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もんもんモンスター  作者: 猪八豚
大怪物旅行
52/150

52 七人の少女、トンタマの豚少女

 早朝、仲居さんの手で起こされ、朝食の為に食堂へ向かう俺達の前に、小柄な豚少女が飛び出してきた。小柄と言っても小学校低学年くらいの大きさで、俺よりは幼いがボトルモンスターの面々と同じくらいの少女だ。そして、この少女からは、他のマスターに支配されたボトルモンスターの匂いがした。


「みなさまに、私のマスターからの伝言があります!」

「なんでしょう?」


 伝言とやらを語りだすのを待つが、なかなか始まらない。豚少女を観察すると、真剣な目のままでお顔を真っ赤にし、プルプルとふるえて口を開けたり閉じたりしている。言いにくい事なのだろうか?


 ふと少女の見た目が気になった。豚人間なのに、なんというか……痩せているのだ。欠食児童と言っても良い程に。昔、俺の通っていた学校にも似たような子が居た。後から家庭の実情を知って、何もできなかった事を悔やんだ記憶がある。


「とりあえず、朝食を食べて落ち着こう。良かったら君も食べていくといい」

「えっ、食べても、いいんですか?」


 食堂の職員に確認すると、追加料金にはなるが特に問題はないという。


 先日の朝食に似ているが、俺達の要望が効いたのか、激甘メニューの中にそのままでは甘くないパンや卵焼きも並んでいる上に、飲み物にはお茶があった。しかも、砂糖が入っていないお茶だ。砂糖は添えられているのだが。


「うん、普通に良くなった感じがするな。いただきます」


 即座に食べ始めるチャーミー以外は皆何らかの祈りや決り文句を口にしてから食事を開始した。目の前に並ぶ豚人間にとっては割とごちそうの類らしい豪華な朝食に、先程の豚少女も眼球にハートマークを浮かべ、口に涎を溜めて、じっと我慢している……。


「どうしたんだ? 好きに食べていいんだよ?」

「え……えっ……えええっ!?」


 隣では既に同種族のチャーミーがものすごい勢いでマナーもへったくれもない暴飲暴食を繰り広げている。本当に良いの?という顔で恐る恐る朝食に手を付けた豚少女の顔が、パッ!と明るくなり、結構な速度でお口にエネルギーを詰め込んでいる。


「先日のお話を参考に、メニューを少し弄ってみました。どうでしょう?お味のほうはお気に召しましたか?」


 料理人さんがやってきて、朝食の具合を伺ってきた。


「相変わらず甘味多すぎだとは思うけど、昨日よりは良いと思うよ。朝食って感じがするし、良い塩梅です」

「味が甘みに偏りすぎていますが、先日よりは良いです。そうですね……塩味が足りない気がするので、コーンスープやオニオンスープなど旨味の強いスープを用意するともっと良いんじゃないでしょうか?」

「なるほど、スープは私も好きですし、早速勉強し明日から用意させて頂きます。あ、チャーミー様。それともう一人のお客様には、スープではありませんが……こちらをご用意しています」


 チャーミーと豚少女の前に置かれるバケツのようなコップ。先日紹介された豚コックの故郷のカロリー飲料、朝食ドリンクである。こちらは見た目を改良したらしく、甘いフルーツなどが添えられているが、やはりカロリーの暴力団的な存在だ。目に入るだけで口の中に虫歯が湧いてくる感じがする……。


「ぶおおおお~~~んっ!!!」

「う、うそ…うそ、うそ、うそおおお~~~っ!!!」


 夢中になってカロリードリンクを飲み干す二人。夢を見るような目になって全身を震わせている。美味しくて幸せならばそれでいいのだが、ミドルスコールに帰った後にこのドリンクが欲しくなったチャーミーが全力で暴れ始めたら、いったいどうやって止めればよいのだろうか……?


 美味さ?で気を失ってしまった豚少女を背負って部屋に戻り、トンタマサバイバルを眺めつつ今日は何をするかを話し合っていると、ハッ!と目を覚ました豚少女が俺に向かいなおして、口を開く。


「すてきな朝食、ご馳走様でした。あ、その……伝言があるんです……が???」


 その時突然、豚少女の周囲の空間に亀裂が入ったような感覚を感じる。直後から豚少女の周囲に展開されて一点を狙い始める無数の輝く弓矢。6号がマスターを失った時と全く同じ展開のようだが、何かが少し違う気がする……。


「嘘っ……マスター、まさか破れたのですか……!?一体誰に……!?」

「事情は良くわからないが、そのままでは君も消滅してしまう契約なのでは?俺と契約すれば命は助かるが、どうする?」

「えっ!?で、でも、私、何の役にも立たない豚なんです!あなたが契約されているモンスターの皆さんと違って軽犯罪モンスターですし、このままでも牢屋に強制送還されて、別のマスターと契約させられるだけのはずなんです」

「それが良いならそれでも構わないよ。ただ、俺としてはもう少し話を聞きたかったんだが」


 レム姉さんが後ろから声をかけてくる。目を光らせていて、何らかの力を使っているらしい。


「ねえ、その説明、誰に聞いたの?私、女神だからこの目ですぐ解っちゃうんだけど、あなたの周囲を覆い始めてる弓矢は、確実にあなたの命を奪う、結構えげつないやつよ?」

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