113 怪物少女の闘争:準々決勝4回戦 嘘の上級神ウッソ vs 真実の上級女神ウル
真っ先に闘技場に上がってきた嘘の上級神ウッソチームは、前試合があんな感じだった為に、今回はじめてその姿を目にするのだが、なんというか全く特徴のない人たちだった。
いかにも嘘つき! というような怪しげな風袋ではなく、とにかく特徴がない、さっぱり身ぎれいにしている青年という感じだった。
戦士は一人で、こちらも特に特徴のない感じの女性。身ぎれいにしている所は同じだが、本当に何も特徴が無い。こういう見た目にする必要がある人達なのだろうか?
「嘘野郎ウッソの持つ能力はそのまんま嘘なんですが、この嘘の厄介なところは、彼がとんでもない嘘を言う事が判っているのにも関わらず、初動に限りですが、本当の事だと完全に騙してくる事です。ああ、あのクソ野郎が~っ!!」
レム姉さんが青筋を立てながら説明してくれた。要するに、何か騙されたことがあるのだろう。
「とは言ってもよ、嘘は嘘でしかねえだろ? あの兄ちゃんが勝ち進んだのも運みてーなもんだし、あいつ等なら楽勝なんじゃね?」
「いや、ウッソの嘘は、確かに嘘なんだけど、嘘なのに本当になってしまうの。色々と細かい制約や能力の限界はあるみたいだけど、詳しい事までは……」
その時、闘技場の上のウッソが軽く手を叩き、大きな声で叫び出した。
「《神王決定バトルは終了しました!》」
ああ、そうなんだ……と思った。とりあえずこの神様ランドのお土産でも買って帰るか。そういえば、どうやって帰るのかすら分からないけど……。
『あれっ? 終わり……終了で~す! あれれ? 終了……ですよね?』
仲間の怪物少女達や神達も、観客席の八百万の神々達も、皆が一斉に帰り支度をし始めている感じだが、何かがおかしい。
「あれぇ……? 大会、終わったのよね? 帰っていいんだっけ……?」
「なんか変でち。終わるわけがないのに……?」
「ぶおおお~ん……?」
「ああ、わかったぞ……これが、上級神の嘘か。かなりヤバいな……」
強制的に騙されていたのは30秒弱。だが、この会場にいる誰もが完全に騙されていたように見える。
「《今、皆さんが体験した通り、僕の力は誰でも騙せます。頑張れば、余裕で一生騙し通せるのです! どうですか? 誰でも優しい嘘に包み込めるんです。びっくりするくらい強力で、神王に相応しい力だとは思いませんか?》」
「あいつの言ってることは殆どが嘘です! 嘘のはずなのに、ううっ……ずっと騙せちゃうんでしょうか?」
「凄いな……疑うっていう気持ちが全く湧いてこない。チート性能だな……!」
「神の能力って、嘘野郎みたいな一見地味な力のほうが、実は強力すぎて手に負えない事があるのよね。あの子はあれでも善意の塊みたいな性格だから、これまでたいした問題にはならなかったのだけど……」
「なってますよ! 私、あいつに騙されてたんですからね!」
青筋を膨らませ、プンプン怒るレム姉さん。
「ハハッ、どうせアレだろ? 飲み屋で、変なあだ名で呼ばれるのがつら~い!とか言ってたら、《変じゃないぞ、素敵なあだ名だ!》とか言われて、素敵~っ!って感じに騙されて、自ら変なあだ名を……あっ」
ファフニルの軽口が途中で止まり、焦り顔で個人用バリアのスイッチに手をかけている。レム姉さんが怒りでふつふつ沸騰した顔で「は? どうして……知ってるの? ねえ? 何で知ってるのよ?」と繰り返しながら、女神ビームを撃ちそうな格好でにじり寄ってきたからだ。
真実の上級女神ウルは、嘘の上級神ウッソの能力を事前に見抜いていた。これはウルが固有で持つ神の能力を使ったものであり、先の戦いでも有効活用されている。
チーム小屋から闘技場に上がる前に、その情報が明かされた。
「ウッソの能力は、その嘘で何処の誰でも騙せる事です。戦士は嘘の女神で能力は同じですが効果時間が短いです。両者とも嘘を聞いた人数が多いほど、効果時間が減ります。発動条件としては、直接の命令は出来ない、行動を縛ったりも出来ない等がありますが、彼らは当然そんなのを熟知していますからね……」
「ぶお~ん、直接命令されたり、行動を縛られたりしたかったでぇす!」
「神よ、何か、対策はありますか? 耳栓程度なら今からでも用意出来るでしょうけど」
「ウル様と私の女神バリアで、ある程度の遮音は可能ですが……」
「ああ、それなら、俺様にいい考えがあるぜ!」
「「「いい考え……?」」」
皆の顔が不安に包まれる。何しろ、脳まで筋肉製に違いないヨルの考えた、いい考えなのだから。
「おいおい、なんだよ!? いいか、俺様の圧倒的戦闘経験から導き出した回答はな……」
闘技場に上がってきた真実の上級女神ウルチームの様子が、どこかおかしい。
豚人間ラブリーだけは四つん這いでスキップし、ニコニコの笑顔で幸せそうなのだが、他の全員は顔色があからさまに悪く、キリコの師範などは元々白い肌が益々白くなって、まるで蝋人形のようだ。
「なんだ? どうしたんだあいつら? 悪いものでも食ったのか……?」
「まさか、洗脳魔道具の影……響? でも、お尻は光ってない……ね」
「皆、耳に何か付けてまちゅが」
あれは……防音イヤーマフ的な物を装着しているのだろうか?
