60 七人の少女と豚一頭、トンタマの沼を見る
「あれ~~っ、ポロリとレムちゃんだ~~?」
「「 ヌガー様!? 」」
乳首装飾おじさんを倒したついでに沼公園を散歩していた俺達の前に急に現れたのは、以前にレム姉さんが女神ビームで消し飛ばした筈の上級女神、ヌガー様だった。
レム姉さんを特に何も考えずに無能呼ばわりしていた事や、訳の分からないおじさんの動画配信でお金を稼ごうとしていた事から察するに、あんまり頭が良くない自称女神だ。彼女の近くには何か謎のカメラっぽいものが浮いている。
「レム姉さんの女神ビームで消え去った筈では?」
「私は複製の女神だからね~。ちなみに今、ミライくんだっけ?とお話している私も複製体なの。自分でも何体複製が居るのか判らないくらい沢山いるから、レムちゃんの女神ビームで一人や二人消し飛ばした所で、全体としての私は無傷も同然だし!」
ふふん!と胸を張りながらも、レム姉さんを無能とは呼ばず、ちょっとビクビクしている所から察するに、記憶などは同期されているようだ。
「どうしたんだ? こんな沼しかない公園で、上級女神ともあろうお方が一体何をしてるんだべ?」
「レムちゃんには前に言ってあるけど、決まっているでしょ? 神王様が居なくなって、天界は今も混乱している。今こそ大出世のチャンスじゃない! 今のうちにもりもりお金を稼いで、セレブリティーゴッドの座を手に入れる基盤づくりをするのよ!」
堂々と主張するヌガー様をカメラが自動的に撮影している。どうやら動画配信でお金を稼ぐ事を諦めてはいないらしい。
「この大自然の光景を解説付きで生配信する事で、がっぽり資金を稼ごうと思っているのだけど、何故かなかなかうまくいかないのよね。なんか、視聴者の反応が妙なのよ?」
「へっ? ヌガー様……? この公園の光景を……? 配信してるんですか……?」
「なんで沼公園を……? トンタマにだってもうすこしマシな光景があるべ?」
「えっ? な、なに? ……大自然の光景に心が洗われる感じがするでしょ? 見てよ、この大きな池……!! すごーく大きい池なのよ……!!」
若干臭う巨大な沼を指さして、真顔で大きな池だと言い張るヌガー様。
「……ヌ、ヌガー様? よく見てください! これは水を含んだ土、沼ですよ?」
「どこからどう見ても沼だべ? 公園の名前も沼公園だもんな」
「嘘よぉ……私、これから水着になって池に入って、女神の偉大な頭脳による知恵を使って、池についての解説を生配信するからね」
ガバッ! と、いきなり衣服をはぎ取り、胸部が大胆な水着姿になって沼に飛び込み、神の力の効果なのか、素早くずんずんと奥に行ってしまうヌガー様。
あっ、この人……前もちょっと思ったけど、素で天然なのでは……?
「というか、そもそも何でこの人は動画配信の題材としてトンタマを選ぶんだ? トンタマっていう時点で配信する題材が限られてきちゃうし、なにより見る人たちの興味が湧かないのでは……?」
「おっ!! おいお前ら、ヌガー様の配信動画チャンネル見つけたぞ……カミカミチューブで配信中だべ!!」
ポロリが謎の端末を取り出して俺達に見せてきた。この見たことのない模様の不気味な端末は……もしや神界のスマホみたいなものなのだろうか?
画面の中に映るヌガー様は満面の笑顔で大きな池についての子供の感想みたいなのを長々と語っているが、既に全身は泥だらけで、おっぱいがこぼれ落ちそうなスケベな水着は粘度の高い泥に引かれて脱げそうである。
「きゃあっ!! どうして!? 君たち、私は女神よ!? 餌じゃないの…餌じゃないのにぃっ!!」
ヌガー様が騒ぎ始める。どうやら泥の中に無数のトンタマうなぎが生息していたらしく、ビチビチと跳ねながらヌガー様の全身を突いている。あっ、水着が……やばい、このままでは、肉体がこぼれて……!!
「おいおいおい、なあ、これ、止めてやった方がいいんじゃねえの? 偉い女神なんだろう、このヌガーってやつ? 神なんだから、威厳ってものがあるんだろ?」
「これって自爆の配信みたいなやつでちゅよね?」
観ている人がコメントを残せるよくある配信サイトっぽい雰囲気のページだが、コメントは『一人泥レスwwwwww』『乳首見えそう』『見える!すじが見える!』『どろの中に出すぞ~ッ!』等のアレなもので溢れかえっていて、大自然に心が洗われている感じは全くしない。
人気はあるようだが、意図した人気ではないだろう。そもそも、これは儲かっているのだろうか……?
「あ”あ”あ”~~~っ!!! 無能ちゃ~~~ん!!! た、助けて~~~っ!!!」
神スマホからだけではなく、沼からも同時に声がする。見ると、水着を奪い取られ全裸のヌガー様が無数のトンタマうなぎに全身まとわりつかれながらレム姉さんに向かって手を振っている。
「んひっ! う”っ、う”なぎっ!! ぎぼぢ悪いのに、お”お”っ♡ ぎもぢいいいいのおっ!! 無能ううううう~~~っ!! 無能ぢゃあああ~~~ん!! 無能ぢゃ……ん?」
言い慣れた蔑称を叫んだ後でハッと気が付いたらしく、やっちゃった! という顔になって舌をぺろっ! と出した直後、レム姉さんが反射的に発した女神ビームの光の奔流に包まれて、ウナギ達と共に消えていった……。
「終わったな。それにしても、自称女神であってもお金を稼ぐっていうのは大変な事なのだなあ……」
「終わってませんよ! ヌガー様はかき集めたら町が出来ちゃうくらい沢山居るんですから……!」
プンプン怒った顔のレム姉さん。




