46 七人の少女、トンタマの半裸配信
深夜、奇妙な物音で目が覚めた。何かが叫んで飛び跳ねているような音なのだが……?
「う、うう……? こんな深夜に何……? 私、女神なんですけど……?」
レム姉さんも苦しそうに目を覚ます。目をこすりながら窓の外を確認したりしているが、この物音はこのホテル内から響いている音だろう。
ボトルモンスターの女児達はスヤスヤぐうぐう寝ているので、起こさずに二人で廊下に出て様子を伺ってみると、聞こえてくる物音が大きくなる。同じ階の別の部屋だろうか?
探すにしてもそんなに大きい建物ではないので適当に廊下を歩いてみると、一つの部屋のドアから煙が漏れ出てきており、中から人の声や物音がする。
「ま、まさか……火事か!?」
ドアには鍵がかかっておらず、簡単に開けることが出来た。部屋の中からむわっ!と濃密な煙が流れ出てくる。内部からの様々な色の光に照らされて、やけにカラフルな煙だ。焦げ臭くはなく、うっかり吸い込んでしまったが、苦しくなるとかは無かった。
「ぶへ~っ!! なんですかこの煙? 妙に甘い匂いがしますけど……」
「レム姉さん……居るぞ」
部屋の中に居たのは、腰からモンスターボトルをぶら下げて、ほんの少しの布地で様々な格好をしてはいるが、基本は乳首と陰部が丸出しの半裸なおじさん達だった。部屋を埋め尽くすような人数で、何故か全員が叫びながら、円になってぴょんぴょんと規則正しく飛び跳ねている。
「トンタマ!」「トンタマトンタマ!」「トンタマ~~!」
この地の名前を叫ぶ皆の表情は笑顔だが、口からは涎を垂れ流し、眼球は全員不自然な程に上を向いて殆ど白目のような状態だ。誰一人として俺達を見ようとせず、部屋の中心に置かれた光と煙を噴き出す何かに向かって陰部をブルンブルン回転させている様は、まるで未開の地の部族が行う何らかの儀式のようだ。いや、まぁ、トンタマは未開の地なのかもしれないが。
「くっ……! 狂ってるっ……!?」
レム姉さんの口から放送禁止用語が飛び出した。俺達の冒険旅行記が何らかの形で世間に公表されるようなことがあった場合、今の言葉は「くっ……クレイジー!!」とかに変更される筈だ。
あの中心に置かれた奇妙な何かが、彼らの頭をおかしくしてしまったのだろうか? それとも最初から頭が致命的におかしい人たちだったのだろうか?
そういえばあの何か、何処かで見たことが有るような気がする……。転生儀式の部屋で見た謎のピカピカ光る器具にそっくりかもしれない。
「あれ、あの真ん中のやつって、私達が作る機材に似てますね……」
「とりあえず、邪魔だからボトルマスターの連中を部屋の外に出すか。真ん中の何かを調べるのは後からでもトンタマ!」
俺の口から突然、トンタマという言葉がトンタマ!! なぜだ……飛び跳ねてしまうトンタマ!
「ど……どうしたんです?」
「トンタマ……トンタマ!! トンタマ。トンタマ、トンタマトンタマ!! トンタマトンタマトンタマトンタマトンタマトンタマトンタマトンタマ!!!! トンタマ~~~~ッ!!!!!」
「ふええっ!? なにこれ? この煙、吸ったらヤバいやつ!? と、と、とりあえず『女神ビーム』ッ~!!!」
……気が付いた時には俺はレム姉さんに膝枕され、女神ヒールで介抱されていた。謎の煙を噴き出していた何かは女神ビームによって完全に消え失せたらしく、変態ボトルマスターおじさんたちのボトルはついでの衝撃で全て破壊され、全員がとびっきりの女子中学生に変貌していた。部屋の内部は無数の女子中学生達の花園と化している……。
「もしや危ない所だったか……ありがとうレム姉さん、助かったよ」
「どういたしまして。でも、破壊しちゃった物体……何だったんでしょうね?」
レム姉さんには特に何の問題も起こらなかったらしい。状態異常を何でも無効化するスキルが備わっている為、トンタマの病気だか呪いだかが効かなかったのだろうか……?
