112 怪物少女の闘争:準々決勝3回戦 黒歴史の上級神ヒス vs 超特級女神・極聖マルリリッカ その③
マルリリッカの巨大鈍器に埋め込まれた複数の宝石が光り輝き、その幾つかが細かく砕け散ると、輝きがマルリリッカの全身を包み込み、傷を癒していくのが見えた。
『これは……全自動回復技の類ですか!? それにしても、超特級女神・極聖マルリリッカちゃんが全身に受けていたダメージは、一体何が原因だったのでしょう~!?』
ウサちゃんの何の役にも立たない解説が流れる中、俺の仲間達は好き勝手に飲食しながら語り合っている。
「黒歴史体を攻撃した結果がマルリリッカに反映されていたように見えまちたが……」
「ヒスくんの出す黒歴史は、複製だけど本物と同じ体。そんな複製側の身に起きた何かを、寸分違わず本物側に移すのがヒスくんのスキル【因果応報】よ。今回は、女神ビームのダメージを移された形になるわね」
「なんだそりゃ……? 黒歴史を無視してヒスを攻撃するしかねえ感じなの?」
「でも、ヒスはなんかヤバそうなバリアに包まれて……る。あれじゃ、攻撃できない……よ」
ヒスと瀕死の戦士の姿は、黒い半球状の靄に包まれて、殆ど見ることが出来ない。周囲には黒歴史マリカの連続正拳突きを何とか回避しながらも、攻めあぐねているマルリリッカが居た。
「1に修行、2に修行~っ!!! おいひいれふぅ、うんまいれふぅ~っ!!!」
「や、やめっ……! そんなの、お兄ちゃん達に見せちゃダメ~~~~ッ!!」
辛く苦しそうな表情のマルリリッカと、いつのまにか取り出したカエルの丸焼きをムシャムシャかじりながら、爽やかな笑顔で戦う黒歴史マリカ。
今のマルリリッカという造り出されたキャラクターにとっては黒歴史なのだろうが、俺の目からはそれほど不愉快に感じることは無い。いや、まぁカエルや虫をムシャムシャ食べてるのはグロいのだけど、むしろ、現在の姿よりも正直で良いのでは? とすら思えてくる。
うわああああ~~っ!! マルリリィ~~っ!!
マリカちゃぁぁん!! マリカァァァーッ!!
もう一回撃て~っ!! 女神ビームだ~っ!!
マ・ル・リリィ~~!! マ・ル・リリィ~~!!
「(呼吸音)(呼吸音) マ、マルリリ……! ど、ど、どうしよう……!? (呼吸音)」
「……それでも私は、超特級女神・極聖マルリリッカ。こうなったら、最後の手段を使うね!」
マルリリッカの口から、これまでの歌とは違う歌詞がこぼれ出始める。
マ~! ル~! リ~! リ~ッ!♪
その歌を聞いたマルリリッカファンのおじさん神達が、それまでの各自様々な表情を一変させ、全員が歓喜に満ちた顔に変貌し一斉に動き始める。俺にはさっぱり分からないが、何かを行うお決まりの歌なのだろう。
楽器を持たない者も身の回りの何かを適当に使って演奏を始め、周囲に迷惑そうだが楽しそうに体をくねらせて踊っている。そんな彼らの口が大きく開き、マルリリッカに合わせた大合唱が始まってしまった。
マ~♡ ル~♡ リ~♡ リ~んッ♡
マぁ~♡ ルぅ~♡ リぃ~♡ リぃ~んッ♡
マぁ~~♡ ルぅ~~♡ リぃ~~♡ リぃぃぃ~~~んッ♡
「……ああ、これは、完全に地獄の光景だな……」
「言ったとおりでしょう? ここからも地獄なのです!」
大ピンチなの♪ だからお願い♪
愛の力、くださ~い♪
「「「 マルリリッ♡ マルリリッ♡ 」」」
愛して♪ 貴方のマルリリッカ♪
「「「 マルリリッ♡ マルリリッ♡ 」」」
たくさん愛して♡ 貴方のマルリリッカ~♪
お兄ちゃん、大好き~♡♡♡
もはや何を言っているのか聞き取れない凄まじい大歓声と共に、おじさん神達がマルリリッカに向けて両手を開くと、マルリリッカの周囲に花びらが濃密に舞い散り始め、内側が見えなくなった後、内部から激しく発光し、沢山の光の筋が漏れ出始める。
おじさん神達が感激に打ち震え涙する中、闘技場を閃光が包み込み、それが消えた後に残っていた物は、なんと……子供向けの番組に出てくる戦闘ロボット、としか言いようのない巨大な人型兵器だった。
「えっ、なにこれ、こんなのアリなの!?」
とにかく、でかい。全長は50メートルくらいあるのではないだろうか?
