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もんもんモンスター  作者: 猪八豚
大怪物旅行
42/150

42 七人の少女、トンタマに立つ

 俺の耳に入ってきた彼らの国の名前は、俺が昔住んでいたのだが、住む事自体のあまりの過酷さに賃貸契約が切れるのも待てずに都内に逃げ出した経験をもつ、懐かしくも恐ろしいあの地域に若干似た名前だった。


 私物も色々と置いてあるし、ホテルの部屋は借りたままにしている。今回は十日くらいの旅を予定してみた。予定と言っても宿の予約とか特に何にもしていないのだが。


 ミドルスコールから定期便の馬車に乗って、半日ほどで到着したトンタマ。


 近いような遠いような微妙な距離の場所にあるこの街は、意外な事にミドルスコールよりも人口が多いらしい。


 ……多いらしいのだが、街の実態を知ると「本当に……?」という思いが強くなってくる。


 駅を出てパッと見は意外と発展しているように感じるのだが、主要な道路や駅周辺を大きな建物で囲っているだけであり、少し歩くとやけに多い畑に、野山に泥沼と、やたら大量の竪穴式住居くらいしか無くなってしまう素敵な状況だ。


「地面に穴を掘って暮らしていたり、洞窟に住んでいたりする世帯もいるとか」

「なるほど、似ているなあ、あの街に」


 道ではトンタマ市のイメージキャラクターだという『小羽豚(コバトーン)』という羽の生えた豚がティッシュを配っていたので、何かの役に立つかもしれないと思って一個貰っておいた。コバトーンという名前は何処かで見かけた記憶があるのだが、きっと気のせいだろう……。


「あはは……。驚くほど似ているなあ、あのヤバい街に」


 俺の脳裏をあのキツい街の過酷な光景が過る。あのツラい街ではパンを買うのですら一苦労だったな。お腹をすかせた極悪少年集団が駅周辺をうろついていて、買ったパンの袋なんかを隠さずに手に持っていたら、即座に大変なことになってしまう街だった。


 少年たちに何度も襲撃されたパン屋が潰れてからはパンを買う事そのものが難しくなってしまい、東京で買ったパンをリュックにしまって持ち帰っていたっけ。匂いでバレないように色々工夫したな……。


「ムッ!? そこのお主! お主は……ボトルマスターなのだなっ!? 勝負! 勝負だ~っ!!」


 背後から声がかかる。振り向くと、そこに居たのは全裸のおじさんだ。もっと正確に容姿を表現すると、左右の乳首と同じ高さに等間隔に無数の疑似乳首が並び、股間の竿や玉と同じ形状の疑似ちんぽこが腰回りを等間隔に無数に並んでいる全裸の大量陰部おじさんだ。


