22 五人の少女とモヒカン軍団おじさん
街に戻ってきた俺達の目に飛び込んできたのは、いかにも悪そうな連中が男を取り囲んでいる、よくある悪のテンプレみたいな姿だった。泣いて懇願する弱そうな男を囲んだモヒカン頭の男達は、躊躇せずに男の財布を奪って立ち去って行った。
「勘弁してくれ! その金が無ければ、おっ母の薬が買えねえんだ!」
大変そうだなぁ、と思いながら立ち去ろうとすると、男が俺に縋り付いてくる。
「た、助けてください!」
「ん……? 別にいいけど……?」
まぁ、助けるのは簡単である。俺はスキルを使って、適当に札束を出して男に渡した。
「薬代だっけ? これで足りる?」
「えっ……あれっ!? いや、そうではなく……」
何故か仰天する男。お金が足りないんじゃなかったのか?
「マスター、このおじさんは、さっきのモヒカン達を倒してくれって言ってるのでは?」
「やだよ、今の俺はまだ子供だよ? 子供じゃなくても、あんなモヒカンに勝てるわけが……」
いやいや?という顔で俺を見つめるレムお姉さん。
「いえ、全然勝てますよ?ボトルマスターって、めっちゃ強いんですよ?」
「そうなの? でも人と戦うとか面倒だし……」
「ククク……! 前後からハメ潰してやろうと思ったが、流石は噂の新人……! 罠には引っかからんか」
突然、男の様子が変わり、自らの頭髪を脱ぎ捨てると、そこには立派なモヒカンが隆起していた。
「俺はモヒカン軍の頭領! わが軍は全員がボトルマスターだ! さあ、お前たち! 洗礼を与えてやれ!」
「モヒーッ!」
戻ってきたモヒカン達全員がボトルに指を突っこんで、発現とか言い出しモンスターをぴょうぴょう出し始めたので、俺も少女達にお願いして適当に対応した。いつも通りの展開である。
「「「「「「「 モヒモヒ、あああああ~~ん!!! 」」」」」」」
モヒカン頭領おじさんの周囲には、彼の部下たちが変化した沢山の女子中学生たちが、あれっ? ここ何処? 私は誰? という顔でキョロキョロしている。
そんなおじさんの目前には、彼の人型モンスターが俺達に向かって傷ついた体で両手を広げ、立ちふさがっていた。彼女は比較的強かったのだが、彼女から漂うめちゃくちゃ美味しそうな匂い!という野蛮な理由で大興奮した4号が、猛烈な勢いで涎を垂らしながら四つん這いで襲い掛かり、今に至っている。
「ぐっ……! あたしは、もう限界です……! マ、マスター、早く、撤退命令を!」
「モンスターごときが、何を馬鹿な事を! 勝手に判断するな!」
俺は別に戦いたいわけではなかったし、積極的に襲い掛かってこないのならどうでも良かった為、荷物から薬箱を出して地面に置いた。
「使うと良い。これに懲りたら、モヒカン軍なんてアホな事はやめて、まじめに生きるんだな」
「みっ……見逃すというのか!? なんという屈辱っ……ぐあああっ!! 耐えることが出来ないぃぃっ!!」
男は自らのモンスターボトルを地面に叩きつけて粉砕し、キラキラの光に包まれて、セーラー服の女子中学生と化していった。
「ふえぇ? あたしは誰? 此処は何処なの?」
「ま、マスター……。ああ、最後までほんとうに心底ダメなマスターでした……。私の人生もこれで終わりですかぁ……」
女性モンスターの周辺に、じわり、じわりと光の粒が集まってきた。光の粒は何故か矢の形状を取り始め、鏃の全てがモンスターに向いている……。
「そういえば、戦闘後に生きたモンスターが残ってるの、何気に初めての経験なんだけど、これってどうなるの?」
「モンスターによって違いますが、このモンスターの場合、契約が切れると一定時間で存在が消滅してしまうようですね」
「うへぇ、そりゃひでえな、あたしらの元々の契約よりキツいぞ?まぁ、今のあたしらなんて、マスターが居なくなったら一体どうなるかすらわからねえんだけど……」
「まぁ、こういう場合は他のボトルマスターと契約すれば消滅を逃れられますよ。ペナルティなどもありません。わりと良くある話ですね」
光の矢に取り囲まれて下を向いてブツブツ言っている女性を、俺は勧誘してみることにした。
「よければ、俺と契約しないか?」
「はっ? それは……ありがたい話ですが、私は重犯罪モンスターです。こんな私を連れていたら、嫌な目に遭うかもしれませんよ?」
「既に毎日が謎の薬による幻覚に取り囲まれた地獄の生活だよ。時間が無さそうだから早くしてくれ。契約の言葉は『ご奉仕するにゃん』だ!」
モンスターボトルに指を突っこんで「ご奉仕するにゃん!」と叫び、俺達と同じく子供の身体に変化して契約が結ばれた彼女にはどうやら最初から名前が無いらしく、とりあえず6号と呼ぶことになった。
「恥ずかしながら、6号と申します。皆さま、何卒宜しくお願い申し上げます!」
地面に正座し、三つ指で土下座を始めながら挨拶する彼女は、一体何モンスターなのだろうか……?




