26 六人の少女と失われたもの
朝、ビュッフェスタイルの朝食を摂りにみんなで食堂に行く途中、つい先日には入れ墨の下着泥棒おじさんを断罪していた謎の剣士集団に拘束された自動販売機おじさんが、自らの正当性を主張している場面に遭遇してしまった。
「違う! 俺は、ただ……一時の幸せを感じていたかったんだ……! 断じて変態行為で興奮していたわけではない! 幸せを感じて興奮していたんだ!!」
「一般市民に対して変態犯罪を犯したボトルマスターのボトルは、その場で即破壊である。解っているだろう?」
「あ……いや……俺はボトルマスターではない……。ただの無職の男だ……! ボトルは持っていないだろう?」
嘘をつく自動販売機おじさん。しかし、そのタイミングで、剣士集団の仲間と思われる剣士がモンスターボトルを持って現れた。
「団長、見てください。この男の部屋の金庫の中にありました」
「やはりか。最早問答無用! 一刀両断んんんっ!!!」
手慣れた手さばきで振るわれた剣士の剣が、おじさんのボトルを直撃する。
「俺はただ、ちくびボタンを押された瞬間に絶頂を……!! あ、あああああ~ん!!!!」
破壊されたボトルが飛び散り、光の渦になっておじさんを包み込み、まるで夢のような彩りを見せる。
ほんの数秒……あっというまにおじさんの姿は消え失せ、セーラー服に身を包んだおかっぱ頭の女子中学生に変化した。
「えっ……ここは何処? 私は誰なの?」
「本日の変態処理は以上っ! 各自、解散であるっ!!」
去っていく謎の剣士集団と、戸惑いオロオロしている元自動販売機おじさんのおかっぱ女子中学生。昨日お世話になったしなあ、と思いながら当面の暮らしに困らない程度のお金を出して、そっと手渡した。
「もしも足りなかったら、俺達は当分このホテルに泊まってるから、訪ねてくると良い」
「そんな! これ、ここのお金ですよね!? 受け取れませんよ! 私、自分が誰なのかもわからないのに!」
いいから持って行って、好きに暮らしてくれ! と女子中学生を追いやって、ようやく朝食にありつける事になった。レム姉さんやモンスター女児達は既に食事を開始している。
「うーん……? 普通にうめえんだが、朝食はマスターの作る飯の方が好きかもしれねえな。どうも余所余所しい感じが抜けねえや。まぁ、うめえんだけど」
「高級な材料がふんだんに使われすぎていて、美味しいんだけど、あたちたちの口だと判断に困るような感じがしまちゅ」
「海鮮……うまい……よ。新鮮で、生でもイケ……る」
「ぶ…… ぶお……ん……」
「私はここのご飯も割と好きです。主張しない感じが好き……」
「ちゃんとした材料と技術で作ってる感じがするわね~! ビュッフェだからなのか、誰でも食べられる無難な味にしちゃってる感じがするのが残念かな?」
しかし、そんな中、一人だけ元気がなく、食事に手を付けていない……いや、正確に言うと既に2人前くらいは食べた感じの形跡があるのだが、いつもよりは全然食事をしていない者が居た。4号である。
4号はポロポロと大粒の涙を流しながら、胸の内を明かす。
「ぶぅぅぅ……! おじさん、女子中学生になって、この世から居なくなっちゃいましたぁ……ううっ、おじさんが居ないとなると、もう深夜にお寿司を食べられないでぇす……!」
チーン! と鼻をかんだ4号は、それでも何だかんだで3人前を食べ始め、最後は結局いつも通りの恐ろしい分量を食べて、その頃にはいつもと変わらない満足げな表情を見せた。
「えっ? 4号が言ってたのって、さっき処分されてた陰部丸出しの自動販売機おじさんかよ? おいおい、寿司って……もしかして、お稲荷さんの事なのか?」
「ぶおおおおん!!! おいしいいいいい~ん!!!」




