54 七人の少女、トンタマの狂気
「ヒィン!? 私は伝言を伝えに来ただけの豚畜生なんです!! ご無体はやめムグゥ!」
俺は豚少女をとっ捕まえて、口にテープを貼り付けた。勝手に伝言を喋り出すのを防ぐためだ。
「いいかい、俺達はお前のマスターから別口で既に伝言を聞いているのだ」
俺は、先程考えた適当な言い訳をスキルの力を借りて自信満々に語り出した。
「その伝言はお前のものより新しく、内容が重複する為、古い伝言を聞くと話が混乱してしまう。なので、取り急ぎテープを張らせてもらったのだ」
なにゆえに取り急ぎ口にテープを張られてしまうのか俺自身さっぱり分からないが、自信満々スキルの力はそのような疑問を吹き飛ばしてしまう。
「伝言を伝える必要はない。むしろ、伝えないでくれ。わかったかな? わかったなら、口のテープを剥がしてやろう」
俺の堂々たるインチキスピーチに完全に騙され、わかりました! を態度で示す豚少女。チャーミー程ではないが、精一杯の媚びたポーズである。具体的にはパンツが丸見えの尻見せポーズだが、子供なのでおそらく何の問題も無い筈だ。
媚びたポーズのままな豚少女のお口からテープを剥がしてやり、ポーズのお礼にと先程の飴を与えると、大喜びで舐め始めた。
「俺たちはお前に頼みがあるんだ。頭のよいお前なら作ることが出来るのではないか? 人の記憶を何かに保存したり、それを戻したりする手段を」
「ぶうぅん……? 記憶のコピーと書き込みの魔道具は作った事がありますし、意外と簡単に……あれ? 何で私、そんなものを作った事があるんだっけ?」
「作れるんだな。6号、出番だぞ」
「はい、じゃあちょっとチクっとしますけど、大丈夫ですからね」
6号の吸血によって隷属化した豚少女は、命令に従ってそこいら辺に転がっていた日用品や時計などをもの凄い勢いで組み直し、空中に見た事も無い不思議な魔法陣を描き始め、それを内部に収めて、割と短時間で魔道具を完成させた。
「すげえな、魔法陣だぜ? あれって力使うと勝手に出てくるもんだと思ってたけどよ、手で書いても効果あるのか?」
「むしろ手で書く方が普通でち。あたしたちの方が変なんでちゅ」
「あの魔法陣はすごい……よ。あんなのを見たのは初めて……かも」
「ひいいん!!! この子、元に戻るんでしょうか? 大丈夫~~~?」
「これは、口が二つ付いた笛みたいな物でしょうか? 一体どう使うんでしょう?」
6号の命令で、魔道具の開発意図や使用方法について嬉しそうな顔で詳細に語り出す豚少女。
「はぁっ♡ はぁっ♡ 6号様のご命令とあらば、何でもお答えします♡ 道具の開発は上からの命令でした♡ 記憶をコピーして他者に書き込む事が出来れば、権力者の永遠の命が実現するだろうという物でしたが、実際には他者に書き込む事は出来ませんでした♡ ……ですが、本人の記憶を取り戻させるという用途には利用可能で、実際にこれの開発に失敗したと看做された私の上司が頭部に重傷を負い、回復魔法で完治したものの記憶を失ってしまった際に、実験中の彼の記憶を書き戻すことで完全復活を遂げています♡ つまり、遺体のごく一部でも回収したり、あらかじめ細胞を保存しておく等の手段を用いて、回復魔法等を用いて肉体を再現することが出来たならば、その人間を何体でも再生することが出来るのです♡♡♡ 使用方法は簡単です♡ まず、記憶を残したい方が赤い吸い口をくわえて、記憶を保存する方が青い吸い口をくわえます♡ あとは10秒間保存する方が吸い口を吸うだけで終わりです♡ 戻す場合は逆に、保存している方が10秒間息を吹き込むだけです♡♡♡」
6号のスキルの影響で全ての記憶が見えているのだろうが、あまりにも説明が長い。要は、偉い人の延命用だったわけだ。出来上がったものは少し様子がおかしい代物だったっぽいが……。
「ね、ねえ、ちょっと待って、その……保存する方っていうのは、どういう役割なの?まさか……?」
うん、俺もそれを聞きたかった。6号の足をぺろぺろと舐めながら、豚少女が嬉しそうに語り出す。
「はぁ♡ はぁ♡ 保存に適した媒体を色々試したのですが、安定して動作する上にほぼ問題が起こらないのが生きた人間の脳髄でした♡ この世の殆どの人間は持っている記憶力の半分も使っていませんから、開いている未使用の領域に他者の記憶を一時的に保存し、その領域を占有しても、理論上は何にも問題が起こらないのです♡ 残念ながら保存の実験中に何度か記憶の混濁が起こりましたが、何か問題が起こったとしても人間なんて呆れるほど地上に溢れていますし、替えはいくらでも効きます♡ そもそも6号様さえご存命ならば全て何の問題もありません♡♡♡」
ああ、この子、本当にヤバい人だったんだな……という人命軽視の発言が笑顔の女児からポンポン飛び出してくる。もはや狂気の世界だ。完全に引いた顔になっている6号の足が豚女児のよだれでどんどんべちょべちょになっていくのが見えた。
「チャーミー、聞いた通りだ。もしも次にこの子が弓矢に囲まれて、さっきみたいに記憶を取り戻した後、若干のリスクはあるが、この魔道具を使って記憶をコピーしてみて欲しい。初期化された彼女に記憶を書き込めば記憶は繋がるし、とりあえずもう無残に死ぬ事は無くなるんじゃないかな?」
「リスクは既にありません♡ とくに同種同族なら、安全性は万全です♡♡♡」
「ぶおおおお~ん!?よくわかりませんが、わかりましたぁ!」
「馬鹿豚が!わかりましたじゃねえべっ! レム様、何なんだ、この罰当たりな人族どもは~!」
気が付いた時には、その女性が部屋に居た。初めて会った時のレム姉さんのような、綺麗だが不可思議な恰好をした、長髪の女性だ。
うん、まぁ、出てくるだろうとは思っていた。どう考えてもレム姉さんの後輩だ。




