02 五人の少女の自己紹介
「えっ? モンスターって……。この子たち、女の子ですよね……!?」
「近づいてよく見てください。特殊な角、けもの耳や尻尾が生えているでしょう? 捕らえられて大幅に弱体化させられた結果が、このみじめな姿なのです!」
確かに、生えている。生えているが、少女達の顔から一切の希望を感じないこの状況は、どう見ても犯罪の匂いしかしない。
着ているのか着て居ないのか分からない、細くて汚い布を体にぐるぐる巻いているだけの少女達は、かなり悲惨な状況で、おそらくトイレは垂れ流しだ……。
「あの……。お姉さん、これ……どこからどう見ても、犯罪なのでは……?」
「何を言ってるんですか!? このモンスター達は、それぞれ様々な犯罪を犯してきた極悪非道の邪悪モンスターなのです。贖罪の機会を与えられただけでも有難い話…… お前たち! 檻から出て整列! 順番に自己紹介しなさい!」
お姉さんの鞭が飛ぶと、檻の出入り口が開く。出てきた少女たちがのろのろと立ち並び、自己紹介を始めた。
「1号、俺はドラゴン。火を扱えるし、空も飛べる」
「2号、雷様。雷を放てまちゅ」
「3号、わたし、大王イカ。墨、吹ける……よ」
「よ……4号、め、め、メス豚でぇす……。何でも食べられまぁす……! お、お、おなかがすいてるんでぇす……!」
「5号、と、透明人間。透明に、なれます……」
うん、そんなことよりも全員の瞳に光が灯っておらず、4号以外は感情が全くこもっていない言葉使いなのが本当に怖くて仕方がない。
4号は4号でとても怖いのだけど……。なんか、もうずっと俺の事を食料を見るような目で見つめている気がするし……。
「あの、すいません、お姉さん、警察に自首されたほうが宜しいのではないでしょうか?」
「ふぁっ!? 違います! 違います! ここは本当に異世界転生の儀式を執り行う神聖な空間なのです! あっ、何なら全員……5人全員と契約でも良いんですよ!?」
焦るお姉さんを無視して部屋を見渡すと、奥にドアがあるのが見えた。こんな犯罪まがいの何かに関わるよりも、あそこまで走って外に出てみよう。
「あれっ!? 何処へ行くのです……? ちょっと待って! そのドアの向こうは!」
制止するお姉さんの言う事を聞かずにドアを開けた。
俺の目に飛び込んできたのは、恐ろしいほど不完全かつ完璧な、全ての結末への道筋。存在する、存在していた、存在するであろう全ての領域に、視線が、意識が、手が届く無限回廊。
「おげええええっ!!!」
頭に入ってくる圧倒的な情報量の密度に、俺はたまらず吐瀉していた。
今ならわかる。このドアの向こうの空間は、何なのかはさっぱり解らないままだが、俺のような一般市民が足を踏み入れちゃいけない領域だ。目から入ってくる情報だけで気が狂いそうになった……。
駆け寄ってきたお姉さんがドアを閉めながら、焦った顔で俺に語り掛ける。
「大丈夫ですか!? このドアの向こうは6次元なのです。人間がどうにか出来るような場所ではありま……」
そこまで言うと、お姉さんが、ぐるんっ!と白目を剥いて、糸が切れた操り人形のようにバタリと倒れる。背後には、手刀を振り下ろしたばかりの1号が居た。