38 七人の少女と合体レッツ・ダンシング
俺は、この巨大神おじさんが嫌でたまらない。出来ることならば、何とかしたくなってしまった。
何とか出来るのかわからないけど、どうせ全ては幻覚なのだ。そもそもの話として、こんなに巨大なおじさんが存在するわけが無い。
横のレム姉さんを見ると、顔を真っ青にして目を泳がせ、起きている出来事に嫌悪感を抱いているようだ。俺と初めて会った時の、捨てられた犬のような目をしている……。
やれるだけでいいから、やってみても良いのではないだろうか?
俺は、表情を失い、生きた屍のようになっていたバニーさんに、そっと声をかけた。
「バニーさん、とりあえず俺と契約しよう。ボトルに指を突っ込んで、契約の言葉は『ご奉仕するにゃん』だ」
「はい…… 『ご奉仕するにゃん』 だ、ぴょん……」
ダンシング・バニーの身体を光が包み込み、俺仕様のモンスターに姿を変えていく。要するに子供……バニーさん女児だ。レベルやステータスも、俺のレベルに合わせて補正されたと思われる。
興奮して何やら女子中学生達に向かって演説している巨大神おじさんにバレないように、小声で話を進める。
「早速だけど、バニーさん。俺との契約で、レッツ・ダンシングのスキルレベルは向上した?」
「は……はい、驚くほど上がりました。で、ですが……まだ、まだ足りない気がします……あと、あとほんの少しでもあればっ!!!」
「これを使ってみてくれないか?」
俺はモンスターポイントを消費し、★を二十個渡した。
真っ暗になっていたバニーさんの瞳に、虹色のキラキラした輝きが戻ってくる……。
「こ、こんなに? これを使ってしまっていいのぴょん? もう使っちゃったけど……う、うおおっ……!! なにこれ……? なにこれ……?」
一見では何も変化のないダンシング・バニーだが、内面の変化は想像を遥かに超えているようだ。
「すごい……! 体の奥底から、とんでもない踊りが……! ぐつぐつ湧き上がってくるぴょおおん!!!」
3、4、5号には渡しただけで宙ぶらりんになっていた★を全てレッツ・ダンシングの強化に当てるように。6号には念のため吸血の準備、レム姉さんには女神ビームの射出条件を聞く等、全員にこれからの行動を指示する。
「しわ袋おじさんの言葉を借りるならば、先手必勝だ。一応言っておくと、もしも巨大神おじさんの攻撃を受けたら、誰も生き残れないだろう。そして、既に皆は全員自由の身だ。逃げるなら今だが、それでも俺の我儘に付き合ってくれる奴だけ、残ってくれ」
全員の顔を見渡すが、誰も逃げようとしていない。
「ん? 居なくなるやつ、居ねえの? ハハッ!!」
「自由だって言われても、モンスターに変わりはない以上、今の生活とそんなに変わりませんからね」
「これは復讐のチャンスでち。あたしはやるでちゅよ…!」
「あの欲に塗れた醜い姿……! 神王は、何らかの原因で頭の病気になられているか、偽物……? とにかく神王を名乗りながらのあの愚かな行動を、これ以上捨て置くわけにはまいりません!」
巨大神おじさんは巨大全裸体のまま女子中学生達に近づき、股間のプロペラをぶんぶん回している。顔面蒼白の女子中学生達は、泣きながら懸命に逃げていた。
「ふはははは!! 神の回転を見ろおっ!! 神ビーム発射ぁぁん! 神ビーム発射ぁぁん!」
「ぎゃあああっ!!! なにこの液体ーっ!!!」
「へっ、変態だぁぁぁーっ!!!」
彼女たちは捕まる度に服を一枚奪われているようで、既に下着一丁の子もいる。見るに堪えない酷い光景だ。
もはや誰にも止められなさそうな絶望的状況の中、突然、地面の雲が盛り上がる……。
雲が変形し、ライティングもばっちりの回転お立ち台となったその場に居たのは、四人のモンスター少女だ。
四人は、腰についた怪しげな器具で音楽を流し始める。動きを揃えて、首、胸、おしりの順番に体をふりふりし、以前に比べると明らかに高速なリズムを取った後、その場で見た事も無い謎のダンスを踊りはじめた。
「みんなーっ! いっしょに最後の瞬間まで踊り狂うよっ! 四人のダンスを一つに~っ!!」
「「「「 合体・レッツ・ダンシングだぴょ~ん!!!! 」」」」
ズン! ズ! ズン! ズンドコ!! ズン! ズ! ズン! ズンドコ!!
踊るっ!! 踊るっ!! ぴょ~んぴょぴょぴょ~ん!!
「ん…? なんだ? さっきのモンスターどもか…? 邪魔をするでない。私は今、神プロペラを大回転させ、とびっきりの女子中学生達を追って飛び回るのに忙しいのだ。そもそも、その技は私には効かなかったろう………あれえええっ!?」
巨大神おじさんが、四人のダンスに合わせて巨大な体を激しく踊らせ、股間の竿と袋がぐるんぐるんと回転している。そう、レッツ・ダンシングに屈したのだ。
巨大神おじさんの恥ずかしい巨大なチンコプター姿が、その場に居た全員の目に映り込んでいく。
「何故だっ!? こんな幼稚でくだらないスキルに、何故私の高貴な肉体がっ!? 見るなっ!! お前ら……見るなああっ!!」
ズズズン! ズズズン! ズ! ズ! ズンドコどっこい!!
踊れっ!! 踊れっ!! ぴょんぴょんダ~ンス!!
「汚らわしいっ!! なんと汚らわしいっ!! この私が!? モンスターごときの創作ダンスに、体の自由を完全に奪われているだと!? ゆっ、許せないっ!! お前ら全員まとめて消してややややややっ!?」
何か致命的に危険なスキルを使いそうな気配があったが、2号の雷攻撃が巨大神おじさんの発声を奪い、1号の強烈な火炎放射が、踊る巨大な肉体を焼き尽くしていく。
「ユ、ユル、ササ ササン…… ユ…… ルサ ンゾゾゾ ゾゾ……」
燃えながら、痺れながら、それでも激しく踊り続ける巨大神おじさん。憎しみに満ちた目で俺達を見ている。
「おいたわしや、神王様……。私は、素晴らしく偉大だった貴方様が、そのように異常な状態になった原因を必ず突き止め、どれだけ時間がかかろうとも必ず治療致します。今は一旦、安らかにお休みください……!」
「ゴハアアア……アッ!!! キ……サマラ!!! ゼッタイ……ニ!!! ユ、ユル……サ」
レム姉さんが両手を広げて謎の光を集め、指先に集中させて巨大神おじさんに向けた。指先の光はどんどん膨れ上がり、過去に彼女が放った能力の数々よりも圧倒的に美しく輝いている。その輝きは全方向を照らしていたが、突如、キラキラと輝く全ての光の筋が一点に集中した。
「【女神ビーム】ッ!!!」
放たれた強烈な光線が巨大神おじさんを包み込む。けたたましい断末魔の叫びを残しながら、全ては光の渦の中に消えていった。こんな状態になっても、神様というのは死なないらしいのだから、ズルい。
「ふぅ……終わったな。みんな、ケガは無いか?」




