50 七人の少女、トンタマ麺を食べる
トンタマに戻ってきた俺達は、夕食に何を食べるか話し合い、折角なので豚の餌ではなく、もう一軒あった飲食店……ラーメン屋を覗いてみることにした。
ただ、ラーメン屋だということは何とか解るのだが、ここは本当に営業しているのだろうか?
「この店……潰れてるんじゃねえのか? 外観は焼け落ちたみたいにボロボロだし、看板の灯りもついてねえよ?」
ファフニルが言う通りの状況だが、覗き込んだ店内は汚らしいという事は無く、厨房からは明かりが漏れている。
「営業しているのかは怪しいなあ……?」
「ぶおお~~ん!! すいませぇ~~~ん!! お食事、出来ますかぁ~~!?」
チャーミーの声に反応して奥から顔を出したのは、料理人っぽい恰好の男店主だった。頭髪は無く、神経質そうな顔をしている。驚くことに豚人間ではなく、普通の人間だ。片足を骨折しているらしく、松葉杖をついている。
「お客さん……か? 残念だが、今は営業していない。そもそも、うちは予約制で、予約が無ければ食事を出すことが出来ない。だが……」
壁のスイッチを操作し始める店主。店内の明かりが灯り、音楽が流れ始める。
「丁度、試作をしていてな。丁度、試食してくれる奴が欲しくなっていたんだ」
「やりました~~っ!! 食べていきまぁ~~す!!」
「何だ……豚人間の子が一人、か」
俺達の前に出されたのは、やはりラーメンだった。
見た目はあまり良くないし、残念な事に、美食感知スキルは全く反応しない……。うーん、予約制のラーメン屋さんなのに、これを出すのか?
「まぁ、とにかく頂こうぜ?」
両手を合わせて目をつぶり、何かに祈りを捧げ始めるファフニル。他のモンスター達にもそれぞれの風習があるようで、キリコは俺と同じく「いただきます」の挨拶だけだ。そんな中、うちの豚人間だけが何もせずにラーメンを食べ始めてしまっている。
遅れて俺達もラーメンを食し始めたのだが……。
全員の表情が、全く変化しない……。
「……どうだい、感想を教えて欲しい。遠慮なく言ってくれ」
「なんつーか…… これ、マズくは無いけど、美味しくも無いっていうか……」
「ぶお~ん……!! これは、何だか、寂しいでぇすねぇ……!!」
「これはまだ、商品というレベルに達していませんね。多数に向けて売る商品としては未完成です。店主さんの舌で感じ取れるような、微細な味わいを感じ取れる人はごく少数で、その味もまだまだ完成はしていない。酢と塩の調整だけでも格段に良くなるとは思いますが……」
6号の情け容赦の無い言葉に包丁を振り上げて怒り狂ったらどうしようと思って身構えるも、特にそう言うことは無く、店主はがっくりと肩を落としている。
話を聞くと、あまり自信の無い試作品だったらしい。
「ついでだから食ってみてくれ、これが、うちが普段出していたラーメンだ」
数を出せないのか、俺と6号にだけ出された別のラーメンには美食感知スキルが少しだけ反応し、実際美味だった。若干古い感じのラーメンだが、完成度が桁違いに高い。だが、これは……。
「これ、とんこつラーメンですよね?」
「ほう、知っているのか。豚の骨を16時間かけて煮込んだスープに、背脂を使ってボリュームを出している。念の為言っておくが、材料は豚人間ではないぞ、本物の豚だ」
「こちらは美味しいですね。匂いが独特ですが、この匂いを抑える工夫を考え出せば、かなりの売れ筋商品になるのではないでしょうか?」
「いや、でも……。トンタマでこのラーメンを出していたら、大変な事になってしまうのではないでしょうか?」
「ああ、なってしまった。散々なじられ、闇討ちされて骨折し、放火され……まともには営業できなくなってしまったんだ……。ああ、何故、俺はトンタマで豚料理の店を開いてしまったのだろう?」
店主はトンタマでの営業再開を諦めているらしく、ミドルスコールに新店舗を建てている最中らしい。念の為に場所を聞いて書き留め、俺達は店を出た。
「普通の豚を食べる事すら禁忌なのか。地味に恐ろしいな、トンタマは」
「でもよ、チャーミーはしょっちゅう豚を食ってるよな? 生姜焼き定食とか大好きだろ?」
「豚を食べるのは大好きですけど、嫌がる同族は居まぁす……!! でも、豚さんが悪いんですよ!? 美味しそうな匂いぃ、美味しい味ぃ……!! 溢れる脂にぃ、こんがり焼けたお肉ぅぅ……!! 考えるだけで、よだれがとまらなくなりまぁす!!」
手を強く握りしめて、激しい興奮を抑えようとしているチャーミーだが、全身から噴き出した脂汗と地面にこぼれ落ちただけで舗装された歩道を抉っていく涎を見れば、誰が見たってヤバイ人だと判ってしまう。
結局、俺達は豚の餌を訪れて、日替わりの豚の餌を好きに食べ、ホテルに戻って風呂チケットの配給を受け、銭湯を堪能し、売店の謎饅頭と甘い飲み物を味わって部屋に戻ってきた。
「ああ、今日も無事に終わったな。さて、明日は何をしようかな?」




