28 六人の少女と大満足料理
「お疲れ様っす! あ、あれっ……? 討伐依頼は、ジャイアントネズミっすよね……?」
ギルドの依頼完了受付窓口に倒したイノシシの死骸を持ち込んだのだが、受付の職員が理解できないっす……という顔をする。
イノシシ、あと100匹くらい倒したのだけど……と言うと、受付のテーブルがぶっ壊れるという理由で窓口の裏の倉庫で出すことになった。
「99、100、101…ああ、すまん、108匹倒してたな」
「こりゃあ……すげえ肉の山っすね。もう一度聞きますけど、ジャイアントネズミは居ませんでしたか? おかしいな……?」
依頼書の内容を手持ちの書類と照らし合わせて、何やら確認している職員。
「居なかったと思うけど、討伐にならないのなら仕方がないし、持って帰るよ?」
「……待ってください! これはうちの事務方のミスっすね……確認するので、この特別券を使えば建物内の酒場で無料飲食出来るっすから、ちょっと待っていて欲しいっす」
そんな券はうちの豚や吸血鬼の食欲やグルメ欲求がおかしいことがバレてしまうだけの券なので、丁重にお断りして適当に暇をつぶしていると、先程の受付職員がげんなりした顔で女子を連れて戻ってきた。
「いいっすか、お前の取り間違いは、こちらの新人ウスイさん達が死ぬかもしれなかった話なんすよ? それに、先日からイノシシ軍団を待って現場で待機してるEランクの冒険者さんたちに、撤退願いの使いを出したっすよね? 手間賃、慰謝料、ギルドの信用問題、その他諸々を考慮して、簡単に許される話ではないっすよ?」
「言ってるじゃない、あたしは言われた通りに書いただけ。ウスイさんってこの子達でしょ? 生きてるじゃないの。お肉いっぱい獲れて良かったね? あはは、馬鹿ばっかり。もう辞めま~す」
「それで済む話じゃないっすよ? 雇用時に細かく契約したっすよね……そういう場合、生じた全ての負債は貴方が被る事になるっす。逃げようったって無理っすよ、ギルドは世界中に存在する事を知ってますよね?」
「はぁっ……!? ふざけんな! あたしは出ていく!」
目の前で展開される、俺達には一ミリも得にならないどうでもいい会話を聞くのも面倒になってきたので、大量のイノシシの死骸を魔法の保存袋に詰め直し、5号のスキルで隠れながらそっとギルドを出て、景気直しに何か食おうと先日の洋食っぽい料理店『大満足亭』に足を運んだ。
「お……? 何か……変わったな、前よりも……」
「感じます! スゴい……スゴいですマスター、これは期待できますよ!」
俺と6号の美食探知スキルが何かの変化を敏感に感じ取っている。とりあえず前回と同じパーティ用料理を頼み、取り分けて目の前に置いたのだが、口に運ぶ前から唾液が止まらない。視覚だけでなく、嗅覚も目の前の料理に夢中になっている。更に味覚まで支配されてしまったら、俺の身体は一体どうなっちゃうの~っ?
6人の少女や自称女神も同じような事を思っているらしく、全員の顔が火照っており、とろけそうな目をしている。まだ口にしてもいないのに。
「「「「「「「いただきま~す!」」」」」」」
……
…………
「あ、あれっ……?」
腹は満ちている。そう、俺は今ここで食事をしたからだ。余りにもおいしすぎて、若干の記憶を失ってしまう程の食事をした……。
パーティ用料理は4号の食欲を考慮して人数の倍にちょっと足した16人前を用意してもらっていたのだが、全てが、綺麗に消え失せている……。
皆はどうか。俺と同じような感じで、無言で呆然としている。全員があまりにも強い料理の力に屈服してしまった……。
「あっ! これはこれは、お久しぶりです! あの後、1日入ると中で365日間修行できる特殊な空間部屋を借りて猛修行しなおしたのですが、ご満足いただけましたでしょうか?」
先日のコック帽をかぶった料理人らしき女性が、やけにムキムキになった体で近づいてきた。
「すごかったです! まさかこの短期間にこれ程の改善……いえ、超越をしてくるとは! もう、私程度では何も言う事がありません……素晴らしい店に生まれ変わりました!!」
6号が口の周りにソースらしき液体を付けたまま、体を震わせ涙を流して感動している。
いや、しかし……確かに美味いのだが、食事中の記憶が飛んでしまうレベルというのはどうなのだろうか? 俺が必死の顔で取ろうとした肉を、野生化した4号が叫びながら奪い取って口に運んだショッキングな場面は明確に思い出せるのだが……。




