24 六人の少女と下着泥棒おじさん
近寄ってきた裸の男は、全身にびっしり入れ墨が入った、見るからに強そうなおじさんだった。
「おい坊主……。お前、最近ここいらで名を売ってきてる、新人ボトルマスターだな?俺もボトルマスターだが、バトルするか?」
「してもいいけど、俺のモンスターは今こんな感じですよ?」
目の前には温泉水でお腹をパンパンに膨らませた4号が寝転がっており、1号は何時の間にか湯当たりしたのか、以前と同じくお顔を真っ赤にしてボーッとした顔になって座り込んでいる。6号はサウナを見つけて喜んで行ってしまって、今この場に居ない。
「成程、これが噂に聞く人型モンスターか……? お、おい、このメスガキ、顔が真っ赤だぞ……! 涼しい所に連れて行ってやった方がいいんじゃねえか?」
アドバイスに従って1号を脱衣場の涼める場所まで連れていき団扇で仰いでいると、入れ墨おじさんが良く冷えたフルーツ牛乳の入った瓶を持ってきた。
「売店で売ってた。これでも飲ませてやれ」
「ああ……助かります!」
ボーッとした顔の1号のぷりぷりの女児くちびるにフルーツ牛乳の飲み口を付けてやると、はじめはちゅうちゅうと吸い、徐々に力強く飲み始めた。
「う、うまぁい……! なに、これぇ……?」
「フルーツ牛乳だ。知らんのか?」
入れ墨おじさんが美味そうにビールを飲みながら答えた。フルーツ牛乳を飲み終わり、顔色も大分戻ってきたが、まだ息が荒く、ぼーっとした顔の1号。
「うーん……? こりゃあ、今日のバトルはお預けかな……。またの機会を、楽しみにしてるぞ!」
「色々と、有り難うございました」
俺は普通に頭を下げた。この世界に来てまともに会話が成立したおじさんは、この入れ墨おじさんが初めてかもしれない。おじさんはビールを飲み干すと、売店にコップを返して去っていった。
6号が4号を連れてこちらに歩いてくる。
「マスター、こんな所で如何されたんですか? ……何か良い事でもあったんでしょうか?」
「いやあ、ボトルマスターって、頭がおかしい奴ばかりじゃないんだな。ちょっと安心したんだよ」
「何を言ってるんですか?ボトルマスターは何処かがおかしい人にしかなれないんですよ? あっ、マスターは違いますよ! マスターは……。ええと、その……マスターは…………」
口を濁さずとも、俺は俺がちょっと変人だという事は知っているが……そうだったのか?しかし先程のおじさんは、全身の入れ墨以外には特に問題が無かったように感じたのだが……。
俺達や他の入浴客の脱ぎたてほかほか下着が全て消えている事に気が付いたのは、その後暫く経ってからの事だった。ホテルの監視用魔道カメラには、大変興奮した顔で下着を盗み出している入れ墨おじさんの姿が映し出されており、おじさんは緊急逮捕された。
「ちっ、違うんだ! 俺は変態なんかじゃない! 俺はっ……俺はこの終わりなき戦いに、潤いとぬくもりが欲しかっただけなんだ……!!」
警察ではない謎の剣士集団に拘束された入れ墨おじさんが、ホテルのロビーで自らの行動の正当性を訴える。しかし……!
「一般市民に対して変態犯罪を犯したボトルマスターのボトルは、その場で即破壊である。解っているだろう!? 一刀両断んんんっ!!!」
慣れた手つきで振るわれた剣士の剣が、おじさんのボトルを直撃した。
「駄目だ! やめてくれ~っ!! あ、あ、あああああ~ん!!!!!」
粉砕されたボトルがキラキラとした粒状の光に変わり、おじさんを包み込んでいつも通りの形状変化を始める。ほんの数秒で、おじさんの姿は知っての通りの、セーラー服に身を包んだ、とびっきりの女子中学生に変化していた。
「あれっ……? ここ、何処? 私……誰なんでしょうか?」
「変態処理は以上! 各自、解散である!」




