39 七人の少女
その後、俺たちは様子を見に来た他の神達の力を借りて、地上に戻ることが出来た。
あまりの所業の酷さに神王を消滅させた事を恐る恐るレム姉さんが伝えると、セーラー服をはぎ取られて無残な姿の女子中学生達を眺めながら、うん、仕方なかったかもしれないね……という感想を吐き出し始める。
「神王様、最近は本当に酷かったからね……」
「あれじゃ、ただの変態だよなあ」
「それにしても、一体何が原因だったのだろうか?」
まぁ、神様たちの事情など、俺には関係がない話だ。そもそも神様があんなに簡単に死ぬわけが無いだろう。いや、まぁ、死んでないらしいのだが、それが本当なのか設定上の話なのか、俺には判別がつかない。
神殺しに加担した罪を背負わされる恐れがあったが、レム姉さんによると、神様を殺しても実際に死んだわけではなく、割と時間はかかるけどしっかり蘇るので、せいぜい特徴欄に悪口を書かれるくらいなのだそうだ。今回の場合はそれもないだろうとの事。
俺たちが生きている間は、神王も後輩女神も蘇ることは無いらしいので、復讐に怯える心配もいらないらしい。子孫に迷惑がかかりそうだが……?
神王が居なくなった事で、神様の業務に支障はないの? という疑問に帰ってきた返答は、そもそも神がいなくても世界は動き続ける……という何とも曖昧なもので、まぁ、そこいらへんも俺には全く関係のない話だ。
「吾輩は驚いたぞ……! まさか、あのようなドぎつい化け物を退治するとは……! お前らとは絶対に敵対したくないな! そして、ありがとう……バニーを助けてくれて!」
目の前に居るのは、そう……ふぐりむき出しの変態おじさんである。彼はあの時、自分のデコイ人形を放ち、自らは再び女子中学生に変装して周囲に紛れることで、神王の攻撃を逃れていたらしい。
ダンシング・バニーとの契約を解消すると、元のサイズにするすると戻り、満面の笑顔で抱き付かれた。巨大な乳房が顔面に当たり、嬉しいような苦しいような……。その後はおじさんの元に戻り、手と手を取り合う二人。転移魔方陣を出して、何処かに飛ぶつもりのようだ。
この二人、付き合ってるんじゃないの……?
「本当にありがとうだぴょん! みんながいてくれて、本当に助かったぴょん!!」
「いや、今回はバニーさんが居なければ万が一にも勝てなかったよ。こちらこそ、ありがとう!」
「……また、会えたら会おうね!!」
個性的な二人の姿が一つの大きな光になって、ミドルスコールの何処かへと飛んでいく。
この時使ったモンスターとの契約を解消する方法は、レム姉さんに教わった。俺はボトルマスターとして、準備をしておかなければならなかったからだ。
そう、俺の残り6人のモンスターは、神王の采配によって、今はもう自由契約なのだ。いつでも契約解消できるし、自分の意志で何だって出来、何処にだって行けるのだから……。
「……と言っても、俺達がモンスターってことに変わりはないんだよなぁ」
「モンスターでも、もう少し育てば、全員であの中学校にも通えまちゅよ?」
「あっ……いいな、モンスター中学生。セーラー服って、少し憧れ……る」
「ぶひょおおおっ? じょ、女子中学生っ……? 美味しそうで、じゅるりぃぃ……!」
「私、女子中学生だったこともあるんですけど、もう一回通ってもいいんでしょうか?」
「給食とか、どうなってるんでしょう? くっ……調べないと、気が済みません!」
『大満足亭』の旨すぎて意識が飛びそうになる料理をがっつり頬張りながら、好き勝手なことを言っているモンスター女児達。
「契約を解消して田舎に帰るとか、ちょっと店を開いて商売したいとか、そういう奴は居ないの?俺、わざわざ契約解消の技も覚えたんだけど……」
「ダンシング・バニーの契約解消に使えたでしょう? まぁ、いいんじゃないですかね、これはこれで……」
俺の目の前にはレム姉さんまで居て、チキンらしき肉を香草や謎の調味料と共に焼き上げただけのはずが、何故なのか見ただけでよだれが止まらないヤバい料理を、ムシャ! ムシャ! と口にしている。
ふう……とため息をついた後、俺も目の前に並ぶ最強満足料理を食べる事に夢中になる事にした。ここの料理は本当においしくて、ちょっとした事くらいなら食事するだけで忘れてしまえるのだ。案の定、気が付いた時には俺は満腹の腹を抑えながら、帰路についていた。
