20 五人の少女とレッツ・ダンシングおじさん
飴や菓子を手に持って闊歩する俺たちにゆっくり近づいてくるおじさん。例によって変態っぽい格好をしたおじさんか?と思ったが、正面から見た感じは普通に身なりの良い格好をしたおじさんだ。
「あれ? 変態じゃない…… ボトルマスターじゃないのか?」
「ん……? いや。吾輩はボトルマスターである」
おじさんはその場でダンサーのようにくるりと一回転する。なんと、おじさんの服は前面しか無く、後ろ半分は素っ裸。回転の勢いで揺れる陰嚢袋が見えた。
「うわあ……! これはボトルマスターだな……!」
「へっ…… 変態だーっ!!!!」
即座に透明化する5号。ぶひょおおおっ!! と言いながら目を離さない4号。3号2号はお菓子に夢中で貧○っちゃま風のおじさんを見ていない。1号はまだ、ぽーっとした表情で、俺の顔の飴をじっと見つめている…。
お姉さんが俺の肩をがっしり掴んで前後に揺らしながら号泣して主張しはじめる。
「う、う、うええええん!! 陰嚢袋ごときが何だって言うんですか! 私なんて無能呼ばわりなんですよおおお!?」
「わかる!」
陰嚢袋おじさんは回転ダンスの途中でボトルに指を突っ込み、やる気満々だ。
「さあ、バトルの時間だ……発現せよ! 吾輩のモンスター、ダァンシング・バニィィ~!」
「呼ばれて、飛び出て、ぴょぴょぴょぴょ~んだぴょん!!!」
飛び出してきたモンスターは、一見しただけでわかる程に高級そうなふかふかのマフラーを巻いているバニーガールだった。
おっぱいがヤバいくらいに大きく、よく見ると体のいたる所に高価そうな宝飾品を付けている。何故か背後には犬が居るのだが、あれって…たしか富裕層が飼うとかいうチベタンマスティフ……?
「あっ! 人型モンスター……! マスター、この相手は手強いですよ!」
俺の耳元で急に女児の声が聞こえて、びっくりして手で存在を確認してしまう。俺の手のひらに伝わってくる、柔らかくて暖かくしっとりした感触…… こ、これは…… 5号なのか!? 確認の為に何度も何度も触ってしまった。
「あ、あ、だめですっ! あっ違っ…… いや…… いいんですけど、その…… 後で1号さんに叱られます~……っ!」
バニーさんは腰についた器具で音楽を流し始め、首、胸、おしりの順番に体をふりふりして何やらリズムを取った後、その場でリズミカルでちょっと変なダンスを踊りだした。
「みんなーっ! いっしょに倒れるまで踊ろっ! レッツ・ダンシングだぴょ~ん!」
ズン! ズン! ズンドコ!! ズン! ズン! ズンドコ!!
踊れっ!! 踊れっ!! ぴょ~んぴょんぴょ~ん!!
なんと!その踊りや音楽に併せて、強制的に俺たちの身体も踊り始めてしまった!
俺たちだけではない。バニーさんの後ろの犬も、陰嚢おじさんも、街の人も、地面を突いていた鳩やスズメまで、みんな同時に踊り始めている。
「先手必勝である!! ダンシング・バニーのスキル『レッツ・ダンシング』は、効果範囲であればどんな強敵でも強制的に踊らせてしまうのだ!! 問題はダンシング・バニーの金遣いが荒く、吾輩の金が無くなってしまうこと!!」
ズン! ズン! ズンドコ!! ズン! ズン! ズンドコ!!
じゃんぷっ!! じゃんぷっ!! ぴょ~んぴょんぴょ~ん!!
「地味にすごいスキルだな……? 顔は自由みたいだが、身体は完全に支配されている……!」
「マスター、目と口が動くならあたちは戦えまちゅよ。ぴ~……っ か~……っ!!」
2号が何か言っているのが聞こえるが、踊りのせいで良く見えない。
「イエーイッ!! ダンス!! ダンス!! みんなで死ぬまで踊うびびびびびびっ……、ぴょ~……っ!!」
楽しそうに踊っていたバニーさんが、たわわな胸を抑えて突然ぶっ倒れ、全身を震わせている。俺たちの体は自由になり、バニーさんを介抱するおじさんの周りに集まった。
「あ、あ…… マ…… マス…… ター……… …… …」
泡を吹き、命の灯が消えていくバニーさんの手を取って、おじさんが涙を流す。
「バニーよ……! これまでよく頑張ったな。運命に怯えるな、吾輩も共に逝くぞ…… あ、あ、ああああ~ん!!!」
バニーさんが消えていくのと同時におじさんのボトルがゆっくりと砕け散り、キラキラとした光の粒がおじさんに張り付いて、その場に現れたのは例のごとく、セーラー服を身にまとったとびっきりの女子中学生だった。
「あれ…… ここは何処? 私は…… 誰?」
俺は真っ先に女子中学生の後ろ側を確認したが、背中や尻が丸出しという事は無かった。残念に思いつつ、見下ろしながら呟く。
「強敵だったな……! しかし、どうして急に発作を起こしたのだろう?」




