33 七人の少女と昆虫おじさん
深夜、俺がベッドで寝転がって、これまでを振り返って今後について一人で恐れていると、突然ドアフォンが鳴った。
こんな時間に一体誰だ……? ドアを開けると、そこに居たのは申し訳なさそうに上目遣いの6号だ。話を聞くと、吸血鬼の性なのか、時々夜に目が醒めて眠れなくなってしまうらしい。
「暫くすれば眠くなります……申し訳ありませんが、少し時間を潰すのにお付き合いいただけませんか?」
とはいえ俺の部屋で二人きりは色々と問題なので、部屋に常備されているホテル案内の冊子をめくると、四階の奥に最新ゲーム遊戯室なるものがある事に気がついた。
「今の時間にやってるかわからないけど、ここに行ってみる?俺、ゲームとか苦手だけど……」
「私、ゲームってやったこと無いんですが、行ってみましょうか!」
四階まで降りて遊戯室のドアを開けた俺達の前にまず現れたのは、透明のガラスで覆われたリングの上で虫同士が戦う子供が大好きそうな対戦台……なのだが、観客もプレイヤーも殆どの皆がおじさんだ。
虫のコントロールを簡単な憑依魔法で行うらしく、顔には虫の視界を写すためなのか簡単なゴーグルを付け、身体にコントロール用のデバイスを付けたおじさん二人が汗をダラダラ流しながら蠢いているのが見える。
この世界にはディスプレイや液晶モニターのようなものが無いらしく、魔力で発光しているらしいニキシー管のようなものや豆電球的なものが得点や進行状況などを表示したりはしているものの、基本は全て目の前に実在している物を上手く使った遊具となる。
それらのレベルが俺の想像していた物よりも段違いに上だった。まるでVRゲームのような謎の技術が使われたゲームマシンが数多く並んでいて、深夜だというのにプレイしている人達も数多く居る。
その中でも虫を上手く使ったゲームは人気が高いらしく、この遊戯室の最新ゲームは殆どが虫を利用した物のようだ。これはもう、たのしい虫ランドと言って良いものかもしれない。
システムを見て回ると、景品だけでなく賞金のようなものが手に入る仕組みもあるらしい。時折見かけるやけに必死そうなおじさんは、賞金を目指して日夜頑張っているのか……?
「お、お、おっ? マスター、これ楽しいです!」
「凄いなあ、虫の背中に乗る体験ってだけでも楽しいのに、飛んでくる敵を撃ち落とすゲームだなんて」
撃ち落とす方法は簡単で、手で弾の射出方向を指示するだけ。
これが意外に面白く、2人で何度もプレイしてしていると、何回目かのプレイ後に、コインを投入できなくなってしまった。
どうやら、あまり連続してプレイすると操作されている虫の疲労が溜まって体を壊してしまうらしく、若干の休憩を挟むのが普通らしい。
「ぶ~ん!? ぶ~~ん! 君はボトルマスターだぶ~~~ん!? くそっ!ぼくの命を狙ってきたな~っ!?」
す、凄い! 一目でボトルマスターおじさんだと解ってしまう、昆虫のコスプレをキメてはいるが大体全裸のおじさんが、手に持った羽を振りながら、たのしい虫ランドの中を俺達に向かって走ってきた。
何故だろうか?股間には『R15』と書かれた紙が貼られて封印されている。これまで、ボトルマスター達の股間は大抵丸出しだったのだが、一体何が起こっているのか?『R15』の文字は昆虫おじさんの陰部の形に盛り上がっている!
「発現するぶ~ん! ぼくのモンスター、ジャイアント・ラフレシア!」
目の前に現れたモンスターは、やけに巨大な花……だったのだが、次の瞬間強烈すぎて遊戯室のお客さん達が反射的に吐瀉する程の悪臭が放たれ、嗚咽し涙を流しながら遊戯室から逃げ出すお客さん達。俺達もたまらず逃げ出してしまった。
「ははは! ジャイアント・ラフレシアは全く動かないけど、全く戦わずに済むモンスターぶ~ん!」
……まぁ、そうなるだろうなあと思ってはいたのだが、翌日、朝食を食べに食堂に降りてきたところ、ロビーで謎の剣士集団が昆虫おじさんを拘束している場面に遭遇した。
「一般市民に対して変態犯罪を犯したボトルマスターのボトルは、その場で即破壊である。解っているだろう?」
「ぶ~~~ん!! ぼくは自分の命を守っただけぶ~~~ん!!」
「団長、この男は公衆の面前で悪臭を放つ前科が多数あるようです」
「最早問答無用! 一刀両断んんっ!!!」
速やかにボトルを完全破壊する剣士。
「ぶあああああ~ん!!!!」
粉々に砕け散ったボトルの粒々が七色の光を放ち、魔法少女が変身するかのような光を放って昆虫おじさんを包み、猛烈に回転した後にパッ!と消えると、おじさんが転生した姿であろうとびっきりの女子中学生が座り込んでいた。
「あれ…? ここ、何処ですか? 私、誰です?」
「本日の変態処理は以上っ!! 各自、解散である!!」




