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もんもんモンスター  作者: 猪八豚
大怪物旅行
43/150

43 七人の少女、トンタマの夜

「ここがゴールデン・トンタマホテル、なのか……?」


 俺達の前に現れた建物は、パッと見では豚舎に見える。というか、豚に混じって殆ど裸の豚人間が寝転がっているだけで、後は何処からどう見ても豚舎だ。


「ホテルはこの奥の建物みたいでぇす……? ここはトンタマの地元民が活用する豚舎みたいですねえ。あっ、でもぉ……雌豚は、ここに泊まっても全然良いのですけどぉ……」


 チャーミーが故郷を見つけたような顔で豚舎を見つめて動かなくなっているので、全員でぎゅうぎゅう押して奥の建物に連れて行った。


 豚舎の奥に立っているゴールデン・トンタマホテルは、ホテルと言って良いのかわからない民宿のような佇まいで、3階建てなのがトンタマでは珍しくて豪華!とかいう色々とアレなホテルだった。


「本によると、ここ以外の宿はオススメできないらしいんだけど……」


 旅に出る前に本屋の片隅で発見したトンタマサバイバルという名前の本には、様々なトンタマ情報が掲載されていた。中でも宿泊施設の事は辛辣にまとめ上げられていて、ゴールデン・トンタマホテル以外に泊まるのならば遺書を用意するべきとまで書かれていたのだ。


 入り口で宿泊したい旨を伝えると、受付の豚姉さんにギョッとした顔をされた。海のないトンタマ故になのか、夏の宿泊客は珍しいらしい。


「夏のトンタマって暑いだけで本当に何もないですけど……隠された秘宝探しでもされてるんでしょうか? そんなの無いと思いますよ、トンタマだもの……」


 8人で10日くらい泊まりたいんだけど…と言うと、ホテルとしては大歓迎ですが、トンタマで10日間とか、ほんとうに何をされるんですか……? マゾなの……? とドン引きされてしまった。


 一番良い部屋をお願いした筈なのだが、和室っぽい所に布団を敷いて寝るタイプの部屋に案内される。この部屋がこのホテルで一番良い部屋なのだそうで……。


「……あ、マスター、ほら……窓から山が見えるぜ……いい景色………だな」

「座布団……柔らかいでちね……やわらか、やわらかでち……」

「すごい! トイレが今時のミドル式じゃなく、古式の便器だ……よ」

「ぶおおおお~ん!! 備え付けのお菓子、おいしいいいい~ん!!!」

「見てください! 洗濯機があります! 自分で洗えって事でしょうか……?」

「ねえ! この部屋、浴槽が無いんだけど……シャワーが一個しかないんだけど!!」

「私、一応今でも女神なんですけど……せめて敬われているような扱いが欲しい……」


 ホテルの案内を読むと、お風呂の浴槽が欲しい場合はホテルマンからサービスチケットを受け取って、3軒先の銭湯に向かうと良いらしい。洗濯は自分で行い自分で干す。金庫は無いので貴重品は受付の豚姉さんに預けるか各自しっかり身に付けておくようにという有難いお言葉が並んでいた。食事は朝食だけ出るらしい。


 みんな、そろそろ今回の旅が若干面倒な物になりそうだと気が付いたらしい。明るく振舞っていたり、良い所を探そうとしているのだが……全員の目が笑っていない。数か月に渡る超快適なホテル暮らしはモンスター達を必要以上の贅沢にしてしまっていたのだ。


「風呂が完全に無いよりマシだが……これはなかなか厳しい旅になりそうだな……」


 やる事も無いので、とりあえず荷物を置いてホテルを出て、トンタマの街を歩いてみることにした。


「到着した時に気が付いてはいたのだけど、この街……本当に何も無いな。あった形跡が残っている潰れた店はいくつも見かけるのだが……あとは不動産屋とマッサージ店くらいしか……」

「ひでえなこの街。飯屋は一応あるけどよ……選択肢が無いな……」

「駅の建物が一番豪華で、周辺の建物はオマケみたいでちね……」


 あっというまに探索は終わってしまい、やることが無くなってしまう。期待していた変態のボトルマスターおじさんが戦闘を仕掛けてくるイベントも無かった。


 トンタマサバイバルに書かれているお店は酒場以外全て潰れていて、情報は全く参考にならなかった。本の発行年月日を確認すると、15年も前だ……。


「はぁ……とりあえず暗くなってきたし、夕飯を食べようか」

「と言ってもよ、寂れたラーメン屋と臭そうな酒場、あとは『豚の餌』って書いてある謎の店しか選択肢が無いんだけどなあ……」

「トンタマ市民の皆さんは、普段何を食べて暮らしてらっしゃるんでしょうね?」


 ふと、チャーミーの異常な食欲の事を思い出す。何でこの子は何でも美味しそうに食べるのだろう……とは思っていたのだが、もしや、このトンタマ市以上に食べる物がろくにない地域で育ったのではないだろうか?


「ぶおおん!? あの店から……おいしそうなにおいがしますぅ!!」


 チャーミーが『豚の餌』と書かれた店を指さして、俺に向かっていつものように卑猥なおねだりのポーズを取る。やめてくれと言っているのだが、体が勝手に動いてしまうらしい。


 こんな、する必要の全くない媚び媚びのおねだりを自然と覚えるような過酷な地域で育ったのか……豚人間の世界は大変だな……そんな事を思いながら、とりあえず『豚の餌』のドアを開けた。

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