「「「「「「 へっ……! 変態だーっ♡♡♡ 」」」」」」


 一斉に明るい表情になり喜び始めるボトルモンスター女児達。全裸の大量陰部おじさんを取り囲んで、完全に変態ウエルカム状態である。


「これっ!! まさにこれだよ! なあ、これだよなマスター! 俺達はこれを待っていたんだなあっ!!」

「やった! これでち! これを待ち望んでいたんでち! いやあ、これが足りなかったんでち!!」

「凄い……! どこからどう見てもド変態なのに、懐かしい……よ!」

「ぶあああっ!!!! ぶひょおおおおっ!!!! ぶおおおおお~んっ!!!!」

「どうしてなんでしょう!? 怖いおじさんのはずなのに、ドキドキします!!」

「はああ……! なんだか前のダメダメマスターを思い出して、胸が熱くなりますね!」


 全裸の大量陰部おじさんは、夏なので薄着のモンスター女児達による意外な歓待を受けて、顔を真っ赤にしてデヘデヘと照れている。


「で、でへへ、お嬢ちゃん達、おじさんと楽しいお遊びをしようか? 高速回転するおじさんの乳首を指さして、本物の乳首に当てるゲームだよぉ?」

「俺と勝負なんじゃないの?」


 呆れた俺の声を聞いて、全裸の大量陰部おじさんが元の真顔に戻る。小さく舌打ちしていたのを聞き逃したりはしない。


「そう、勝負だ。ボトルマスターは戦い合う運命。……発現せよ! 俺様のモンスター『しっぺ小僧』~!!!」


 出現したモンスターは、人差し指と中指を立てて、いつでもしっぺが出来るように身構えている少年だった。耳としっぽが生えているので、おそらくは獣人なのだろう。


「ボク、しっぺ小僧だよ! 鍛え抜いたしっぺの力を見せてやるねっ!!」

「あらっ……? 人型モンスターだわ。何だかわからないけど恐らく強力なモンスターよ……! みんな、用心して!」

「あっ、あっ、じゃあ雌豚が、雌豚がお相手しますぅん!!」


 チャーミーが手をバッ! と上げてバトル開始を宣言した。


「さあ、豚さん。ボクの前に腕を差し出して! しっぺバトルの準備を始めよう!」

「………」


 チャーミーは答えず、何やら匂いを嗅いでいる……。


「あの……豚さん? しっぺバトル……」

「はああっ……! いい匂いで、とってもとっても美味しそうでぇす……! ぶおおおん……いただきまぁ~す♡♡♡」


 しっぺ小僧にもの凄い速度で噛みつこうとする、バクン! と大きく開いたチャーミーの口だったが、間一髪のところで避けられてしまった。避けられたと言うより、運良く転んで難を避けたと言うべき状態だ。


 チャーミーに見下されたしっぺ小僧が、全身をブルブル震わせながら叫ぶ。


「ちょっ……ど、ど、どうしてっ……? しっぺバトルですよっ……? どうして!?」

「え、え、えへへ♡♡♡ 美味しそうなのが悪いんですう……! どうして、そんなに、全身が美味しそうなんですかあ♡♡♡」


 チャーミーの口から溢れ出た大量のよだれが地面にボタボタと落ちる。舗装されているはずの地面が、よだれが触れた途端に、グジュッ! とえぐれていくのが見えてしまった。


 真っ青な顔になって、何とか逃げようとするしっぺ小僧。しかし、後ろから足を掴まれて、ものすごい力で逆さまに持ち上げられてしまう。手足を、しっぽを、全身をくねらせて、ジタバタと暴れて逃れようとするが、自分をぶら下げている豚女は満面の笑みを浮かべたままだ。


「ギャアアアーッ!!! 食い殺されるぅーっ!!!」

「ひどい、ひどい、暴れないでくださぁい……! ほんの少しでぇす……! ほんのちょっとだけ、お味を確認したいだけなんでぇす……! すぐに済みますからね~♡♡♡」


 チャーミーの口が大きく開き、綺麗に生えそろった歯が見える。


「ギャアアアアーッ!!! アアアア… アッ……… …… … 」


 大小共に激しく失禁し汚物化しながら気絶したしっぺ小僧を、そんなのは全く気にせずに丸ごと飲み込もうとするチャーミーを止めて、こういう時用に準備してある肉塊を手渡すと、これ以上無いくらい幸せそうな顔で咀嚼しはじめた。


 本当に良い表情なのだが、ここに至るまでの経緯を全て目のあたりにしている俺の感情は複雑である。何より、この子が咀嚼している横では大小を垂れ流した小僧が泡を吹いて倒れているのだ。


「はあああっ!! いい香りですぅ……!! 美味しいい~んっ!!」


 全裸の大量陰部おじさんが沢山の陰部を揺らしながら気絶したしっぺ小僧に駆け寄って、モンスターボトルに回収しようとする。しかし、ボトルは動作せず、パキパキとヒビが入って粉々に砕け散ってしまった。


 粉々になったボトルが光り輝き、美しいベールのようになっておじさんを取り囲む。


「ど、どうしてだ!? まだ俺様は負けていないっ…… まだ、俺様は、あ、あ、ああああ~ん!!!!」


 久々に見る光景だが、何度見ても不思議な光景だ。どう見たってもう社会的には使い所が無くなってしまっていた全裸の大量陰部おじさんが、あの不思議な光に包まれると、一点の曇りもない、とびっきりの女子中学生に変貌してしまうのだから。


「あ……れっ? ここ……何処です? 私は……誰ですか?」


 キョロキョロと周りを見て怯えた表情の女子中学生。無理もない、トンタマの光景はミドルスコールほど良いものではないのだ。近くには失禁した小僧が倒れているし、興奮した顔で肉を頬張っている豚女も居る。そんな俺達の周囲を、トンタマの原住民達が四つん這いで歩きまわっているのだ。


「あーあ。最後は女子中学生とかいう謎のメスになっちゃうのが寂しいんだよなぁ……なあマスター、こいつら変態おじさんのままでもいいんじゃねえの?」

「いや……流石にそういうわけにもいかないだろ? まぁ、実際もう無理に倒す理由も無いし、少年マスターと同じ扱いでも良いんだけど」


 女子中学生にミドルスコールの中学校の場所を教えて、当面の生活費を手渡し解放した後、ふとアオリが辺りをキョロキョロと見渡しているのに気が付いた。


「あ……れ? しっぺ小僧、居なくなってる……ね?」


 アオリの言葉に俺も周囲を見渡すが、本当にしっぺ小僧は居なくなっていた。その代わりに何故か満足げな表情のチャーミーのお腹が不自然な程に膨れていたのだが、見なかったことにした。


「まぁ、うん……終わったな。とりあえず宿を探そうか」

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