41 七人の少女、トンタマを知る
蝉っぽいけど蝉じゃない、でもやっぱり蝉としか思えない鳥の鳴き声が夏のミドルスコールに響き渡っている。
なんだかんだであれから三ヶ月程が過ぎていたが、俺達の生活は以前とあまり変化がない。
以前に比べるとギルドから簡単な仕事を受注してはいるが、相変わらずホテルに住み続けているし、大満足亭の常連も続けている。何処かに家を買おうかと何度か思いはしたのだが、この暮らしが割と心地よいのだ。
解決できていない問題は山積みだ。どのような手段を使っているのか分からないが、恐らく俺の見ているこの謎に満ちた世界は何らかの薬物による幻覚の可能性が高く、これまで奇妙な現象を多数目撃している。
だが、現状の暮らしはそう悪いものではない。お金に困る事は無いし、食事にも大満足だ。もう少しこのままで居たい……という気持ちに、俺はすっかり負けてしまっていた。
時々、バトルを仕掛けてくるボトルマスターが現れるが、以前に比べて明らかに変態度が低く、陰部丸出し率が異様に高いおじさんではない。
見るからに少年、それも少年向け漫画ではなく女子向け漫画っぽい子が、何の穢れも知らない雰囲気できれいにバトルを仕掛けてくるのだ。
そのせいなのか、何故か段々と怪物少女の皆に不満が溜まってきたようだ……。
つい先程、風呂場でバトルを仕掛けてきた少年のモンスターをさっくり無力化し、治療してボトルに戻している最中、裸にひん剥いた少年ボトルマスターを四つん這いにさせ、その上に座って椅子にしながら石鹸で体を洗い始めた1号…ドラゴン女児モンスターことファフニルが、なにやら深く溜息をついた後に口を開いた。
「なんかよぉ……突っかかってくるのが素直な子供ばっかりって、味気ねーなあ……」
「くっ……くそーっ!! 変態マスターめっ!! 変態モンスターのくせに~っ!!」
ファフニルが少年の尻をぺんぺん叩きながら話を続ける。
「おまえの怪物……ジャイアントフンコロガシだっけ?あれがそもそも良くねえよ。鳴き声は可愛いかもしれねえよ。でもよ、フンフン鳴くだけじゃんあいつ」
「フンコは僕の大切な仲間なんだっ……あ、あ、おしりの感触っ……へ、へ、変態なのにぃぃぃ……っ!? うわああっ!! 次こそは絶対に負けないからな変態どもめえええ!!」
興奮して顔を真っ赤にしながら、勝負に負けた罰ゲームだという人間お風呂椅子という立場を素直に受け入れ、屈辱に耐えながら興奮し頑張っている少年をつまらなそうな目で見つめながら、ファフニルが再び溜息をつく。
「あのな、お風呂の椅子は喋らねえし、ちんぽこ立てたりもしねえんだよ?」
自分よりも幼い女子に、スパーン! スパーン! と甘くお尻を叩かれて、お顔を真っ赤にして、ウウウーッ! と声を上げる少年。あの少年がバトルを仕掛けてくるのはもう恒例の行事だが、徐々に調教が進んでいる感じがするな……。
「ああ、なんだかなあ……。変態おじさんマスター連中のヤバい姿には毎回唖然とさせられたけどよ、今となってみると、あの刺激が足りないんだよな……。常識が振り切れた変態おじさんが来ないと、面白く無いぜ!!」
ファフニルが女児とは思えない無茶苦茶なことを言っている。まぁ、みんな同じ気持ちなんだけど。
「は、ははっ! 変態は変態が好みなんだな! この変態モンスターどもめ!」
「えへへ……♡ えへへ……♡ 変態ですぅ…… ンフフぅ……♡♡♡」
4号こと豚人間女児チャーミーが変態呼ばわりを夢いっぱいの顔で悦んで受け入れているのが目に入る。うん、まぁ、俺や他のみんなも同じような感じに受け入れている。
体は子供だが心は薄汚れた良い年の大人のままな俺達的に、少年からの情け容赦のない変態呼ばわりは、思わずゾクゾクしてしまうのだ……。
変態を連呼しながら立ち去っていく少年を見送りながら、皆で風呂に浸かってゆっくりしていると、突然チャーミーが驚いた顔になって立ち上がる。
「ぶおおおん!? 同族っ……? 同族でぇす!!!」
何事かと思って視線を追うと、大浴場に入ってきた一団の頭に生えた耳と尻尾がチャーミーの物と同じく豚の物だった。
「チャーミーの仲間か知り合い?」
「違いまぁす…… 同じ種族ですけど……」
周囲にボトルマスターの気配は無い。彼らはボトルモンスターではなく、純粋にホテルの客なのだろうか?
「ぶはぁ~っ、ミドルスコールは平和で良い国だブゥ~!」
「はぁ……あの厄介な連中が居なくなれば、故郷も負けないんだけどブゥ……」
風呂に入りながら世間話をしている豚人達に、俺は話しかけてみた。
「厄介な連中って、何かあったんですか?」
「ん? なんだおめぇ……ボトルマスターじゃねえか! おめぇの仲間が問題なんだブー!」
「素行不良のおっさんボトルマスターどもが、ブー達の国のあちらこちらに、やけに沢山居座っているんだブー!」
「おっさんどもは殆どの奴らが下半身剥き出しで、腰を回して竿を回転させているブーッ……」
「子供の教育に悪すぎるブウ……!」
怒りと呆れの表情を浮かべながら訴え始める豚人間たち。
「おおっ? お風呂でもないのにちんちん丸出し系の、おじさんマスター達でちか?」
「やっ……た! 変態おじさんマスターは、まだ居たんだ……ね!」
2号……インドルアという名前なのだが、仲良しにはルアと呼んでほしいらしい雷様と、3号のイカちゃんモンスター・アオリが喜びの声を上げて、豚たちが引いた顔になる。
「変態性の高いおじさんボトルマスターは、神王様の発狂の結果、意図的にこの世に放たれた連中でしょうし、皆さんに迷惑でしょうから、なるべくなら退治して女子中学生に変えてあげたいですねぇ……!」
自分は女神様だと自称する、仲間内で一番危ない気がするレム姉さんが神妙な顔になって言い出したが、口角が上がっており、やはり彼女も嬉しそうだ。
いや、しかし、だ。神を自称するこの人達の意向次第でそういう操作が可能であるとなってくると、最近のショタっぽい少年マスターばかりという状況も、何処かの何かが盛大に狂った意図が絡んでいそうな気が若干してしまうのだが……?
「美容と健康に良い食事が…? ちょっと怖いですけど、私、がんばります!」
「豚さんの国って美味しいものが沢山あるイメージですが、どうなんでしょうね?」
5号のキリコちゃんと6号が食のイメージで盛り上がっている。6号にはそもそも本名がないらしく、今でも6号と呼んでいるのだが……何か名前を付けてやったほうが良いのだろうか?
豚の国の料理って言われても、豚肉を使った料理しか思いつかないのだが……まさか、豚達が自分達を調理しているなんていう恐ろしい場所じゃないよね?
「みんな行きたいみたいだし、行ってみる? 豚の国……」
「おい人間! 我らが故郷にも『豚玉』というちゃんとした名前があるブー!」




