49 七人の少女、トンタマで見守る
館長姉さんによると、鉄おじさん達も閲覧料を支払っているし、弁当やグッズ類も良く売れるらしいのだが、博物館というものはそれだけでは運営出来ず、国からの支援が必要らしい。そして、五年に一度の運営状況チェックが明日執り行われるという。
「こんな異常な状況を審査官に観られたら、鉄道記念博物館の閉館が決まってしまいます……」
五年前はまだここまで異常ではなかったらしいのだが……トンタマサバイバルの出版は十五年前だ。館長姉さんも状況に慣れ親しみすぎて異常を感じなくなっていただけなのでは……?
気がつくと、周囲の鉄おじさんたちの様子がどこかおかしい。自分たちの存在による大切な博物館の危機という情報は、鉄から鉄へと伝わり、彼らの鉄心を動かしたのだ!
「きかんしゃ! きかんしゃ! きかんしゃ~っ!!」
「しゅぽ! しゅぽ! しゅぽ! しゅぽ!」
「しゅっぱつしんこうっ……! はっしゃオーライ!!」
彼らの心は大きく動いた。しかし、状況を改善しようという気持ちは生まれず、むしろ今のうちに貴重な列車を心ゆくまで味わっておこうと思ったのか、陰部をこすりつける腰使いの激しさがどんどん増している。
「あああっ!! きかんしゃああ!! んあああっ!! んああああ~っ!!!」
「おうおうおうおうっ!!! おうおうおうおうおうっ!!!!」
「なかに出すぞ~っ!」
弁当を食いながら見守る俺達だったが、列車マスクのおかげで鉄おじさんたちの表情は見えない。しかし、聞こえてくる彼らの言葉だけで、現状のロクでも無さは理解できてしまった。
「ご覧になって下さい! この状況を……こんなの改善できるわけありませんっ!!」
「うーん、とりあえず手当たりしだいに連中のモンスターボトルを割っちゃえば良いんじゃないの?女子中学生に変化すれば審査官だって文句は言わないだろう?」
「いや、しかし、お客様に手を上げるだなんて! 第一、ボトルモンスターの方って異常に強いんです。私ではとてもじゃありませんが……」
「そもそも、もったいなくねえか?いや、まぁ、いなくなったと思ったら沢山いるの繰り返しだから、まだまだ何処かに生息しているんだろうけど……」
パリーン!
俺達が弁当をもりもり食いながら話し合っていると、突然なにかの破壊音が聞こえた。音のした方向を確認すると、砕けたボトルの光りに包まれた鉄おじさんが、とびっきりの女子中学生に変貌した瞬間だった。
「あれっ……? ここ、何処? 私……誰なのぉ?」
女子中学生の前には、同士討ちに興奮したのか股間の竿をピンと立てた変態の鉄おじさん達が、謎の棒のような物を持って、プルプル震えながら叫んでいる。
「おまえたちが居ると! 列車の聖地が消えてしまうんだ! おまえたちを負かしてメスガキに変化させれば! この聖地は生き残るはずっ!!!」
「勝手なことを言うな! 俺たちがいるから、この博物館は無限に輝いているんだぞっ!! そもそも、俺たちは何の問題もない優良客な筈だ!! 問題なのはお前ら鉄キチのほうだろっ!!」
「うるさいうるさい! ボトルを割られてメスガキになれぇっ!!」
そう言って手に持った棒を振り上げる変態鉄おじさん達。良く見ると、その棒は機関車の形をしている……。鉄道グッズなのだろうか……?
「くっ……! 良い物を持っている……な! あっ、あれはもう手に入らない幻の模型……だ!」
アオリの解説が始まってしまった。やけに詳細な鉄イカちゃんの機関車模型解説が進行する中、鉄おじさん達同士の内ゲババトルは進み、博物館の中はものすごい数の女子中学生だらけになってきた。
「あれっ? ここは何処? 私は誰?」
「ふええっ? 私は誰なのっ? ここは何処なのっ?」
「ええっ? 何処ですかここ? 誰なんですか、私!?」
とびっきりの女子中学生と化した変態鉄おじさん達が、先ほどまで大切に所持していた機関車模型の数々を拾い上げ、その一部を自分の懐にしまいこむアオリの姿を見逃したりなんかしない。
「そういやあいつら、何故ボトルモンスターを登場させないのだろうか?」
「残念ながら、彼らはこれまでボトルマスターとして全く活動していなかったみたいです。モンスターをボトルから出現させる方法とか、鉄道の知識で上書きされて、もう完全に忘れてしまっているのでしょうね……」
あれほど沢山いた変態鉄おじさんは、俺達が弁当を食い終わる頃には最後の二人にまで減っていた。裸の全身に無数の傷を負い、互いの武器は列車や機関車の模型だけ。激しい攻防が繰り広げられ、最後は互いのボトルを同時に破壊して、不思議な光の渦に巻き込まれ、とびっきりの女子中学生に変貌した。
とびっきりの女子中学生達は機関車や列車に対する興味が無いらしいので、中学校の場所を教えて当面の生活費を手渡して博物館の外に追い出した。
「後は、普通のお客さんが戻ってくれば良いのだが……」
その心配は無用だった。鉄同士のネットワークによって変態鉄おじさん消滅の噂はあっというまに広まり、普通の鉄おじさんたちが続々と来館し始めたのだ!
「きかんしゃ! きかんしゃ! きかんしゃ~っ!!」
「しゅぽ! しゅぽ! しゅぽ! しゅぽ!」
「しゅっぱつしんこうっ……! はっしゃオーライ!!」
普通の鉄おじさん達が機関車などに群がり、弁当を買っている……。いや、でも、なんというか……これ、裸でない事以外は変態鉄おじさん達と同じに見えるのだが……? なんか顔にかぶってるマスクも同じ列車の奴だし……!
「これで、明日の審査官も怖くありませんっ!」
何故か館長姉さんが喜んでいるので、まぁこれはこれで良しとするか。俺達は裸が減った分若干平和になった博物館内を見て回り、おみやげを購入してトンタマへの帰路に付いた。
「ふぅ、弁当もそこそこ美味かったし、良い観光が出来た気がするな」




