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もんもんモンスター  作者: 猪八豚
大怪物旅行
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67 0人の少女と豚一頭、トンタマでおやすみ

「ギャオオオオオオオオオオオオ~~~~ンッ!!!」


 何者かの叫びが聞こえ、周囲の空気が一変する。割と何の変哲もない怪物っぽい叫び声なのだが、音量が尋常ではない。


 ヌガー様の顔つきが変わり、キリッ!とした真面目な表情で一点を見つめていた。


 俺が知っている限りで、これまでの彼女は、無責任な遊び人としか言いようのない行動ばかり取っていて、こういう場合の信憑性には欠けてしまうのだが……。


 とりあえず彼女の視線が向いた先を見ると、空間の壁が大きく崩れ落ち、内側から巨大な瞳らしきものがこちらを覗き込んできていた。


「成程、記録されていた通りの巨大さね……! タンザナイト本体のお出ましよ!」


 空間の穴を広げて、タンザナイトは空間を越えてこようとしている。しかし、崩れ落ちた空間は少しすると元に戻ってしまうらしく、こちらに指が一本入ってきたりはしたのだが……。


「フゴオオオ~ッ!!!」


 元に戻ろうとする空間に指を挟まれて、割と痛そうな声を上げている。


 悲しみや憎しみに満ちた目……のような感じだと思いたいのだが、大きすぎる上に片目しか見えないので正直な所は良くわからない。痛くて涙を流しているようにも見えた。


「洗脳されていた時は何も不思議に感じなかったでちゅけど、何なんでち?こいつ……?」

「破邪のタンザナイトは、当時勢力を伸ばしていた超極悪魔王を退治するために作られた生物兵器だったらしいわ。でも、これを作った当時の神王も何処かおかしい人だったらしくて、知性を植え付けることに失敗したらしいのよね。そうこうしている間に超極悪魔王は病気で亡くなったの」

「この目、石とか投げつけても良いんでしょうか……?」


 キリコの言葉を切掛に、先程までの戦闘で積み上がった瓦礫を巨大な目玉めがけて投げつけ始めるボトルモンスター達。タンザナイトから悲痛な叫び声が上がるが、空間の裂け目から目を離したりはせず、涙を流し瞳を閉じているだけである。


「やっぱり、あれって強いのか?」

「単純な戦闘力や無差別洗脳力は神王より強いかも。ただ、知性は皆無だし、現状だと檻の中の猛獣と一緒だから、それ程怖くはないわね」


 俺の目に映る現状は恐怖耐性スキルが無ければ小便を垂れ流しながら泣いて蹲ってしまうような発狂レベルのヤバい光景だが、女神視点からすると大して怖くないらしい。


「ただ、今のあいつを動かしている電池役は、おそらく無能ちゃんとポロリなの……神を体内の牢獄に閉じ込めて、エネルギーを吸って利用する邪悪な仕様よ」

「あいつを倒して解剖しないと、二人を救い出せないって事か……」

「そうなんだけど、難しいかも……破邪のタンザナイトは過去に神数万体と渡り合った事がある化け物だけど、その時の電池役は無能ちゃんなんかより全然女神力が無い子だったらしいの。ぶっちゃけポロリは大したこと無いけど、無能ちゃんはお父様に似たのか法外な女神力を持っているから、奪われているエネルギーも膨大。今のタンザナイトは、頭は空っぽだけど、戦闘力は過去最強のはずよ」


 腕を組んで考え込むヌガー様。暫くして、その口からやけに大きな声で、愚痴のような言葉が漏れ出し始める。


「ああ!! もう……!! 無能ちゃんはこういう時無能だからなあ……!! 隠し撮りした無能ちゃんの着替え動画とか、カミカミチューブで良い感じにお小遣いになったし、便利な子なんだけど無能~っ!! ああっ、無能って罪よね~っ!? んんん、無能無能無能~~~~~っ!!」

「わっ、わっ、私は!! 無能なんかじゃないっ!! 『女神ビーム』ッ~!!」


 今、目の前でタンザナイトの顔面を女神ビームでブチ破り、血まみれで出てきたレム姉さんが発した言葉だ。片腕には気絶したポロリを抱えている。


 彼女が異空間からこちらの世界に降り立つその後ろでは、巨大なタンザナイトが全身から血を流し、ぐちゃぐちゃになって崩れ落ちていくのが見えた。


「ああ、ごめんなさい。無能ではありません。レム・ノートよ、素晴らしい働きです。過去、神数万体でやっと倒せたような化物を、単独で撃破するだなんて、本当によくやりましたね!」


 苦笑するヌガー様。ああ、なるほど、この人はレム姉さんの特性などを知り尽くしていて、その力を利用するために挑発したりしていたのだろう。イカレているのかと思ったけど、何気に出来る上司なのかもしれないな。


「ウギィイッ!! か、か、隠し撮りした私の着替え動画っ!? 私は無能なんかじゃないっ!!」


 完全にキレた目のままのレム姉さんは怒りを抑えきれないようで、その手は女神ビームを放つ時のポーズをキメている。標的は勿論、ヌガー様だ。


 ヌガー様の先程までの神聖な微笑みが、この場を何とか誤魔化して難を逃れようとするギャンブラーの顔に変わっていく……。


「あ、あ、レムちゃん? 違うの、いい? 落ち着いて? 私は貴方の無敵の女神力を生かしたかっただけで、決して本気で無能だなんて思っていないのよ? 隠し撮りとか……そりゃ、ちょっとはしてるけど、ほんのちょっと無能乳首が映ってるだけで……」

「『女神ビーム』ッ~!!」


 怒りで顔面を赤く染め、ほっぺをぷううっ!と膨らませ、青筋を浮き立てたレム姉さんの腕が、女神の輝きを放って周囲がまるで昼間のように明るくなった。次の瞬間、光が逃げようとするヌガー様のお尻一点に集中し、極太のエネルギー波が放たれる。


「んわあああ~んっ!」


 ほんの一瞬でヌガー様は消し飛ばされてしまった。まぁ、ヌガー様はいくらでも記憶共有の複製が居るらしいのだけど……。


 空間に開いた亀裂が閉じ、崩れ落ちてピクリとも動かなくなった巨大なタンザナイトの姿が見えなくなる。突然始まった戦いは、これまた突然に終わった。


 俺達の戦闘による被害は結構なもので、それでもやたらと丈夫なトンタマの人々に死者は出なかったらしいのだが、破壊された建物などをレム姉さんの女神力で修復するような事は出来ないらしく、結局は俺のスキルで巨額の現金を作り出して方々に寄付することになった。


 本当に申し訳ない感じだが、お金の力があれば大抵は何とかなる。


「うん……まぁ、終わったな。とりあえず部屋に戻って寝ようか」

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