25 六人の少女と自動販売機おじさん
「ブヒイイン……! ブヒイイン……!」
深夜、人のような豚のような泣き声のような鳴き声が聞こえてドアを開けると、ホテルの廊下に4号が腹を出して開脚した状態で転がっており、ブルブル震えながら大粒の涙をぼろぼろこぼし、ヒンヒン泣いていた。
割とショッキングな光景だが、俺の各種耐性が悲鳴を上げることを抑えてくれる。
「4号、どうしたの?」
「マスター、メス豚は……! メス豚は、お腹が空いてしまったのでぇ~す!」
そんな訳がない。この豚人間は、夕飯も我々の全員分よりも多い量を1人で食べ、パンパンに膨らんだお腹をさすって満足げな顔をしていたのだ。
あんなに食べたのに一体どうしてお腹が空いてしまうというのだ…?
「最近、やたらとレベルが上がってるからだと思いまぁす……。レベルが上がると、妙にお腹が空くんでぇす……」
そういえば最近は何故かボトルマスターおじさんを倒しまくってたし、レベルが上ったのかもしれない。今度、ステータス確認をしてみよう。
「しょうがない、食べ物を探しに行くか。もしかしたらこの時間でも食堂がやってるかもしれないし、売店が開いてなくても自販機くらいは動いてるかもしれん」
「ぶぉ~っ!? ぶおおお~ん♡♡ ぶおおお~ん♡♡」
ロビーに到着すると、食堂も売店も閉まっていたが、自動販売機が動いていた。中には簡単な食事が出来る物もある。
「とりあえず、これでも食べてみる? はい、お金」
「ひぃん……美味しそうでぇす!! 良いんですかっ!? 食べても良いんですか~っ!?」
紐を引っ張るとアツアツに変わる簡易弁当や、うどんのようなそばのような謎の麺。あたたまって出てくるチーズバーガー、同じく中でレンチンしてるっぽいカレー……!
様々な食品を次々と取り出し、瞳にハートマークを浮かべながら深夜の暗いロビーでもりもりと食べ続ける4号の姿は割とショッキングな光景だが、俺の各種耐性が悲鳴を上げることを抑えてくれている。
「お、おいひい~いっ♡♡♡ ぶおおおん~!!! ぶおおお~ん!!!」
4号の悦びの声を聞いていると、俺は一体何をしているのだろう……と不安な気持ちになってくる。お金に困らないと言うことは生きることに困らないわけだが、そもそもどういう仕組みで無限にお金を出せるのかわからないし、こんな事が際限なく出来てしまったら貨幣制度が崩壊してしまうのではないだろうか?
「あれぇ? この自販機……お金が入らないし、ボタンを押しても反応しないでぇす……?」
「んウッ! お、お、はううンっ! そこは私のちくびだからな!」
突然、知らない人の声がして驚きそうになったが、俺の各種耐性は本当に役に立つなあ。
「自販機に偽装した格好…… 内側は殆ど裸か…… お前、ボトルマスターだな!?」
「はっはっは、良くわかったな。確かに俺はボトルマスターだが、自販機に偽装し、バッと飛び出して、驚く人の顔を見るのが大好きなのだ」
「やあああっ!! 食べ物ぉん!! 食べ物くださぁい!!」
自販機おじさんのお口にお金をネジ込もうとする4号。
「何と!? ま、待て、……なれ寿司しか無いが、食えるか?」
「ぶおおおおおおお~~~んっ♡♡♡」
どう見ても股間のあたりの隙間から出したパッケージに躊躇なくむしゃぶりつく4号。
「お前さんのモンスター娘は凄いな…… 俺の姿形に怯える素振りも、驚く素振りも見せない。あの寿司はちゃんとした美味しいなれ寿司だが、この状況で出されて、普通は食わないだろう……?」
「ああ、俺も時々不安になるんだ。この子、大丈夫なんだろうか……って」
自販機おじさんから、ボトルマスターが出会うと言ってくるいつものお決まりの言葉が飛んでこない事に気がつく。
「なあ、おじさん……バトルしようとか言わないの?」
「俺はバトルとか嫌になっちゃってさ……モンスターボトルは部屋の金庫にしまってあるんだよね」
「そんな事をして良いのか!? 中にモンスターが住んでるんじゃないの!?」
「住んでるよ。でも俺のモンスターはジャイアントカブトムシの幼虫だから、そんなに世話も要らないんだ……」
バトルを起こせない上にモンスターボトルを隠してある以上、このおじさんが女子中学生に変えられてしまう事もない……!
自己喪失の恐れなく、生涯を大好きな変態行為のしまくりで過ごすことが出来るのだ。
「うん、明らかに変態だが、冷静な判断能力だな」
「ぶひぃん! ぶひぃん! お腹が一杯になりましたぁ~……♡♡♡」




