72 怪物少女と夢鉄道
料理店内の客席で、満面の笑みを浮かべ目の前に出された特製料理を食べながら、怪しげなポーズをキメる少女。
サーカス的の団員だとしたらすごい技術なのだけど、一体どうやって身体を固定してるの?一体どうしてその恰好をしながら食事が出来るの?と言いたくなるポーズである。
もしも大人が行っていたら不埒で淫猥なポーズ……しかし、少女は幼いので何の問題も無いのだ。諸事情で外観が少女なだけで、中身はもう立派な大人なのだが。
「ぶおおおおおお~んっ!!」
パッと見は最早〇-ムセンターあらしの世界と言って良いかもしれない。巨大な出っ歯の少年が水魚のポーズをキメながら〇ームセンターの筐体で命がけで戦うような無茶な設定と、ポーズを取りながら歓声を響き渡らせているチャーミーの無茶な食事風景は実は酷似しているのではないだろうか?
「それはそうと、普通においしいなあ。豚の餌の店主が修行したっていう、この店の料理」
「ちょっとだけトンタマの豚の餌と違うんでぇす……どちらが良いかなんて!? メ、メス豚にはっ! 決められませぇ~ん!!」
はるか遠くのトンタマで今日も提供されているであろう豚の餌を想像しているのだろうか?遠くをじっと見つめて力強くプルプルと震えている。あまり観察していると、魂を吸われてしまいそうな感覚に陥ってしまう。
トンタマ旅行による濃密な豚人間体験もあり、俺はもうすっかり慣れてしまったが、ミドルスコールの人たちは豚人間の標準的な挙動に慣れていない。時折飛んでくる周囲の一般の方々の視線や陰口で異常性に気が付いてしまうことがある。ヒソヒソ声に気が付かないふりをしながら、俺は自分の食事に目を落とす。
俺の目の前に出されている料理は『豚の餌』ではなく、『人の飯その1』という名前がついた一品だ。見た目はどう見ても唐揚げ定食であり、豚の餌と同じような感じの家庭料理的な美味しさを感じる。いや、まぁ、豚の餌と同じようなという滅茶苦茶な感想で話が通じるとは思っていないのだが。
「俺の頼んだこれも結構うまいぜ? 確かに、少しだけ故郷に帰った気分にもなれるかも」
今日も元気なファフニルが頬張っている色鮮やかなドラゴンランチは、見た目は完全に餡かけチャーハン定食だが、どうやら割と歯ごたえがあるらしい。バリ!バリバリ!と音を立てて食べていて、確かに結構うまそうである。
この店は各地の郷土料理を研究して似たような料理を提供するタイプの店で、各地の様々な人種が集まるミドルスコールならではの店だ。郷土料理を味わいたい客足が絶えない。怪物少女達もそれぞれ好みに合ったものを頼んで口にしている。『鉄道運転手弁当』『忍者飯』『神への供物』なんていうものまである店なのだ。
トンタマ旅行から無事ミドルスコールに帰ってきた俺達は、トンタマで見つからなかったか存在しなかった、我慢していたあれやこれやを思う存分全てやり尽くした。ようやく心に余裕が出てきた為、チャーミーの熱烈な希望もあってこの店を訪ねてみようという話になった。
正直なところ大満足亭ほど満足する店ではないのだが、色々と風変わりな食事を楽しめるし、内装も各地のものを集めていて非常に凝っており、気分転換には良い店だと思う。
「ねえ、マスター、大切な大切なお話、忘れてないよ……ね?」
唐揚げを口に放り込んで咀嚼していると、鉄道運転手弁当を食べ終えたアオリが、若干挙動不審な様子で、それでも瞳をキラキラと輝かせ、俺の手をギュッと握りながら語りかけてきた。
大切な話というのは自宅建築とアオリ専用になるであろう中古機関車の話だろう。このやり取りは何回目になるだろうか?
「インパクトが強すぎて忘れちゃいないけど、実際にやるとなると結構大変だと思うよ? 俺、ミドルスコールの不動産屋にはいい思い出が無いんだよな……」
俺達の見た目は子供である。いくら金を持っていても、子供というだけで侮られてしまう。これまでも何度か拠点として家を買おうと思ったのだが、どの不動産屋に行ってもまともな対応をされなかったり、ぼったくりされそうになったり、突然脅されたりと散々な目に遭ったのだ。
家は後まわしで良く、今はとにかく機関車の中古品を見たいというアオリのマニアックな要望を叶える方法を、俺を含め仲間の誰もが即座に思いつけなかった事、ホテルのサービスマンが探し出してくれた機関車の中古を保持している業者が、完全に産業廃棄物処理業者であり、タイミング悪くアオリの大好きな機関車や貴重らしい客車が目の前で素材回収の為にボコボコに叩き壊されていた事など、様々な要因でアオリのストレスがどんどん蓄積されていく。
「うっ……機関……車っ!! 機か……んしゃ!! 機関車っ……しゃっ、しゃああっ!!」
トンタマで鉄ボトルマスター達から奪い取った機関車の模型を握りしめ、しゃぶしゃぶとしゃぶり付きながら心の平穏さを取り戻そうとしているアオリだが、瞳に宿る光は沸き立つ怒りに満ち、皮膚表面には波打つ烏賊の提灯が浮かび出始めている。この子も鉄道の事となると人格がヤバいほうに変わってしまう鉄道マニアの一部にみられるやばいアレだったのか……!?
「うーん、鉄道のことなら、世界鉄道公社に聞くのがいいんじゃないでちゅかね?博物館のお姉さんも世界鉄道公社の雇われだった筈でち」
「ああ、そう言われてみれば博物館の機関車も全て世界鉄道公社の中古品でしょうし、それが正解かもしれませんね」
ピキィ……ッ!!!
アオリの顔には血管が浮かび上がり、もはや爆発寸前の様相だ。俺達は取り急ぎ世界鉄道公社ミドルスコール駅営業所の相談窓口に向かってみた。
「残念ながら、お金を貯めても中古車の購入はできません。中古の機関車は、重要な秘密のパーツを取り外した上で、トンタマの博物館か廃棄物処理業者にしか引き渡さない事になっているんです。過去には中古販売を行っていたのですが、危険な鉄道マニアの方々が、家族を奴隷商に売り渡したり、内臓を闇医者に売ってでも手に入れようとしたので、禁止になりました」
相談窓口のお姉さんが困り顔で教えてくれた。なんてこった!! どこかにいる危険な鉄道マニアのせいで、うちの危険な鉄道マニアが爆発寸前だぞ!!
「ダメ元で聞きまちゅけど、新品の購入は出来ないんでちか?」
「新品は最新技術が多く使われていて、機密保持の為に契約した業者しか購入はできませんし、製造会社等は非公開なんですよ」
「なんだよ、たかが機関車なのにずいぶんケチな話じゃねえか?」
「たかが機関車ですが、されど機関車なのです。長距離を走り重要な物を届ける事もあります。機密保持の為の防衛能力は立派に備わっていますし、特に最新車種には色々な秘密が満載なんですよ?」
いよいよ沸騰しそうな顔になった後、呆然とした顔になってロクに動かなくなったアオリを抱えて外に出ようとした所で、知らない老人に呼び止められた。高級そうなスーツに身を包んでいるのだが、腰には古ぼけたモンスターボトルがぶら下がっている……。




