75 怪物少女と潜む者達
その女性は食事をしていた。一見すると良い感じの食事なのだが、よく見ると色々と適当さが見受けられる。食事に使っているのは先端にフォークが付いたスプーンだし、女性の服装は作業着のようで、かなり適当だ。
そんなテーブルの前に一人の男性が現れ、報告を始めた。
「主様、先程の報告にありました侵入者なのですが、全員が子供の集団です。ボトルマスター1名及びボトルモンスター7名に加えて、信じられない事に、本物の神が1名……です」
「えっ? 神? 何の冗談……なの?」
主様と呼ばれた女性が、食事の手を止めて困惑した表情を浮かべる。ワイングラスに注がれた真っ赤な液体を飲み干し、焼き加減が激レアなステーキを一旦下げさせ、テーブルの上に魔法陣を描くと、空間に1Fで焼肉パーティを繰り広げている侵入者たちの姿が映し出された。
「……ねえ、この子達、なんでこの家で焼肉パーティしてる……の?」
「さあ、何故でしょう……この子です。やはり子供なのです……が、鑑定によると神である事に間違いありません」
主従二人の赤い瞳が怪しく輝き、女神レム・ノートを見つめている。どうやら、鑑定とやらを使っているらしい。女性の瞳が大きく開かれ、口からは驚愕の声が漏れ出る。
「ああ、本当だ。すごい、すごい、本当に神……だ。はじめて見たよ……神様って本当に居るんだ……ね?」
「どう致しましょう? 子供とはいえ神様です。お出迎えするべきなのでしょう……か?」
途端、苦虫を噛み潰したような顔になって、腕を組んで考え込む女性。
「出迎えって言ったって、この家って、こんなだしなあ…… う~……ん」
「しかし、あのボトルマスターの装備は戦時中のもの……ですよ? 無理矢理建物を破壊して、上層階に侵入してこないとも限りませ……ん」
「うう、仕方ない、丁重にお出迎えして、なんとかお帰り頂こう……か?」
とりあえず今の作業着から、とっておきの綺麗なドレスに着替えるつもりなのだろうか? 魔法陣を使って手元に衣装ケースを呼び出す女性の足元が、突然、揺れた。
ボカーン!
鳴り響く破壊音。驚いて魔法陣を作り直して映像を確認すると、案の定ボトルマスター少年の装備から放たれた強力な攻撃によって、天井が破壊されていた。
エルフの謎技術で拡張されていた空間が若干歪んでしまったが、この程度ならまだ崩壊には至らない。しかし、まさか本当に建物を破壊してくるとは!?
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「んー? なんか広間みたいな所に出たけど、一階とはだいぶ様子が違うぞ?」
二階まで飛び上がったファフニルが縄梯子を降ろしながら伝えてきた。上の階に到着してみると、確かに様子が違う。豪華さが消え失せて作業場のような雰囲気だ。広間を見渡すと、01から08まで、数字の書かれた大きな扉が並んでいる。
「おいおいっ! 貴様ら、この聖地を破壊して上ってくるとは、一体どういうつもりだっ!?」
背後から声がかかる。振り向くと、そこに立っていたのは全身を黒く塗りつぶし、色々な個所に機関車の装備を張り付けてコスプレしているのに、何故か股間には何ら手を加えず丸出しにして、腰を振ってぐるんぐるんと大回転させている、たぶんボトルマスターのおじさんだった。
「どう見ても、変態のおじさんでち!」
「「「「「うわーっ、やっぱり、変態おじさんの仕業だったのかあ!」」」」」
慣れたもので皆、すぐに笑顔で身構える。しかし、変態機関車おじさんは特に何も仕掛けてはこない。単純に建物を破壊して上ってくる異常性、非常識さに怒っているだけらしい。
ボトルマスターおじさん達は変態が多いが、不快さに怒る事くらいは出来るのだ!
「非常識にも程があるだろう! お前らの壊したこの場所に、小さな子供でも居たらどうするつもりだったんだ!? 全く、これだからお前らみたいな連中は……! お前ら、ごめんなさいはどうした!? 悪いことをしたらごめんなさい、だろ! 謝る事も出来ねえのかっ!?」
そんな事を言われても、不法占拠してるのは変態機関車おじさんの側だと思うのだが……。
「ご・め・ん・な・さ・い!! ごめんなさい、できないのっ!?」
ブルン、ブルン、ブルルルーン! 変態機関車おじさんの声に合わせて、股間の大回転速度が速まる。
不法占拠だけじゃなく、強制猥褻の罪とかも適用されるような気がする。怒って興奮したのか、回転する股間の代物が徐々に大きくなってきている気がするし……。よく見ると腰にモンスターボトルが装着されていないので、もしかしたら本当にただの異常者なのかもしれないし。
「ぶおおお~ん!? こんな凄い勢いで叱られたら、メス豚はっ、メス豚は~っ♡」
両腕で自らを抱えるように押さえつけ、息を荒げて紅潮した嬉しそうな顔でプルプル震えながら悦びの声を上げるチャーミー。全身から噴き出した様々な汁が床を濡らし始めている。
「えっと、そんな事を言われても、俺達はギルドを通じてこの建物の持ち主から幽霊退治を依頼されているんだ。何なら破壊しても良いという許可も得ているし、二階に上がる手段が判らなかったので小規模に破壊しただけなのだが……」
「は? ギルドって何だ……? 入り口の横にエーテル操作盤があったろう? あれを操作すれば入り口を入ってすぐが地下や2階になる事くらい、常識だろ!? 原始人かお前ら!?」
「えっ……何それ、知らないけど……」
「はぁ♡はぁ♡ぶおおお~ん! げ、げ、げんしじぃいいい~ん♡♡♡」
俺達は誰一人としてその仕組みを知らなかった。爺さんも知らなかったのだろうか? チャーミーは喜んで体をくねらせている。そんな俺達に怒り狂う変態機関車おじさんの上げる怒りの奇声に、周囲の扉が反応を示し始める。この見覚えがある輝きは、まさか……!?
「へっ?なにこれ……もしかしてこの扉、モンスターボトルなの!?」
驚くレム姉さんの目の前で、08の番号が書かれた扉が、キラキラと輝きながら大きな音を立てて開いていく……。




