51 七人の少女、トンタマの深夜
深夜、モンスターボトルから伝わってきたバイブ機能で目が覚める。
この特徴的な振動は、戦意を持ったボトルマスターが近くに居る事を警告するものだ。トンタマのボトルマスターは、もしや、夜の方が活動的なのだろうか?
「皆、起きてくれないか?」
仲間達を起こそうとするが、皆、俺よりも小さな子供の身体で毎日お出かけ観光をしているせいなのか、疲れて熟睡してしまっている。揺すっても叩いても、これっぽっちも起きやしない。
皆、口を開かなければ外面は割と可愛い女児だ。無理矢理起こすのは忍びない可愛い寝顔を見ていたら、気が付いたら俺はファフニルのぷにぷにほっぺをぷにぷにと押したり回したりして遊んでしまっていた。
ぷにぷに、もみもみ、ぷーにぷーに。
うーん、ボトルマスターとの戦いって、要するにボトルを割ったもの勝ちなんだから、俺がちょっと頑張ってボトルに一撃叩き込めば倒せるんじゃないのかな?
いや、しかし、ダンシング・バニーのような先制攻撃専門モンスターが相手になった場合、マスターに攻撃を仕掛けるのは難しい。やはり、無理にでも誰かを起こすべきなのか……?
そう思いながらほっぺをぷにぷにしていると、天井から視線を感じた。
「あ、あの、マスター……? 遂に、私の体でお相手をすべき運命の夜が来てしまったのでしょうか? 不束者ですが、ご指導ご鞭撻の程、何卒宜しくお願いいたします……!!」
皆が寝ている場面で一人足りない事に気が付かなかった俺も俺だが、天井に張り付いて暗闇で本を読んでいる6号も6号だ。彼女は一応吸血鬼モンスターなので仕方がないのだが、彼女に時々起こる夜更かしの癖は治っていないらしい。
「6号だけでも起きていてくれて助かったよ。どうやら、近くに戦意満々のボトルマスターがいるらしくて、ボトルから警告が出てるんだ」
6号は両手を輪っか状にして覗き込んで、何やらスキルを使うようだ。
「ちょっと超音波で周辺を調べてみますね……。 ああ、居ます……! 豚舎に向かって、ゆっくり進んできていますよ」
ちょ、超音波で周囲を調べるだって!?
そんな人外すぎるテクニックを持っているのか、何らかの幻を見せられているのかは判らないが、今はとりあえず話に乗っておくしかない。そういえば、最近みんなのステータスやスキルのチェックをしてないな。知らないスキルとか増えているんだろうか?
(我らは、共に覇道を征く者として、お主の身体に溶け込んだ、過去に存在した数多くの『力』の集合体である)
(我らには見えているぞ。お主やその眷属たちの中に新たに発生した、スキルと呼ばれる力の数々が……)
久々の謎の声である。当然のようにスルーして、6号に話しかける。
「深夜に戦意満々で豚舎に向かうボトルマスターか……。一体、何をする気なんだろうか? そのまま俺達の居るホテルに火を放つつもりなのか……?」
「あっ、ボトルマスターの目前に何かが現れました! 状況から察するにボトルモンスターですね。体長は3メートルくらいで、四つ足で歩くネコ科っぽい生き物です。爪、牙……! 明らかに強そうです」
「大型のネコ科か、厳しいかもしれんな……!」
ファフニルのぷにぷにほっぺをまさぐる俺の手に力がこもる。俺が知っている限りでも、ネコ科の生き物は大抵めちゃくちゃにすばしこくて強いのだ。肉食獣なのは伊達じゃない。
「んっ……♡ んぅ? んん……♡」
しまった。ほっぺを刺激しすぎて、ファフニルの目が覚めてしまいそうだ。ファフニルの目を手で覆い、頭をそっとナデナデしていると、暫くしてぐうぐうと寝息を立てはじめたので、安心してほっぺに手を戻す。
「ああっ……!? こ、これは……嘘でしょ……!?」
「どうしたんだ!?」
悲痛な声に驚いて問いただすも、6号は超音波を探るのに忙しいらしく返事が無いので、俺は皆の身体を観察することにした。何しろ夏場なので寝巻が薄いのだ。と、言っても女児なので別に性的な観察ではない。
「……あれ? なんか、皆、ちょっと太っ……」
「マスター! 今すぐ窓から見える豚舎の方をご覧ください!」
自分の身体を隠しながら言う6号の言葉通りに外を眺めると、豚舎付近で割ともう見慣れたキラキラとした光が発生して、消えた。
「あれ? もしかしてあそこで、とびっきりの女子中学生が誕生してる?」
「これは、殆ど推測なんですが」
6号が下に降りてきて、皆の身体に布団をかけ体を隠しながら言う。
「おそらく、豚舎に忍び込んで、豚達の餌を盗もうとしていたんだと思うんです。ですが豚や豚人間達に見つかって怒りの逆襲に遭い、超音波では判らないくらいの量の肉圧でネコ科の生き物はあっというまに押しつぶされ、運悪くそのままモンスターボトルも破損したようですね……」
「豚達の餌を!? 一体何故、そんな事をしたんだ……?」
俺は答えが判ってしまっていたが、それを口にするのは同じボトルマスターとしてどうかとも思えてしまい、あえて知らんぷりをしながらファフニルのほっぺを思う存分ぷにぷにし続ける。6号も答えは判っているようだが、それを口にしようとはしなかった。
(我らには判っている。先程のボトルマスターは飢えて痩せ細っていた。そんな中、香ってきた豚達の餌の匂いに惑わされ、遂に決意したのだ……!)
謎の声が勝手に答えを出そうとしているが、当然のようにスルーした。
俺と6号は深夜のホテルを散歩し、品揃えそこそこの自動販売機コーナーが深夜でも開いている事を発見、深夜にチャーミーが腹を減らして起き出して泣いて悲しむ事を予測して、部屋でも簡単に食べられ保存が効くカップメンを買い込んで部屋に戻り、程よく眠くなってきたので布団に転がった。
「まぁ、何事も無くて良かったな。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさいませ。私も何とか寝られそうです」