女子中学生達に当面の生活費を手渡してその場を立ち去ろうとした俺達の前に、何処から現れたのか……一人の女性が立ちふさがった。やけにしっかりした奇麗な衣装を着ていて、トンタマの豚人間だとは思えない。大粒の涙をポロポロ流して、俺達に話しかけてきた。
「ううっ……折角作った自信作だったのにぃ~~……! 汚らしいおじさんボトルマスター達の滑稽な踊りを、天界に生配信する為の洗脳装置を、まさか破壊するだなんてぇ~~……!」
「えええっ? ヌガー様じゃないですか! 貴方のような上級女神様が、何故下界にいらっしゃるのですか?」
良くわからないが、どうやらレム姉さんの知り合いらしい。
「決まっているでしょう? 天界は神王が居なくなって、今も混乱しているの。今こそ大出世の大チャンス~ッ! 今のうちに、もりもりお金を稼いで、ゴッド大金持ちの座を手に入れる基盤づくりをするの~!」
「は、はあ……」
「……ちょっと待ってくれ、あんた、今のおじさんたちのトンタマダンスを天界に配信していたのか? 天界って、あんな不快でけったいなものに金を払う奴らが居るのか……?」
「えっ……? で、でも……面白くなかった? 集団でぷるぷる回すおちんちん……面白かったよね……?」
目を丸くして呆然とし、続けてレム姉さんの方を助けを求める目で見つめるヌガー様と、ぷいっ!と目を逸らすレム姉さん。
「えっと……。八百万の神々やその無数のしもべ達の中には、変わり者も居るでしょうけど……先程のおちんちんダンスのおじさん達よりは、今の女子中学生部屋を生配信した方が圧倒的に儲かるんじゃないでしょうかね?」
「えっ、ええっ……そうなのぉ……? どうりで、何回やっても視聴回数が伸びないなあとは思っていたんだ……。広告収入も増えないし……このあたりに住みついてた連中を片っ端から捕まえてこの部屋に集めてたのに、無駄だったなんてショック……」
良くわからないが、ヌガー様の計画は既に失敗していたらしい。沢山いると言われていたのにボトルマスターがあんまり居なかった理由も判明してしまった。
「ヌガー様、あの……トンタマの地は確かに取るに足らない場所ですが、命を粗末に扱うような事は……その……」
「くっ、見てらっしゃ~い! 目指すは再生回数八百万回! 次こそは、無能ちゃんの前で私の実力を見せてあげるからね~っ!」
「ふああっ!? む、む……無能っ……!?」
彼女は全身からピカピカと発光し、消えていった。よくある消失マジックの類なのだと思うのだが、やけに良く出来ている。
帰ろうか、と思ったら再び空間がキラキラ光り出し、にゅっ! とヌガー様が出現した。何やら興奮した顔で一方的にまくしたて始めるヌガー様。
「ちょっとちょっと! 無能ちゃんの言った通りよ~!? 確認してみたら、女子中学生達ばかりになった部屋の中継配信の再生回数が早くも五十万を突破しているの! 今も増え続けてる……あ、あ、最高~~~っ!! 無能ちゃんやるじゃ~~~ん!! 実力派無能~~~っ!!!」
「わ、わ、私は無能じゃないっ!! 『女神ビーム』ッ~!!!」
「はうああっ~~~~~~!?」
ほっぺを膨らませ顔面を真っ赤にしたレム姉さんが涙を流しながら女神ビームを放ち、ヌガー様を消し飛ばす。前からうっすら思っていたんだが、この人が居ればモンスターの戦闘能力とか要らないんじゃ……?
「終わった……な。うん、なんかよくわからないけど、帰って寝ようか」




