58 七人の少女と豚一頭、トンタマの究極変態を知る
やっと日が昇り始めたくらいの早朝に、何もないのに急に目が覚める。
周囲を見渡すと、モンスター達も自称女神二人も下僕豚もすやすやと寝ている。俺は皆の安眠を壊さぬように、そっと部屋の外に出てみた。
こんなに早い時間だというのにホテルの従業員はしっかり働いている。
俺の今の暮らしは楽で快適だが、額に汗しながら働いた昔の日々だってそう捨てたものではなかったよなあ……まぁ、最後は過労で死んじゃったっぽいのだけど……等と考えながら、何かないかなあ?と思って適当に歩いていた。
そして特に何もないまま、ホテル内で一番遠い場所に位置している自動販売機コーナーまで来てしまった。自販機の中身も、昨日までと何も変わらない。
この自販機コーナーで売っている飲み物類は、どれもこれも完全に豚人間向けの味付けで驚くほど甘く、冗談で一本飲むくらいなら何とか出来なくもないが、出来る事ならば健康の為にも飲みたくない代物だ。
まぁ折角ここまで来たのだしチャーミーやフィレ用に何か買っていくか、と足を踏み入れたその先に、その男は倒れていた。
男は若干の布地を身に付けているが、ほとんどが裸。一応パンツを履いてはいるのだが、ピチピチに身体に張り付いている為に、股間が丸出しと何ら変わらない立体感だ。腰にはモンスターボトルが下がっており、言うまでも無く明らかにボトルマスターだと解る。だが、この男は全身打撲だらけで、うっすら血の臭いがした。
俺に気が付いたのか、男が目を開ける。顔面にも無数の痣が広がっていて、かなり痛々しい。
「くっ……? 追手では無いな? 別のボトルマスターか…… わ、悪いが、今は…… バトルをしている余裕が無い……!」
「どうしたんです? この酷い打撲は一体……」
「まさか、実在…… 伝説の…… 財、ほぅ…… 俺の力では全く勝負にならなかっ……」
男は苦しそうにしていて、うまく答えてくれない。俺は、緊急用の小さな荷物袋から薬や包帯等を取り出し、応急処置を施したが……思ったよりも状態が酷い。男のモンスターボトルに話しかけると、中から女児型モンスターと犬っぽいモンスターが出てきた。女児も犬も、男程ではないが全身に打撲している……。
「一体、何があったんだ?」
「私達にも良くわからないのです。少し前に呼び出された時には既に戦闘が始まっていました。あの思い出したくもないどぎつい攻撃からひたすら逃げるだけのあれを戦闘と言って良いのか分からないんですが……」
「クゥ~ン!クゥ~ン!」
何とか逃げ延びた先がこの場所だったという。どぎつい攻撃?細かい事情は良くわからないが、とりあえずホテルの従業員を呼んで、なんだかんだの挙句にやってきた医者の馬車に怪我人とモンスター達は乗せられて去っていった。
「うん、何が何だかさっぱり分からなかったが、何だったんだろうか?」
まぁ、もう既に終わってしまった事っぽいから、考えても仕方がない。財、ほぅ……というのはもしかしたら何らかの価値がある財宝の事なのかもしれないが、無限にお金を出せる俺に必要な物だとは思えない。
自販機コーナーの休憩用ベンチに座って今日やる事を考えていると、ファフニルが話しかけてきた。
「居た居た、探したぜマスター、なんかレム姉が話あるらしいんだけどよ……なんかここ、血の臭いがしねえか?」
皆と合流し食堂に向かい、スープが追加されて先日よりも更に程良くなった朝食を楽しみながら、レム姉さんの話を聞くと、つい先日までトンタマの何処かにボトルマスターの望んだ能力を異常に高めてくれる謎の財宝が、誰の手にも触れられず静かに眠っていたらしいのだが……。
「ポロリからの情報なのだけど、その財宝が見つかったらしくて、装備したボトルマスターが高まった能力で好き勝手に他のマスターを攻撃しながらトンタマを闊歩しているらしいのよ。気を付けないと……」
「財宝か…。さっき、おそらく所有者にやられたボトルマスターを見かけたよ。女児モンスターを連れていた実力者だったが、全身のあらゆる場所を打撲していて、結局ろくに話は聞けずに医者に運ばれていったんだよな」
「一体何を強化したんだろうな?俺達だって相当に強くなったんだ、腕が鳴るじゃねえか?」
「それがね…… ポロリが見かけただけの不確定な情報なのだけど……う~ん」
レム姉さんがお茶を飲んで、はぁ……と、深く溜息をついた。
「ああ、はっきりそうだと確定した訳じゃねえ。そういう風に見えただけかもしれねえべ。だが、あれは……あれだよな」
ポロリもお茶を飲んで、ふぅ……と息を吐いた。
「ぶおおおん……? 一体何を強化したんでしょうか? 気になって、食事が進みませぇん!」
と、言いながらも既に現時点でこの場に居る全員分以上の量を食べているチャーミーの口元をキリコが拭いてやっている。
なかなか固有名詞が出てこないが、実は俺にはもう大体の予想がついてしまっていた。先程のボトルマスターの全身に付いた打撲の形や、ボトルマスターおじさん達の平均的な趣味趣向から推測すると、もうあれしか考えつかない。俺はスープを飲み干して、軽く口を拭いた後に、予想を口に出した。
「皆の前では言いにくいのだが、それは、ちんちん……だな?」
俺の言葉に全員の目が驚愕に押し開く。沈黙が場を支配する中、フィレだけが6号への賛美の言葉を喋りつづけていた。
「そう、おちんちん……よ」
「はっきり言うが、ピストン運動だべ……」
二人の自称女神達の言葉である。
ちんちん。