マルリリッカの衣装と同じように、各所に無数のリボンが取り付けられてはいるのだが、その基本となる形状は何処からどう見ても男児に大人気のスーパーロボットだ。
全身の各所には赤くて巨大な円型の何かがくっついていて、あれを投げたり盾にしたりビームを出したりするのだと思われる。
「これはマルリリッカの最終兵器よ。ボトルモンスター扱いで持ち込んでいるのだと思うけど、以前の大会で出したものとは桁違いの大きさね。反則寸前じゃないのかしら……?」
「す……すげえっ……!! デカすぎだろ!? こんなの、初めて見るぞ!?」
「ふわあああっ!? 固くておっきくて、スゴ……い!!」
「ぶおおおお~んっ!? つやつやに黒光りしていまぁす!!」
「幻影では無いのですか!? こんなのが攻めてきたら……ど、ど、どうなっちゃうんですか!?」
いや、実際こんなのと戦う事になるとしたら、一体どうすれば良いのだろう。
見た目の巨大さだけではなく、その動きの素早さも恐るべき巨大ロボットが、両手を振り上げてガッツポーズを取った。ロボット本体の見た目は一応セーフだと思いたいのだが、これは流石に色々な意味でヤバいポーズである。何しろ、アレの見た目そのまんまなのだから。
「ねえ、あのポーズって、胸から強烈なビームを出す前振りなやつ?」
「えっ? ミライくん!? どうして知っているんですか!? 仰る通り、あのポーズの後に光り出した胸から、何でも溶かして爆発させるビームを発射します!」
「確か、ガッツポーズの後に技の名前を叫ぶのよね……? なんだっけ、ブレストなんちゃら……」
だが、いくら凶悪な破壊力を持ったスーパーロボットの攻撃でも、ヒスの【因果応報】で自らに攻撃の結果を転嫁されてしまえば無意味なのではないだろうか? もしや、転嫁される前に全てを破壊するつもり?
しかし、結局、色々な意味で危険な巨大ロボットの攻撃が始まることは無かった。突然、屈服していた豚人間達が消え失せ、黒歴史の上級神ヒスの周囲を覆っていたバリアが消え、係員によってヒスチームの二人の死亡が確認されたのだ。
死んだ二人は、手を握り合っていた……。
『残念ながら、あっけない結末となりました……! 超特級女神・極聖マルリリッカちゃんチームの勝利で~す!』
死者復活広場とやらに移動しているのだろうか? スゥ……と消えていく二人を見下ろしながら、手に持ったヘビの丸焼きを口に運ぶ少女。
「残念、修行が足りなかったんですね! まぁ、蘇った後は、1に修行、2に修行の毎日です! むしゃむしゃっ! うんめぇにゃあ!!」
「ちょっと!? なんで消えないのよ~!? これじゃ全然、勝った気がしないんだけど~!?」
ヒスが居なくなっても全く消える気配のない黒歴史マリカと、それを押さえつけようと必死のマルリリッカ、それと仁王立ちの巨大ロボと、とびっきりの女王様中学生を残して、準々決勝3回戦は終了した。
「ぶおおおお~ん!! ファーザーの戦い、チャーミーはしっかり見届けました~~っ!!」
本当に観ていたのだろうか? 試合開始前にチャーミーの目前に信じられないくらい大量に並んでいた豚料理は、この短時間の間に全てが跡形もなく骨まで消えている。食べ過ぎでまん丸く変形したチャーミーの手や口元は、料理から染み出したラードでピッカピカのヌルッヌルだ。
「うん、まぁ、今回も地獄だったね……」
「でしょう? まだまだ地獄は続くんですよ!」




