44 七人の少女、トンタマの食事
ドアを開けると、中にはエプロン姿の豚おじさんが居た。客席も多数あり、まだ早い時間なのに結構な人数が着席している。
丸見えの意外と大きな厨房で、エプロン豚おじさんは大きな鍋で何かを煮込んでいる。
「すいません、8人ですが、入れますか?」
「入れるが……お前、ボトルマスターだな?見かけない顔だが……」
エプロン豚おじさんが深いため息をつきながら話を続ける。
「俺の店の中ではボトルモンスターを使ったバトルは禁止だ。守れないならば、厳しく対応させてもらう。分かったなら席についてくれ」
「あれっ、メニューとかは…?」
店員の豚男子たちの手でどんどん運ばれて俺達各自の目の前に出される、土鍋のような食器に入った謎の盛り合わせ。汁に浸かっていて、お鍋のようなにおいがする。
「うちにはこれ……日替わりの豚の餌しかない。うちの餌は人間でも食えるぞ」
「すげえな。本当に豚の餌の専門店なのか……」
次の瞬間、チャーミーの姿がまともに見えなくなった。もの凄い速度で動いて豚の餌を食べ始め、俺達に配られた容器の物も食べつくし、瞳から涙を噴き出しながら、上を向いて吠える。
「ぶおおおおおおおおっ…… ぶおおおおおおおおおお~~ん♡♡♡♡♡♡」
「む……お嬢ちゃんは雌豚なのか。その反応……もしや豚の餌、初めて食べたのか?」
チャーミーからの返答が無い。よく見ると、上を向いたまま気絶してしまっている……。焦ってほっぺを叩いて意識を取り戻させると、もの凄い勢いで媚びたポーズを取り、お代わりを要求してきた。
「食わせてぇっ!! 餌で雌豚を破裂させてくださぁい!! なんでもっ……なんでもしますからぁっ!!」
「うちは食べ放題だから好きなだけ食べてもいいが、迷惑だから破裂はしないでくれ。他の方はテーブルを別にした方がいいか?」
別席で自分たちの分の餌を改めて見ると、見た目は悪いのだが、なんとなく美味しそうな感じがした。勇気を出して食べてみると、塩味が少ない気がするのだが、豊潤な出汁がしっかり効いていて比較的おいしい。これは……力士料理の定番、ちゃんこ鍋の類なのではないだろうか?
「うーん、鶏肉団子が美味いぜ……餌食ってるって思わなければイケるな……?」
「普通においしいでち。見た目は餌っぽいんでちゅけど……うん、おいちい」
「お野菜にもしっかり味が染みていて、思わず沢山たべちゃう……ね」
「監獄で出されていた粘液料理みたいなのを想像してたんですが、思ったよりもおいしくて驚きました!」
「うーん……色々言いたいことはあるんだけど、この店はこの味で良い気がする……この味を壊しちゃいけない感じ?」
「私、女神なんですけど……女神が豚の餌を食べて、意外とおいしいとか言っちゃっていいのかどうか……」
皆、意外なおいしさに喜んで良いのか困った感じの顔をしながらむしゃむしゃ食べている。俺の箸も止まらず、結局全部食べてしまった。
エプロン豚おじさんに話を聞くと、トンタマで伝統的に食べられていた豚の餌の味を改良できないか悩み、ミドルスコールで修行をし、苦悩の末にやっと完成した逸品なのだそうだ。日替わりで中身を変えて、飽きさせない工夫もしているらしい。
誰でも食べる事が出来る最高の豚の餌だが、値段はどうしても上がってしまうらしく、故郷に出店したのに、値段設定のせいで食べられない豚人間達が結構な数存在する事が悩みなのだそうだ。いや…全然高価じゃない上に食べ放題なのだが…。
気が付けば店は豚人間達で満員になっていた。邪魔になりそうだったので会計を済ませて外に出ると、もう完全に夜の時間である。食いすぎで見た目が丸く変化したまん丸チャーミーを転がしながらホテルに戻ろうとすると、背後から忍び寄ってくる複数の影。
「マスター、なんか来たぜ?」
「ああ、気が付いてるよ」
角を曲がったタイミングでキリコに透明化を頼み、全員を透明化する。あまり長時間は透明になれないが、必要十分である。
「きっ……消えやがった!?」
「くそっ、いいカモが現れたと思ったのに……どこに行きやがった!?」
「探せっ!!」
案の定、腰からモンスターボトルを下げたおじさん達だ。トンタマで最初に出会ったボトルマスターおじさんは期待通りの陰部丸出し変態おじさんだった為に皆で喜んでしまったのだが、今回のおじさん達は20人程と人数は多いがごく普通の荒くれ者な格好をしたおじさん達だったので、皆のテンションが高くない。
「見るからにつまんねえザコおじさんだな……相手にしないで帰って銭湯に行こうぜ?」
「念のためボトルを標的に稲妻を投げておきまちゅかね……」
ホテルに帰る俺達の背後には、たった今誕生したばかりのとびっきりの女子中学生達が二十名程。皆、困惑した顔だ。