レム姉さんが指を輪っかにして覗き込んでいる。便利スキルの女神アイで確認しているようだ。
「ん~~……? なんか全員、イヤーマフした上からバリアが張られてるわね。嘘対策で防音なのかしら……でも、バリアの防音性能って大したことなかったような……」
ああ、なるほど、嘘は聞かなければ効果が無いのか。でも、立派なノイズキャンセル機能の付いたイヤフォンでも、人の声って割と聞こえるんだよな……。
『さあ、試合は既に始まっていま~す!』
ウサちゃんの声と同時くらいのタイミングで、口に強烈な閃光を宿し、両手は熱を持って輝き、その爪を真紅に燃えたぎらせたヨルが、物凄い勢いで女戦士に向かって突撃していく。
「《空気が固~くなって、動けなくなってきたんじゃないかな?》」
「《私はあなたのママよ! ママの仲間になって~!》」
ウッソチームの二人がついた嘘にびっくりした。確かに空気が固く、まともに動けない。こんなのでどう戦えというのだ? それに、まさか対戦相手がママだったなんて。
チャーミーのお父さんが出場していたくらいなのだから、この程度は不思議ではないのかもしれないが、実のママを相手に、まさかこんな悲惨な戦いになってしまうだなんて。
……いや。当然、これは嘘だ。
気がつくのにかかった時間はやはり30秒程度だろうか。その間に、自称ママの女戦士は、ハチャメチャな動きのヨルの爪で全身を切り刻まれた上に、強烈なブレスを浴びせられ、悲鳴を上げながら黒焦げになって消えていった。
『なんと、なんと、あっという間の決着! 真実の上級女神ウルちゃんチームが、嘘の上級神ウッソくんチームを破り、準決勝に進出で~す!』
「な……何故です? 何故、嘘が効かなかったのですか? 嘘でしょう……?」
困惑した顔のウッソだが、その質問に答える者は居なかった。今日の戦いは本当に終わったようで、明日からの準決勝戦、最終日の決勝戦に向けて闘技場の整備が始まっている。
「今度はちゃんと終わったのか。……終わったんだよな?」
「あたちに聞かれても……。いや~、嘘の人たちと戦う事にならなくて、本当に良かったでち」
ウルチームの小屋の中で、チームメンバーが疲れ切ってぐったりした顔で、床やソファに倒れ込んでいる。どう見ても、勝利者という感じではない。
「良かった。全員、治りましたね……治らなかったらどうしようかと思いましたが」
「くそが、めっちゃフラフラしやがったわ……。こんなのは、もう御免だぜ……」
「試合が終われば全回復するとは言っても、全員の鼓膜を潰してから戦うって、脳筋にも程があるんじゃ……?」
「確かに賛同しましたけど、ヨルさんだけやれば良かったんじゃないの感があります……」
そんな中、豚人間だけが甘味に手を伸ばし、ご機嫌の嬉しそうな顔だ。
「ラブリー、お前……どうして……」
「ぶおお~ん♡♡♡ 終わりよければ、全て良しでぇす♡♡♡」




