12 五人の少女と、ぶおおおお~んっ!!
口からよだれを垂れ流し、四つん這いになって豚の丸焼きに突撃する大興奮した4号が、こんがり焼きあがり美味しそうな匂いとホカホカの湯気を放ちまくるイカスミ火豚を前にして、満面の笑顔で巻き起こす、激しい共食い。
「おいひっ…♡ おいひいいいんっ!! あへぇええ~っ♡♡ さ、さ、最高ですうう~っ♡♡♡」
俺たちは、4号の引き起こす食事というか何らかの事件を、ただひたすら見守るしかなかった……。
「ああっ!! おいしく育ってくれて、ありがとうございまぁ~す!! ぶおおおお~~~んっ♡♡♡」
むしゃむしゃ、ぺろぺろ、がつがつ…様々な擬音を発し続ける4号の口蓋内に、猛烈な勢いでおいしそうな豚の身体が消えていった。
よく見るとあんまり武士じゃない、お腹が出っ張っているコスプレおじさんが、地に伏し涙を流して悔しがっている。
「あああっ!? どうしてだ! 何故負けるんだ火豚っ……! あれ程修行したじゃないか……くそっ、なんでお前、そんなに美味しそうなんだよーっ!?」
(ふむ……更に汝のレベルが上がったぞ。やれる事も増えてゆくのだ。今度こそ、ステータスを確認するがよい)
悔しそうな声を上げて涙を流すおじさんのモンスターボトルが砕け散り、キラキラした粒々が舞い散る。その謎の光に包まれていくコスプレおじさん……!
「待ってくれ! 俺にはまだやりたいコスプレがあるのに! うわああっ! あ、あ、あああ~ん!!」
「このおじさんも女子中学生に変わるのか…? とんでもないな、この幻覚は……!」
(おい、汝…我らの声を無視するのは何故だ!? 先人の言うことくらい話半分でいいから聞けばよかろう!? おいっ、聞いているのか汝っ!!)
おじさんを包み込んだ眩しい閃光が強く輝いたかと思うと、すぐに消える。後に残されていたのは、やはりとびっきりの中学生女子だった。ポニーテールを結い上げて、セーラー服を身に纏い、学生カバンを背負っている。
「あれっ?あたし……誰ぇ? ここ……何処ぉ……?」
周囲をきょろきょろと見渡す女子中学生だが、火豚の骨をべろんべろんと激しくしゃぶり、頬を紅潮させて、全身から体液を垂れ流し、目つきなどは完全にイっている豚人間を見て、ヒッ!と声を上げてスタコラ逃げて行ってしまった。
「鳥馬無しで、街までいくんだろうか……? 結構距離があるはずだが……」
まぁ、見えている様々な怪しいものは、殆どが薬物による幻覚であると考えたほうが良いだろう。
今の女子中学生だって、実際にはコスプレおじさんのままなのかもしれない。コスプレおじさんならば、放置でも別にかまわないはずだ。だって、コスプレおじさんだよ……?
「マスター、これ、さっきのおじさんが戦闘開始前に置いてたまま残った荷物です」
5号が大きめのリュックを手渡してくる。折角なので中を覗くと、豚用の餌袋が入っていた。小さい粒を水や牛乳に浸けると数分で数百倍に膨れ上がり、食べるのが大変になる物らしい。
欲しそうにしている4号に背負わせると、カバンから伝わってくる餌の匂いの誘惑を我慢しているのか、頬を紅潮させてプルプル震えている。
「お、重くて、いい匂いで、たまりませぇん……!ぶおっ…ぶおおお~んっ……!」
「さて……お姉さんから逃げても無駄とわかった以上、街から離れても仕方がない」
俺は皆をボトルの自室に戻し、鳥馬に乗ってゆっくり街に戻ることにした。




