17 五人の少女と飴細工
ホテルを出て、街を散歩する事になった。
この街はボトルモンスターの少女達も初めて来る場所らしく、目に飛び込んでくる様々な物に興味津々だ。先程渡したお小遣いで、好き勝手に色々な物を買い求めている。
「幾ら無限にお金が手に入ると言っても、無職は駄目だな……。何か、仕事を見つけなければならない」
「何を言ってるんですか? あなたは、ボトルマスターという立派な仕事をされているんですよ?」
「そうだね」
俺は、お姉さんの仕掛けてくる洗脳トークには、基本的に「そうだね」「わかる」「すごい!」の3つの返答しかしないことにした。これを言っていれば満足げな表情になるし、正直なところ、いちいち反応するのが面倒くさくなったのだ。
これは以前に会社の先輩が言っていた人間性最底辺の話術だが、まさか本当に役に立つとは思わなかった。その先輩は過労で死んでしまったが、もしかしたら同じように転生したりしたのだろうか?
「屋台がものすごくいっぱいありまちゅ。これに混ざって屋台を出して何かを売れば、商売になりそうでち」
「墨を吐くことしか出来ないけど…… 私にも何か仕事が出来るだろう……か?」
「ぶあああっ!? 何処を向いても美味しそうなものばかりでぇす……! ぶっ、ぶへへへ…… 朝からこんなに興奮してしまったら、夜の卑しい牝豚の身体は一体どうなってしまうのでしょう……!?」
「ひいっ! 人がいっぱい居て、不安です~~~っ!!」
それぞれが自分なりに街を楽しんでいるようだ。
「マスター! ねえねえ、あれ見てくれ! あの屋台、飴を加工して、動物や笛にしてるんだよ! すげえよねっ?」
大浴場の一件以来、態度がどこかおかしい1号が、俺の手を取って飴細工の屋台を指差す。
この世界にも飴細工があるんだな……! 子供の頃は大好きだったが、大人になって食べたことは無かった。大抵、値段が高い事もあったが、これはなんとなく、子供だけが食べられる特権のような食い物だと思う。
「久々に食べてみるか。すいません、7本ください」
「あいよ! 7本はちょっと時間がかかるけど、大丈夫かい?」
形状の指定が出来ると言うので、ドラゴン、雷様、イカ、豚まで頼んだ後に、残り3名の指定に困ってしまう。透明人間とか指定しようがないし……。
「わ……わたし、何でも良いですけど……? あ、そうだ! マスターの顔がいいですね!」
そんな事を主張する5号の事を突然キッ!と睨みつける1号に怯えて、シュン!と透明化する5号。何だ、今の怒り方? 1号は一体、何に怒っていたのだろうか?
何だかんだで残り3本はそれぞれ自分の顔の飴ということに落ち着いて、それぞれ袋を受け取ると、飴細工の技術に興奮したのか、頬を染めた1号が後ろから俺の手を引っ張ってくる。
「どうしたの?」
「あ~…… あのな、俺の飴とマスターの飴、交換しない? って思ってさ。……ダメ?」
モジモジとする1号の態度が、やっぱり何処かおかしい。ビショ濡れ状態での戦闘や長風呂が祟って、風邪でも引いたのだろうか?
自分の顔の飴を食うのは正直どうかと思っていたし、ドラゴン飴は割とカッコよかったので、交換してみた。
うん、ドラゴン飴は普通にカッコいい。何本も生えている長いひげがとても良い。
食べてみると、子供の頃を思い出す懐かしい味がした。子供の頃は色々と自由で良かったな……。いやまぁ、今の俺の身体は子供なのだけど……。
1号は嬉しそうに俺の顔飴を受け取ると、じっと見つめて頬を染め、満面の笑顔。落とさぬよう大事そうに持っている……。