ホテルに戻る途中、後ろから声をかけられる。振り向くと、食い過ぎで丸くなり原型を失った7名のうちの一人、まんまる女児の3号だった。
「マスター、これ……さっきお店のナプキンに書き出しておい……た。みんなの最新ステータス、確認できる……よ!」
「おっ、ありがとう。お風呂に入る前に読むかな」
「なんか……すごく長くなっちゃったんだけど、レベルがあがったせい……? 私も後で読……むね」
部屋に戻った俺は、机の上に紙を広げ、皆の最新ステータスを確認し、思わず苦笑してしまった。
「すさまじいものを読んでしまったな……みんな待ってるだろうし、大浴場に行くか……これ、特徴欄の要約とか一部消去は出来ないのかな? 3号……いや、アオリに聞いてみよう」
俺は風呂道具を洗面器に入れて、苦笑いを浮かべながら部屋を出た。巨大宗教だか国家的陰謀だか知らないが、この幻覚の中でも風呂の時間は俺のお気に入りだ。
風呂に入って、寝て、明日は何処へ行って、何をしようか。目の前には、まだ見ぬ世界が広がっているのだ。
「そこのお前! お前、ボトルマスターだな! どうせお前も変態おじさんなんだろう!? くそっ! くそっ! どいつもこいつもボトルマスターは変態ばかり! 変態マスターめ! ぼくと勝負だ!!」
大浴場に到着したばかりの俺の前に現れた瞳の綺麗な少年が、俺にバトルを仕掛けてきた。
「君、ボトルマスターなの? まだ居たのか……新規の子なのかな? 俺はバトルとか嫌だよ。もう無理にやることは無いし、今からこいつら全員と一緒にお風呂に入るんだから」
「う、うわーっ!? 男女で一緒にお風呂だなんて、へっ……変態だ!! この変態!! 変態っ!! 変態ーっ!!」
綺麗な目の少年が、顔を真っ赤にしながら俺達に向かって変態を連呼する。体は子供でも心が薄汚れた大人のままな俺達は全員、純真な少年から放たれる変態という言葉の乱舞を浴びて喜びの笑顔になっていた。
「変態、えへへ……」「ぶおおおん……!!」
「くそっー!!! 発現せよ! ぼくのモンスター『ジャイアントフンコロガシ』ッ!!!」
指を引き抜いた少年のモンスターボトルから噴き出した光の粒が寄り集まり、大きな光の玉が弾け飛ぶと、そこにモンスターが出現した。
「フーンッ!!!」
俺はフンコロガシが鳴くのかどうか知らないが、とにかく目の前のフンコロガシはフーンと鳴いた。もはやバトルは避けられない様相だ。
「まぁ、しょうがない……1号様がいっちょやってやるか」
1号……いや、ファフニルが腕をぐるぐる回してやる気満々だ。
「ファフニル、なるべくモンスターは殺さないで。負けたマスターが女子中学生になる悲劇は、モンスターの死が引き金になることが多いらしいから」
「了解だぜ………… えっ? ……今、マスター…………
………… お、お、俺の名前……を…………」
ポカーンとした顔が沸騰したように真っ赤に染まり、口をあわあわさせて狼狽えるファフニル。
「うひゃあああっ!!? 呼び捨て~~~っ!!?? お、お、奥さんなの~~~~っ!?」
両手で顔を抑えて風呂場に走り、浴槽に飛び込み、そのまま奥の方まで逃げていってしまった。
同時にジャイアントフンコロガシは4号の手でひっくり返されて、起き上がることが出来なくなった。
「意外とぉ…… 美味しそうですねぇ……」
「フッ……!? フーンッ!!!」
「くっ……! 変態っ!! 勝ったと思うんじゃないぞ変態!! これは戦略的撤退だからな変態!!」
フンコロガシをボトルにしまい、変態を連呼しながら走って去っていく少年を生暖かい目で見守りながら、俺達は体を洗い、集団で風呂に入った。
はふぅ、変態かぁ…………。
明日からも色々な出会いと別れがあるだろう。しかし、俺には変態の皆が居る。変態七人と力を合わせれば、ずっと楽しく暮らしていけるに違いない。
たとえ、それが巨大宗教や国家的陰謀が用意した幻想の世界だったとしても、だ。俺は最近、この奇妙な生活を気に入り始めている。
「マ、マスター……。あの、あのな、いきなり本名呼び捨ては、刺激が、刺激が強くて、俺……」
「ん……? じゃあ俺の事も呼び捨てでいいよ? ミライって呼んでくれよ」
「ミッ……ミラッ………?? ミーッ!!!!!???????」
再びお顔を真っ赤にしてお湯をかき分け逃げていくファフニルの尻を眺めながら、明日も良い一日になると良いな、と思いつつ、変態の俺達は風呂を後にした。




