などというわけのわからない表現を使ってしまったが、それ以外に表現のしようがない変態おじさんの感極まった声だ。
「ぶおお~ん……何か、とっても重そうな機関車の恰好をしたおじさん達が、お股をピカーッ!と光らせて、お顔を真っ赤にして左右のお乳首を交互に引っ張りながら、お口を天に向けて煙をぴゅうぴゅう吹いて走ってきまぁす!」
最近、仲間の中でも極端に視力が良いことが発覚したチャーミーだが、奇妙なことを言い出した。
「ははっ! そりゃないだろう、股を光らせるだなんて、いくら変態おじさんだからって出来っこないぜ?」
「どうして乳首を引っ張ってるんでち? まさか、乳首への刺激で走っているとでも言うんでち?」
「煙で敵をけむに巻きながら逃走する葉隠流忍術は存在しますが、私にもまだ使えない技術なのに!?」
「うーん……? 光がゆらゆらしてるのしか見えないわよ? あっ、ゆらゆらするお股の光って、ま、まさか~っ!?お股の恥球がゆらゆら揺れて~っ!?」
俺の瞳には小さな光がチカチカしているようにしか見えない。6号とフィレは双方無言の足舐めプレイ中である。双方無言の真剣勝負と言って良い雰囲気だ。やってる事は足舐めだけど。
最近、双方からの発声が少ない気がするが、大丈夫なのだろうか……?
「ぶあああ~んっ!? 先頭のおじさん、転びましたぁん!! 引っ張っていた貨車の中身がぶちまけられていまぁす!!」
「良く見えるわね……そんなに明るくないし、遠いし、何が何だかわからないわよ?」
先程の鉄道変態おじさんの恰好も随分重そうだったが、あの恰好で走るとなると、とんでもない重労働だろう。力尽きて転んでしまっても無理はない。それにしても、一体何故そんな苦行を執り行ってしまっているのか……?
「ぶおお~ん!? おじさん、立ち上がりま……あああっ、後続のおじさんが次々に追突して、全員転びましたぁん!! 荷物がどんどんぶちまけられていまぁす!!」
「本当、良くあんなに遠い所を見られるなあ。俺の目には小さな光しか……あれっ?」
先程まで見えていた小さな光が、突然大きく膨らんだように見えた。遠いのではっきりは判らないのだが、見慣れた色でキラキラと輝くあれは、おそらく……。
「ぶおおおおお~ん!? 転んだ拍子に、おじさん達のモンスターボトルが割れてしまったみたいでぇす! おじさん達が光に包まれてぇ……おいしそうな女子中学生達になりましたぁん!」
その報告を聞いて、俺は自分の腰にぶら下がったモンスターボトルを見つめる。人のふり見て我がふり治せである。転んで割ったりしないようにしなければ。
転ばぬように慎重に暫く進むと、とびっきりの女子中学生達が、混乱した顔で周囲をきょろきょろと眺めていた。いつも通りの光景である。
「あのっ、ここは何処なんです? 私達、一体誰なんでしょうか?」
そんな事を何度言われても俺にも変態おじさんが変化した女子中学生が一体何処の何者なのかなんて良く解らない。とりあえず中学校の場所を書いた紙と若干の生活費を渡し、屋敷を出る方法を指示してリリースした。
先程まで女子中学生達が座り込んでいた周辺には、鉄道変態おじさん達が自らの力で貨物車を引いて運ぼうとしていたらしい様々な物品が転がっていた。
どれもこれも同じに見える機関車の模型、鉄道の写真……。
なんか……鉄道マニアの友達が壁に貼ってた記憶がある、三角形の良く解らない布……。
俺達では、本当に何なのか良く解らないグッズの山……。
このファイルに細かく収納されているのは、使用済みの切符?
「何が何だかわかんねえけどよ。一応、収納しておいてやるか? 鉄道好きの連中には大切な物なんだろうから……」
「アオリが正気なら、即座に飛びつくような物なんだろうかなあ?」
ちゅぱ、ちゅぱ……半開きの目をしたアオリが幸せそうな顔で模型をしゃぶる音が響く中、周囲の物を収納袋にしまい込み、俺達はまだ見えぬ廊下の先に進む。




